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23 瓦解の音

 大会5日目。今日で、本戦も準々決勝まで終了する。3年生にとっては、今日の試合結果で軍の推薦入隊できるか否かが決まるわけだ。今日は試合に臨む姿勢というのが1回戦の時に比べて違うのは間違いない。 

 深夜にアリサの件でゴタゴタがあったものの、切り替えて大会に挑むしかない。

 リオンは眠い身体を無理やり起こす。

 「・・・アリサずっと起きてたのか?」

 リオンの視界には椅子に座り、本を読んでいるアリサの姿が映る。普段から、アリサがリオンよりも早く起きるなんてことはないので、寝ていないのだと推察する。

 「ええ。寝ている間は魔力は溜まっていく一方だから。」

 寝ている間は、魔力を消費することは基本的にできない。寝ていると、魔法を発動するのに必要な魔方陣を展開することが出来ないからだ。

 アリサの背中にある魔方陣のように、身体に魔方陣が刻まれていれば常に発動できる。

 では、アリサも魔力を消費できる魔方陣を身体に刻めば解決できるのではと思うかもしれない。しかし、それはアリサにとって無理な話なのだ。

 魔方陣を崩さない必要がある。例えば、ペンとか身体に魔方陣を書いたとしても、魔法を発動することはできる。ただ、その魔方陣に一切の不具合があってはいけない。ペンで書いた場合、少しでも滲んでしまえば終わりだ。

 だからといって、崩れない方法で魔方陣をアリサが書くことはできない。そうしてしまえば、アリサの身体には常に魔力の増加と減少が同時に発生してしまう。つまり、アリサにとって必要な潤沢な魔力というのが失われてしまうことになる。

 だから、アリサは自分の身体のリスクを負ってでも、自分で魔方陣を展開し魔力を消費する必要となるわけだ。

 「大丈夫か。やっぱり大会棄権した方がいいんじゃないか?もう大体的に魔力を消費できないんだし。」

 本人が大丈夫と言っても、リオンはアリサのことが心配なのだ。

 「無理して出場するなら、即刻リタイアでいい。初めから2対1でも俺は勝てるからさ。」

 「大丈夫よ。大体的に魔法が使えない以上、私が消費に使える魔法は、身体強化魔法と魔力探知のみ。だから、リタイアしてもしなくても、魔力消費という観点では変わらないわ。」

 「そうか。」

 リオンは一抹の不安を抱えながらも、アリサのことは本人にしか分からないので、余り深くは言わなかった。

                       ♦

 アリサの一連の騒動は他校に広まることなく、練習場のルール変更のみが各校に伝えられ、何事もなかったかのように大会は進行していく。

 リオンたちの2回戦。本来なら圧勝することはない相手だった。しかし、深夜の出来事のせいで、少し苦戦を強いられることになる。

 原因はリオンの集中力不足だ。戦闘中でもアリサのことが気になってしまい、戦闘中でもアリサの方をチラチラと見てしまう。

 アリサがいつ魔力過多になってしまうか分からない。いつなってもおかしくない状況に、リオンはアリサから目を完全に切ることができない。

 戦闘に集中して早期に決着をつけた方がいいのは分かっている。でも、目を離した瞬間にアリサが・・・。リオンの思考が汚染される。

 まあそれでも、勝ててしまうのがリオンの圧倒的な実力の成せる業ではある。戦闘で相手から視線を外す。それは最もしてはいけない行為だ。相手を見ないということは、相手の攻撃をすることにも、防ぐことも難しくなる。

 特に戦闘速度が上がれば上がるほど、その行為によるリスクは大きくなる。

 勝てば勝つほど相手が強くなっていく、トーナメント形式により、リオンの戦いはどんどん厳しくなっていく。

 3回戦。結果だけを見ればリオンは勝利した。しかし、戦闘はとても良いものではなかった。それの悪さを象徴したのが、リオンの防御だ。リオンは今大会初めて敵からダメージを受けてしまった。

 明らかに集中力不足が原因だ。特にアリサの魔力は時間が経てば経つほど、溜まっていく。その分、魔力過多になるリスクは上がるので、リオンの集中力は削減されていく。

 そして、アリサの動きも少しずつではあるが悪くなってきている。これは寝不足が原因だ。リオン程ではないにしろ、寝ていないと集中力は削られるし、体力的にも厳しいものがある。

