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22/25

22 本戦開始

大会3日目の夕方。お待ちかねの本戦のトーナメント表が公開された。とは言っても、リオンがそのトーナメント表を見たところで、特段何か変わるわけではない。

 優勝を目指すリオンにとって、誰が相手でも関係ないというのもあるが、選手の名前を見ても実力というのが分からないからだ。

 もちろん、リオンが以前に社交界の場で会った者もいるにはいる。しかし、学校に通うことで実力が上がっていると考えるの妥当だ。そうなると、過去の情報なんて何の意味ももたない。

 そのため、リオンはジンに情報を聞くことにした。別に聞かなくても勝てるとは思うが、油断大敵という言葉があるように、準備を怠ってはならない。

 「まず、リオン君には本戦のトーナメントについて説明しよう。」

 本戦の目玉と言えば、繰り返し言われているベスト8に入れば、軍への推薦入隊が認められることだ。そのため、各選手ベスト8を目指して切磋琢磨してきたわけだ。

 ただ、軍としてはトーナメント参加選手のうち、上位8名が推薦入隊してくれることが好ましい。だから、前評判が高い上位8組のペアはベスト8までに当たらないよう組み分けられている。

 まあ、簡単に言うとシード権というわけだ。

 「それで、その前評判というのは、過去の大会結果が反映される。つまり、リオン君がどんなに強くても1年生はシード権を得れないわけだ。」

 ジンはリオンの実力はこの本戦においても指折りのものではある。単純な実力でシード権を得られるなら、確実に得ることができる。

 「そのシード権だけど、僕たちの学校からもアルト君のペアは獲得しているね。」

 アルトのペアは新人戦ベスト4。2年生の本戦は1回戦で敗北しているが、そもそも、2年生で本戦に出場できるペアというのは少ないので、シード権獲得の評価の対象となる。

 「アルト先輩のペアがですか・・・。」

 剣術大会に向けた特別授業。その最後に直接戦ったが、正直言って強くなかった。もちろん、リオンが以前戦った時に比べて確実に成長していることは間違いない。

 「リオン君が大会で脅威になる相手は、準決勝であたると思われるペアだね。」

 ジンがリオンの優勝を阻むペアがあるとすれば、南西学校の1位ペアだと考える。そのペアは1年生新人戦優勝。2年生の本戦でもベスト4と好成績を残している。順当に成長していると仮定すると、優勝候補間違いない存在である。

 「あのペアですか。」

 リオンもそのペア二人のことは知っている。社交界で名の知れた実力者だった。ただ、ペアのどちらともリオンは勝ったことがある。

 今のアリサでは敗北するだろうから、リオンは1対2の状況を強いられることは必至。ただ、そんな状況になってもリオンは勝てると踏んでいる。

 そもそも、格上を倒せる連携というのは、連携に練度、精度が求められる。ユウト、カイトが特別なだけで、完成度の高い連携を使ってくると思えない。

 剣術学校の3年間、ずっと連携に力を入れているわけではないからだ。

 それでも、個々の能力が高ければ高いほど、連携の完成度から足りなくても、連携の力は上がる

 後は、リオンが二人の強さを上回っているのか。おそらく、大丈夫だとは思うが、明日の試合の様子を見て判断したいところだ。

 本戦は新人戦と違い、自分の剣術に磨きをかけてきた上級生たちの晴れ舞台。1回戦でも、新人戦ほど実力に差がでるわけではない。

 少しでも実力の一部を知ることができれば、対策を講じれなくもない。

 それに、相手側のリオンの対策をどれだけしているかも不明だ。本戦、リオンは確かに優勝候補ではある。しかし、新人戦の時と違いリオン一強というわけではない。他にも何ペアか強いペアが存在する。

 だから、正確な実力が未知数のリオンよりも、過去大会でデータがある他の優勝候補の方が対策はしやすい。

 リオンには初見殺しほどではないが、有利なアドバンテージがあるのは間違いない。

 「優勝目指して頑張ってね。僕もできる限り力になるから。」

 「先生に言われるまでもないですよ。」

 これにて作戦会議は終わる。

                       ♦

 次の日。会場では既に本戦の試合が行われていた。リオンも観客席で試合を観戦する。その理由は個々の対策というよりは、本戦の選手がどれだけの実力を持っているかを確認するためだ。

 ジンの言うように、リオンが本戦で優勝するための一番の障壁は、準決勝で当たるであろう優勝候補。ただ、その前に3回トーナメントを勝ち進む必要がある。そこで負けることはないが、想像以上に体力等を消費して、万全の状態で臨めないという可能性は十分考えられる。

