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21 想像以上の決勝戦

 「悪いけど、すぐに終わらせてもらうよ。」

 「そう簡単にいくかしら。」

 ユウトとアリサの戦いが始まる。

 ユウト、アリサ共にこの戦いが決勝戦の勝敗を大きく左右することを理解している。

 ユウトはいち早くアリサを倒したい。現在、リオンの相手はカイトがしている。カイトは決して弱いわけではない。しかし、相手は格が一つ、いや二つは上の相手だ。簡単にやられることはないと思うが、戦闘時間が長くなれば長くほど、地力の差とは如実に表れる。そうなると、カイトの敗北が見えてくる。

 だから、自分がいち早くアリサを倒し、カイトに加勢して2対1という数的に有利な状況をとる必要がある。

 一方のアリサはユウトの考えとは逆。いかにこの戦闘を長引かせて、リオンの負担を減らすか。相手は準決勝の相手よりも格が上なのは間違いない。

 それに、相手は決勝戦の相手がリオンのペアになると確信していた。そんな相手がリオンの対策をしていないとは思えない。つまり、アリサの現在の戦闘スタイルであるリオンの模倣は一切通じないだろう。

 早期からリオンに数的不利にしてしまう。もし、そうなったとしてもリオンは勝てるのは間違いない。

 (リオンには自分の剣技で戦えって言われてるのがね。)

 アリサの考えとは真逆の指示がリオンから出ている。自分の戦闘スタイルをしてしまうと、リオンの模倣をしている時よりも、むしろ早期の敗北が予想される。

 (まあ、いいわ。私にとってこの戦いの勝敗はどうでもいいしね。)

 アリサはリオンの言う通りにすることにした。

 この二人の戦闘はユウトの先制攻撃から始まる。アリサは後手にまわり防御することなる。

 アリサにとって、先制攻撃を受けるのは初めてだ。今までは持ち前のスピードで先制攻撃を仕掛けていた。 

 しかし、今回は違う。別にアリサのスピードがユウトに劣っているわけではない。アリサが自分の戦闘スタイルを確立していないことが原因だ。どう攻めるか一瞬迷いが生じた。ユウトにその隙を突かれたというわけだ。

 (どうしようかしら。)

 ユウトの攻撃がアリサの想像以上に速くて重い。回避に特化すれば何とでもなるが、反撃することを考えると防ぎきるのは厳しい。

 何とか反撃の隙を探したいところだが、その糸口が見えてこない。

 一つはアリサは反撃、形勢が不利な状況から覆すという経験をしたことが今までない。アリサは殺し屋時代から、持ち前の戦闘力が圧倒して、相手に反撃の隙を与えることなく制圧してきた。特に苦手な剣術。今までの戦闘経験が役に立たない.

 一つ、ユウトの攻撃に隙がない。いや、正確に言えば隙はあるにはある。リオンなら見逃さないほどの隙が。ただ、アリサにその隙を見出すことができない。アリサにはそんな余裕がないからだ。

 アリサの頭には反撃をしなければという思考が頭の中を埋め尽くしている。リオンに言われた言葉がアリサを呪うように頭を蝕む。余裕が無くなれが思考は凝り固まり、視野というのも狭くなる。

 アリサは現在負のスパイラルに陥っている。リオンの模倣をしていた方がまだいい戦闘ができるくらいには。

 アリサが剣術において自分のスタイルを確立する。それは非常に大事なことだ。しかし、それを今、この決勝でする必要があったのか。そう問われると必要ないといった方がいい。

 確立した戦闘スタイルを実戦で試す。これは非常に重要なことだ。練習の成果を試合出す。そして、そこからは反省点や課題点も見えてくる。

 しかし、実戦で戦闘スタイルを試す。こうなると、試合中に攻め方という余計な思考を挟むことになる。その思考が動きを鈍くし、相手に隙をさらすことになる。

 アリサはどんどん押されていく。もう反撃なんて文字が頭に浮かばないくらいには。

 (これは私の負けね。)

 アリサは自分の負けを察する。剣術の実力的にも戦闘を続けいれば負けはしただだろう。しかし、そのタイミングが速すぎた。

 「これで終わりだ。」

 ユウトの一撃がアリサに突き刺さる。

 「アリサ・エヴァンズを戦闘不能とする。」

 審判の声が会場に響き渡る。それと同時にユウトはすぐさまリオンたちの方へと向かう。

 「私もまだまだね。」

 アリサはさっきの戦い。いや、学校に入学してからの戦い全てを振り返り反省する。

 アリサの明確な敗因。それは自分のスタイルを確立していないことだ。

 アリサもリオンとの今までの特訓の中で、戦闘スタイルを徐々に確立し始めていた。しかし、それを実戦で試すということはしてこなかった。

 理由はそのスタイルで勝てる見込みがまだアリサの頭の中でイメージできていなかったから。それなら、勝てるイメージが沸くリオンの模倣が良いと思ったわけだ。

 アリサは勝負において目先の勝利に囚われていた。長い目で成長していくなら、負けても良いから自分のスタイルを貫いて戦闘する方が良い。

 けど、そうはできなかった。これにはアリサが殺し屋をしていたことが原因にある。殺し屋には一戦の敗北も許されない。だから、目の前の勝負に勝つために最善を尽くす。それが今後の成長を阻害することなんて一切考慮していない。