 それでも、アリサの役割である時間稼ぎは達成していた。ただ、アリサも今後どんどん万全の状態からかけ離れていくことになる。

 そんな状態で迎えた準々決勝。万全ではない状態にしても、やはり圧倒的な実力を持つ者にはハンデにしかならない。

 3回戦よりもさらに苦しい戦いにはなったものの、見事に勝ち進むことができた。

 「とりあえず、今日はこれで終わりか。」

 リオンは試合終了後、すぐさま自室に戻りベッドに飛び込む。今日は流石に心身ともに疲弊した。

 「リオン。試合中に私のことを気にし過ぎよ。私は大丈夫って言ったでしょ。」

 アリサもリオンの試合での集中力の欠如の原因は分かっていた。殺し屋を経験してきたアリサにとって、集中力の欠如、戦闘中によそ見をする行為、それがどれだけ危険なことなのかは理解している。

 「でも・・・」

 アリサの言いたいことは分かる。次の準決勝の相手。いくらリオンでもよそ見をしながら勝てる相手とは思えない。それに、今日のアリサは魔力的には問題なさそうではある。リオンには正確な魔力探知ができないので、状況はアリサの外面からしか分からないのだが。

 「リオン。ここまでやって、負けたら何のために今日勝ったのか分からないでしょ。」

 「・・・そうだな。」

 アリサの言う通り、次の対戦相手は今日のような戦いをしていては勝てない。昨日、今日と明日戦う第一シードで今回の優勝候補のペアをみたが、明らかに他の生徒とは別格だ。

 今回の本戦に出場しているペア計128名を個人能力で順位付けした時に、1位は当然リオンだとして、相手のペアは2位、3位の実力を持っているのは間違いない(リオンの独自分析参照)。

 要は、ちゃんと戦闘に向き合わねば負けるということだ。

 大会5日目は終了。本戦もベスト4まで決まり、明日には優勝が決まる。残った生徒は全て強者のみ。明日は今日以上の熱戦になるのは間違いない。

 リオンは魔力を消費するために徹夜のアリサを傍らに、ぐっすりと睡眠をとることにした。

 ちなみに、リオンの学校の戦績は、アルトがベスト8まで残り、見事軍への推薦入隊の権利を手に入れた。

                       ♦

 大会6日目。この日が一つの分岐点となる。

 「おはよう。」

 リオンは目を覚まし、実質2徹目のアリサに声をかける。

 「・・・おはよう。」

 やはり、アリサは眠たいのだろう。リオンの挨拶に反応が少し遅れる。その証拠にアリサの目元に大きなクマがある。

 「体調は・・・大丈夫なわけないか。」

 睡眠不足はそれだけ、体力、集中力の低下につながる。今日の準決勝。参加するだけで精一杯だろう。

 「大丈夫よ。戦闘的には役には立たないけど。」

 「無理はしなくていいからな。」

 アリサは棄権しないだろうけど、一応棄権も視野に入れるよう示唆しておく。

 「大丈夫よ。」

 アリサからは同じ文言しか返ってこない。リオンにはそれがこれ以上の言葉を発する気力がないようにしか見えなかった。

                       ♦

 準決勝1試合目。リオンたちの出番だ。リオンにとって、試合時間は早ければ早いほど、終了時間も早いに越したことはない。 

 それだけ、アリサの魔力消費できる時間が早まるわけだから。

 とはいえ、決勝開始の時間は決まっているので、準決勝を早く終わらせる必要はない。ただ、早く終わらせて、少しでもアリサの負担を減らしたいところではある。

 試合会場に入場し、対戦相手と向き合う。

 「リオン・キングスフォード。お前の実力は認める。私たちの優勝に一番脅威なのは間違いない。しかし、昨日のような戦いでは勝てんぞ。」

 対戦相手の一人がそう忠告してくる。

 「わざわざどうも。」

 相手も優勝を目指すとはいえ、リオンに実力で勝ちたいのだろう。不甲斐ないリオンに勝っても、喜びは少ない。

 大会だから、もちろん結果を重視する者が多い。しかし、ベスト8以上に残り軍の推薦入隊を決めているので、大会出場の目的を達成していることになる。

 なら、全力で戦い自分の力を出し切りたいと考える。特に今回の対戦相手に限れば、全力を出す必要がある相手はリオンしかいない。

 そんなリオンがまともに戦わないことは避けたいのだろう。

 「試合開始。」

 準決勝の開始の合図。

 リオンは早速先制攻撃を仕掛ける。この試合、しっかり集中して最速撃破を狙った方がいいと判断した。

 ただ、いくら戦闘に集中したとしても、アリサのことを完全に頭から抜けることはできない。だから、気休め程度ではあるが、リオンは剣術戦では意味がない魔力探知を使うことにした。