 そこで、敵情視察というわけだ。この本戦、1年生での出場はリオンのペアとユウトのペアの二組のみ。出場者のほとんどが上級生というわけだ。

 そして、上級生は1年以上学校での訓練をしているだけあって、個々の実力は高い。今1回戦で見れるだけでも、最低でもユウト並の実力はある。

 (やっぱ経験の差か。)

 学校にいれば、同年代での模擬戦の頻度が違う。学校に入るまでは仲間内や社交界での模擬戦のみ。仲間内だと、互いの戦術が分かっているから停滞するし、社交界の開催は数ヶ月に1回とかだからだ。

 その分、学校だと毎日戦えるし、生徒の数がそれだけ経験に変えることができる。実力が拮抗している場合、経験は非常に生きる。

 「そろそろだな。」

 もうすぐリオンたちの試合の番だ。リオンたちは席を立ち控室に行く。

 「アリサ、今日からは好きに戦ってもらっていい。まだ、自分のスタイルを実戦で試すには早すぎたかもしれないし。」

 「そう。なら、好きにさせてもらうわ。」

 リオンは新人戦の決勝を見て、アリサにどう立ち回りをしてもらうべきか決めかねていた。アリサが敗北しようが、リオンが勝つことに変わりはないが、今スタイル確立に固執する必要もない。

 むしろ、スタイルに拘りすぎて、変なスタイルになっても困る。

 本戦1回戦。リオンたちは難なく勝利した。

 リオンは言うまでもなく、上級生を完膚なきまでに叩きのめした。出力も大して出していない。ユウト、カイトの連携の時の方が苦戦したくらいだ。

 アリサもリオンのスタイルの模倣で試合を乗り切った。敵を倒せたわけではないが、リオンが倒すまで耐久することはできた。

 それだけすれば、後はリオンが倒すだけ。リオンの鮮やかな剣技には上級生ですら対応できない。

 その要因に、リオンの予想の中にあった対策不足というのがある。相手はリオンの動きがほぼ初見といった感じで、後手後手になっていた。いくら、リオンの新人戦を見ていたとはいえ、数日で対策できるほど、リオンの剣技は甘くなかったということだ。

                       ♦

 その後も1回戦は順々に進んでいった。アルトのペアを含めシード権を持つペアは順当に駒を進める。

 リオンたちの学校の生徒はリオン、アルトのペアともう一つのペアの計3ペアしか次に駒を進めることはできなかった。

 1回戦で半分が消えるトーナメントにおいて、8分の5が消えたとなると、確率的には負けている。まあ、剣術においての運要素というのはそこまでなく、実力がものをいう。

 つまり、単純な実力不足だ。ただ、それはしょうがないことではある。

 まず、学校に実力者にそう多くない。上級生はアルトの1強。アルトの相方でさえ、アルトの足元くらいの実力しかない。

 そうなると、生徒間での研鑽の程度が低くなってしまう。特にアルトみたいな頭が一つ抜けている生徒にとっては、練習相手がいないに等しい。

 授業中だと、教師が練習相手になることもあるが、その頻度は高くない。やはり、教師はアルト一人だけを優遇することはできない。学校という機関の目的は強い生徒を生み出すことではある。ただ、一人の最強を作るというよりは、皆を一定以上の水準にまで強くすることだ。

 学校を卒業し、軍やギルドに就職する中で、弱い人材はいらない。もちろん、新人とだから、高い実力が要求されるわけではない。それでも、最低限味方の足を引っ張らない人材を欲するわけだ。

 そのため、学校では実力が足りない生徒を底上げすることが目的だ。だから、アルトのような、軍に入隊しても問題ないであろう生徒というのは、放任されることもしばしばある。

 だからこそ、自主練、生徒同士の鍛錬が実力の向上に重要になってくる。そして、その時に実力が近しい者が必要なわけだ。

 他校の一位のペアとかだと、同程度の実力の者が予め同じ学校に入学するような取り組みをしている。そういう意味では、アルトの努力不足と言えばそうなのかもしれない。彼ほどの実力なら、強者からの誘いもあっただろうし。

 アルトの話を置いておくにしても、実力が近しい、それも高レベルな水準で近しい者が多い方がいい。リオンの学校の上級生は、個々の水準がそこまで高くない。だからこそ、他校に比べて研鑽の質は落ちるし、その分実力に差が出てしまうわけだ。