 しかし、それは仕方がないことだった。アリサは長らく殺し屋をしていたせいで、無意識にそういう考えに陥っていた。

 改めて現状を振り返ることでようやく気が付くことができたわけだ。

 (悪いわね、リオン。)

 戦闘スタイルの確立。リオンに散々言われたことだった。それを出来なかったに対して申し訳なく思った。

                       ♦

 リオンとカイトの戦闘。リオンが一方的に有利な状況で進んでいたが、中々カイトを戦闘不能にすることができなかった。

 そうこうしているうちに、

 「おまたせ。」

 リオンの背後からユウトが攻撃を繰り出す。

 リオンはそれを回避し、一旦二人から距離をとる。

 (ユウトがここに来たということは・・・。)

 アリサが負けたのだ。それ自体は別にリオンにとって大した問題ではない。実力的に負けることは分かっていた。問題はその早さだ。

 リオンは自分がカイトを倒す方が早いと踏んでいた。だから、1対2という数的不利になるのは想定外だった。

 こんな状況になった理由。

 ユウトがリオンの想像を超える実力を有していたのか。

 アリサの戦闘がお粗末になってしまったからだろうか。

 理由はどうであれ、目の前の状況は変わらない。リオンはユウト、カイトの二人を相手にしなければならない。

 (まあ、それでも負けないけどな。)

 カイトと剣を交えたが、実力自体は1年生にしては強い程度。リオンの足元には遠く及ばない。ユウトも似たような実力だろう。

 その程度なら二人同時に相手にしても特段問題ない。

 「かかって来いよ。二人まとめて遊んでやるよ。」

 「「望むところだ。」」

 リオンの挑発を皮切りに戦闘が再開する。

 リオンは一旦待ちの姿勢をとる。リオン得意の超スピードからの先制攻撃。あれだと、一人しか攻撃できない。これが殺し合いとかなら、持ち前の速度で一撃で殺してしまえば、数的同数をとることもできる。

 ただ、これは試合であり殺し合いではない。一撃で相手を戦闘不能にできないのであれば、超速度の先制攻撃では、アドバンテージをとることができない。一人を攻撃し防がれ、その間にもう一人に攻撃される。

 なら、相手の攻撃を見て反撃の糸口を見つける方がいい。攻撃した後に、攻撃を受けるよりも、余裕をもって受けられるからだ。

 相手はユウトの先制攻撃から、流れるようにカイト、またユウトと交互に連続攻撃してくる。二人のコンビネーションが素晴らしく隙がない攻撃になっている。

 その連続攻撃はリオンに反撃の隙を与えない。とはいえ、リオンは完全に防ぎっており、攻撃を当てることはできない。

 (さて、どうするか。)

 ユウト、カイトの連携は素晴らしいものだ。とても、剣術学校入学からの数ヶ月で出来る代物ではない。おそらく、入学前から連携を極めて、同学校に入学したのだろう。

 そもそも、名前の知られていない実力者が二人も同じ学校に入学するなんて、偶然にしてはできすぎている。

 もちろん、全力を出せば一瞬で蹴散らせる。ただ、その場合加減ができない。リオンの全力というのは2人を圧倒する。実力差が離れすぎていると、普通に攻撃したつもりでも、相手が対処できないことが多い。

 これについては、剣術よりも魔術で例えた方がよいだろう。アリサが炎の輪舞フレイムロンドを複数展開する。これ自体はアリサにとって何も特別ではない。自分が一番得意な戦法をとっているだけに過ぎない。それでも、対応できない魔術師というのは多い。実際、リナはそんな状況に対応できない。

 リオンの剣術はこの例に当てはまる。しかも、この例以上に実力差がある。

 (まあ、対複数のセオリーをすればいいか。)

 複数相手に対する戦いでは、敵の数を減らすことがセオリーとされている。そのためには、敵を分離する。一時的にでも1対1の状況を作る。これがいい。

 (そうなるととるべき行動は・・・。)

 ユウトとカイト、二人の連携は交互に攻撃することにより、反撃する暇がない状況を作り出している。その攻撃を生み出すためには、一人が攻撃する時、もう片方は少し後方に下がる。二人ともが前のめりになると、味方同士の距離が近くなり、肩身の狭い攻撃しかできない。

 だから、一人一人がゆとりを持った攻撃をするために、敵との間にスペースを作る必要がある。そのために、攻撃しない方は少し後方に下がり、攻撃のスペースを作るわけだ。

 リオンはそこに隙を見出すことにした。リオンの目的は二人を引き離すだけ。そんなたいそれたことをする必要はない。

 (少し様子見だな。)