 魔力探知の精度自体は高くないが、明らかな異変は分かる。それで我慢するしかない。

 ここで、集中せずに負けたら、アリサの徹夜の頑張りの意味が無くなる。それだけは避けたい。

 リオンの洗練された攻撃は、多少の集中力の欠如で変わるものではない。それだけ、幼少期からの積み重ね、身体に動きが染み込まれている。

 ただ、相手も流石の優勝候補。防戦一方というわけではない。リオンの動きにも一切隙がないわけではない。それに、リオンの動きは多かれ少なかれ研究されている。初見の相手よりは強くてもやりやすいところがある。

 (攻撃が決まらない。)

 相手が強い。そんなことは分かっている。でも、少しでも早く勝負を決めたいリオンにとって、心の僅かな隙間に焦りというのが生じてくる。無意識的に。

 それでも、リオンは持ち前の戦闘速度で攻撃の手数は勝っている。そのうち、相手の反撃の手数が減るはずだ。

 たとえ当たらなくても、リオンは攻撃を続けるしかない。それしか勝ち筋がないのだから。

 戦いが長引くにつれ、リオンの攻撃の手数が減っていく。

 相手がリオンの動きに慣れてきたこと。リオンの攻撃はものすごい速度に流れるような攻撃。それによって、相手が対応する前に倒すというのがリオンの勝ちパターンだ。

 実力差があればあるほど、その攻撃は有効だ。特にリオンが今まで戦ってきた相手は、リオンと比べて2つも3つも格下なわけだ。だからこそ、戦闘が長引く前に倒せる。

 しかし、今回は相手が強い。もちろん、実力を見ればリオンの方が上なのだが、少なくともリオンの先手攻撃に耐えうる実力がある。そんな相手に今までと同じ攻撃が通用するはずがない。

 次第に戦闘のペースがリオンから相手に移っていく。リオンの攻撃の手数が減り、防御に回る場面が多くなってきた。

 相手もいよいよ本腰を入れてきたわけだ。

 (このままじゃまずいな。)

 流石にリオンもこのままでは、戦闘の主導権を握られ、負ける未来が読める。

 (・・・しょうがないか。)

 リオンは戦況をリセットするために一度距離を大きくとる。

 (少しくらいなら、本気出しても構わないか。)

 リオンは相手の実力を見て、自分の出力を上げることを決意する。攻撃の出力を上げると、相手に怪我を負わせてしまうリスクがある。

 そもそも、殺し屋を一撃で殺せる実力があるリオンにとって、相手を殺すこと自体は容易だ。しかし、何度も言うようにこれは試合であり、殺し合いではない。だから、リオンは自分の力を制御していた。あくまで、試合用の出力の中で全力を出していたわけだ。

 実際、それまでの試合はそれで事足りたわけだし、今回の相手も時間さえかければ、今の出力でも勝てはするだろう。

 ただ、今はそんな余裕がない。

 「悪いけど、ここからはもう手加減はできない。怪我はするなよ。」

 「っ。」

 リオンのセリフから漂う覇気に相手は警戒する。

 リオンの攻撃。先ほどまでと比べ物にならないくらい速くて重い。速度で見れば大体2倍。しかし、それは客観的にみた時の速さであり、対戦相手から見た主観的な速さだと3倍以上に感じる。

 相手はリオンの動きに対応できない。急なチェンジオブペースに混乱しているというのもあるが、単純にリオンと同速度を出すことができない。

 (これがリオン・キングスフォードの力か。)

 3年生である自分。優勝候補の立場にある自分。そんな自分でも、追いつける見込みがない程の実力差。これが選ばれ者の力。今後、この国を率いていく者の実力。

 その一旦が垣間見えた。それだけで、今日対戦した価値がある。

 「これで止めだ。」

 リオンが止めを刺そうとした瞬間に、魔力探知が異常な反応を示す。

 「アリサ。」

 リオンはアリサの方を向く。そこには、頭を抑えながら倒れているアリサの姿があった。

 

 

 

 

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