 しかし、この状況はリオンの学校に限った話ではない。学校間での生徒の質には差がある。8つある剣術学校があるが、当然強い学校と弱い学校に別れる。

 剣術学校に入学する生徒は大きく二つの選択肢に迫られる。

 一つは強い学校に行くこと。先ほど述べた点から、自己成長に繋がりやすい。自分の実力を上げたい者にとっては最適な環境となるだろう。

 しかし、実力が高い分、剣術大会の本戦に出場できる可能性というのは減ってしまう。自分の実力に自信があり、本戦に出場できるという者、単純に自分の実力をつけたい者。この者たちにとっては強い学校に入学するメリットはある。

 結局、本戦でベスト8に残らない者が軍に入隊しようと思ったら、入隊試験を突破する必要がある。そのために必要なのは実力。

 もちろん、本戦出場という実績に加点はある。ただ、実力がある者はその加点を大きく上回る点数をとることもできる。

 実際、本戦に出場した選手よりも、強豪校の未出場の生徒の方が強いという話もあるくらいだ。

 もう一つは逆に弱い学校に行くこと。ある程度実力があり、本戦出場を目的とする生徒にはもってこいの場所だ。実力はあるが、強い学校では本戦出場できるか危うい生徒にはメリットになる。

 本戦には軍やギルドも視察に来ているので、選手として出場するだけで名前を覚えてもらう機会である。

 1回戦負けであったとしても、本戦出場にはプラスの印象が大きく作用する。

 このように学校選びというのは一長一短なわけだ。

 ちなみに、リオンが今の学校を選んだ理由は単純。家から近かったから。リオンの強さは環境に左右されるものではない。絶対的な強さというのはそういうものだ。

 話はが少し逸れたが、大会4日目、本戦1回戦をリオンは無事突破した。1年生で1回戦を突破したのは、リオンのペアのみ。

 ユウト、カイトは惜しくも敗退した。原因は明白。個々の力がまだ上級生相手には通用しない。二人の連携は確かに上級生に通用するかもしれない。しかし、連携を行うにはまず一人を倒す必要がある。それが今の彼等にはできない。

 ただ、実力自体はかなりのものではあるので、来年以降に期待だ。

 こうして大会4日目は無事に終わると思っていた。

                       ♦

 大会4日目の夜。正確には0時を過ぎているので、正確には大会5日目ではあるが。

 大会期間は夜になると、教師、生徒を含めて就寝している者がほとんどだ。生徒は体調管理のために。教師も次の日の準備のために早く寝る。

 そんな中、一人目を覚ましている者がいた。それはアリサだ。現在の時刻は午前2時。完全に全員が寝静まる時間帯だ。

 アリサは部屋を出て、宿泊施設に隣接にしている練習場に足を運ぶ。

 「やっぱ夜はいいわね。孤独ということを忘れさせてくれるから。」

 夜、それも深夜。周りには人一人いなく、辺りは暗く、道を照らす街灯の光くらいしかない。つまり、世界には自分しかいないと錯覚することができる。

 そう考えると、孤独という感情は消え去る。だって、自分以外に人はいないのだから。

 「感傷に浸ってないで、さっさと終わらせましょ。」

 アリサが深夜に外に出た理由。孤独感を紛らわせるためではない。アリサの身体に溜まった魔力を消費するためだ。

 夜に行う理由は周りを巻き込まないためだ。アリサは魔力を消費するために、一気に大量の魔力を消費できる炎の輪舞フレイムロンドを放つ。アリサは魔力の扱いには慣れているが、万が一魔法の射程圏内に人が入ってしまえば、怪我をする可能性は大いにある。それを避けるためだ。

 「ある程度調整してっと。」

 人を避けるために、魔法を消費する時間帯は基本的に夜になる。そのため、夜に大量の炎魔法を一気に消費すれば、目立ち人が集まってしまう可能性がある。色々めんどくさいがこれが最適なのだ。

 「炎の輪舞フレイムロンド

 アリサは魔力を消費するため、出力を抑えた魔法を放つ。

 と、その時だった。

 「そこのお前何をしている?」

 3人の男がアリサの魔法を目撃し、近寄ってくる。服装から考えて、大会の運営者か警備員と言ったところだろうか。いずれにしろ、アリサにとってはよくない状況だった。

 「ちょっと気分転換に散歩をしていただけよ。」

 アリサは無駄だと思うが、適当な言い訳をする。

 (うかつだったわね。)

 アリサは魔法の調整に集中していて、魔力探知を怠っていた。それに、深夜に誰もいないという慢心が招いたことでもある。

 「確か、お前は本戦出場者だったな。もしかして、夜中に他校の生徒に奇襲をかけるつもりだったんじゃないだろうな。」

 「そんなことするわけないでしょ。」

 あらぬ疑いをかけられたアリサは否定をするも、それが事実ではないことを証明することは難しい。何せ、深夜に一人で魔法を放っていたのだ。アリサの事情を知らない者からしたら、不審な行為であることは間違いない。

 「とりあえず、これは大問題だ。直ちに教師とペアの相方を含め話あう必要がある。

 一人の男がそう言うと、あたかも予定されていたかのようにスムーズにことが進んでいった。

 そして、運営本部にジン、リオン、アリサの3人が呼ばれそこで話し合いが始まる。

 運営側の意見としては、危険を行為したアリサを大会出場停止処分とすること。本戦はペア戦であるため、アリサが出場停止となると、必然的にリオンも大会に出ることが出来なくなる。

 ジン側の意見としては、練習場の利用時間に制限はないこと。練習場での魔法の使用を禁止していないこと。この2点からアリサの行動に特に問題がないことを主張する。

 互いの意見は相反するものであり、平行線状態が続く。

 そんな中、リオンが一番気になることは、アリサの魔力についてだ。リオンはこの話し合いが始まる前に、概要についてはある程度聞いたが、その話だとアリサは魔力を全然消費できていないことになる。

 魔力の消費をする必要があるアリサにとっては、まずい状況だとリオンは考える。

 「アリサ、身体は大丈夫か。」

 リオンは小声で話す。ジンには悪いが、リオンにとって大会の出場云々のことよりも、アリサの身体のことの方が心配だ。

 「大丈夫よ。私は余裕をもって魔力消費してるから。」

 アリサは嘘は言っていない。魔力自体はまだ余裕はある。しかし、それは今後ちゃんと魔力を消費できたらの話しではある。例えば、大会期間中大量に魔力消費ができないとなればまずい状況にはなる。

 (さて、どうするか?)

 運営とジンの話を聞いている限り、話が一向に進む気配がない。別にリオンにとって、大会の優勝というのはあくまで、通過点にしかすぎず、別に絶対に達成する必要はない。

 なら、ここで一番重要なことはアリサのことだ。リオンにとって一番大切な人。いずれ倒したい相手でもあり、自分の好きな人。そんなアリサをこんなしょうもないことで失ってはならない。

 では、ここでリオンのとる行動は一つ。

 「大会はここで棄権します。」

 リオンの発した一言で、一旦この場が静まりかえる。

 「リオン君。何を言っているんだい。」

 少しの空白を置いてジンが発言する。ジンにとって、リオンは本戦優勝の可能性が一番高いと踏んでいる。個人的にも学校的にもリオンには優勝して欲しい。それに、リオンが剣術大会完全制覇を狙っていることも知っている。

 だからこそ、リオンの発言には異議を唱える必要がある。

 「そうよ、リオン。あなたには完全制覇の野望があるでしょ。」

 アリサも異議を唱える。理由はジンと大体同じ。自分のせいでリオンを失格にしたくない気持ちが強い。

 「いいんだ。オレにとって一番大切なのは大会成績じゃなくて、アリサなんだから。」

 ジンはともかく、アリサにまでは異議を唱えられるとは思っていなかった。アリサもそれだけ自分リオンのことを気にかけてくれていたことに、少し嬉しく思う。

 「リオン君もこう言っていることだし、今回は残念ながら棄権ということで。」

 リオンの棄権、これで話がまとまろうとしていた時だった。

 「何だね、こんな夜中に騒がしい。」

 一人の高齢男性が話し合いの場に現れる。

 「大会委員長。」

 運営側の一人が声を上げる。

 「これは一体どういうことだ?」

 「実は・・・」

 今までの状況を大会委員長に伝える。

 「なるほどのぉ。状況は分かった。今回の処分についてだが、リオン君たちは棄権する必要はない。こちらのルール不備があったことは間違いない。それに、この大会の趣旨は学生の実力を量るものだ。試合以外のところで棄権させるのは好ましくない。」

 大会委員長は今回の結論をそう結論づける。

 「しかし、大会委員長。」

 運営側の3人は食い下がるが・・・。

 「これは決定事項だ。ただ、練習場のルールは追加する必要があるな。午後10時以降の使用の禁止と、魔法の類の使用の禁止。この二つを新たなルールとする。明日には全校に伝えるように。」

 大会委員長は運営側の3人を一蹴し、新たなルールの追加を今回の件の落としどころとしたわけだ。

 これでリオンの大会棄権はなくなった。

 しかし、後のリオンは語る。ここでの棄権するか否かで、自分リオンとアリサの学生生活に大きな影響を与えることになったと。

 




 

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