 リオンは防御に徹しながら、二人の動きを見る。洗練された連携。その精度が高ければ高い程、再現性が高く、パターン化しやすい。

 その動きを確実に分析する。リオンの作戦を一回で成功させるために。リオンの考えた作戦はいわば奇襲みたいなもの。一回で成功させなければ、警戒されてしまい、それ以降の成功の見込みはないだろう。

 ユウト、カイトどちらもほぼ同速度の動きで、極端な差はない。まあ。極端に差があれば遅い方が攻撃する時に反撃すれば、付け入る隙があるわけだから、今の動きが正しいのは間違いない。

 (ただ一つ言えるのは。)

 連携をする際、個々の全力は出せないということだ。どんなに連携が優れているペアだとしても、相手に合わせるという過程を踏んでいるわけで、そこに一人で戦う時とは違う余計な思考が生まれている。連携の際は、本来の8割の実力が出せればよいとされている。それだけ、連携というのは難しいのだ。

 それでも、連携の精度が良ければ一人で戦うよりも、高いパフォーマンスを発揮できる。だから、ユウトたちもそうしているわけだ。

 (大分見えてきたな。)

 ユウトとカイト。能力的な話をすると、ユウトの方が少し高い。だから、アリサの相手をしたのかもしれない。早期に倒すために。

 とすると、リオンが先に戦闘不能にする相手はカイト。カイトはユウトが来るまで、個々で戦っていたので動きは分かる。二人を引き離した後に、速攻で戦闘不能にするには丁度いい。

 (じゃあ、決着をつけにいきますか。)

 リオンはタイミングを計る。自分の作戦を成功させるために。

 ユウトの攻撃を剣で防ぎ、つづけさまにカイトが攻撃してくる。その際、ユウトはカイトが攻撃しやすいように少し後方に下がる。

 (ここだ。)

 リオンはユウトが後方に下がったタイミングで、ユウトに蹴りを一発入れる。ユウトは蹴り自体は防御で防ぐことができた。しかし、リオンの蹴りにより大きく後方にのけぞってしまう。

 「ユウト。」

 ユウトが攻撃を受け、連携が取れる状況でなくなってしまった。その瞬間、一瞬ではあったものの、カイトはユウトの方を向いてしまう。それは視界からリオンが消えることと同義。

 当然その隙をリオンは見逃さない。リオンの一撃がカイトに直撃する。そこから、リオンの連撃。連携するために、力をセーブしていたカイトは、すぐさまリオンの超速度に対応できなかった。そのままさらに攻撃を受け戦闘不能になってしまう。

 「後はユウト。お前だけだ。」

 リオンは態勢を立て直したユウトを見る。

 「やられたよ。」

 ユウトはリオンの行動の意図を瞬時に理解する。リオンのあの蹴り。威力自体は大したことない。いくら身体強化魔法をふんだんに使っていたとしても、剣劇より威力が上がるものではない。

 では、なぜユウトは後方に大きくのけぞったのか。

 その答えはユウトが後方に下がったタイミングで蹴りを入れたことにある。後方に下がる。それは身体の重心が後ろにことを意味する。重心が後ろに下がった時に、押してあげれば後方にバランスを崩しやすいわけだ。

 リオンが剣ではなく、蹴りを選択したのには理由がある。剣という武器を介すより、蹴りの方が直接力自体は伝えやすい。

 カイトがリオンにあっさり負けたことにも、もちろん理由がある。連携によりカイトの出力が落ちていたことが主な要因だ。

 連携をするために、ユウトと合わせやすい程度まで、戦闘速度を落とす。それでも、連携による連続攻撃で、一人の攻撃として換算した場合、戦闘速度が上がることとなる。

 それすなわち、防御側のリオンは戦闘速度を上げる必要があるということだ。つまり、個々で見た時に、戦闘速度が上がったリオンと、逆に下がったカイト。その二人の剣の打ち合い。どちらが有利かは言うまでもない。

 カイトはなす術もなくなってしまい、敗北したというわけだ。

 「どうした?一人になって怖気づいたか?」

 中々攻撃してこないユウトを挑発する。

 「そんなことはないさ。ここから一人でも勝つよ。」

 そこからの戦闘は一方的だった。戦闘の出力を上げたリオンをユウトに防ぐ術はない。ユウトも頑張ってはいる。リオンの攻撃を死に物狂いで防いで、反撃の糸口を見出そうとしている。

 だが、届かない。リオンとユウトでの圧倒的な地力の差。そもそも、一人では勝てないから、連携により勝機を見出そうとしたわけだ。

 それでも、あがくしかない。どれだけ惨めであったとしても。

 「楽しかったよ。ユウト。」

 リオンの止めの一撃。

 試合終了。

 リオンは無事新人戦の優勝を決めた。

 「おめでとう。完敗だったよ。」

 ユウトはリオンに握手を求める。

 「ああ。」

 リオンはそれに応える。正直、ここまで決勝戦が楽しめたのはリオンにとって予想外だった。その感謝の意味も握手に込める。

 「一応、僕たちも本戦に出場するから、当たった時はお手柔らかに。」

 「考えとく。」

 ユウトたちも本戦に出場するということは、組み合わせによっては、再戦する可能性もある。実力というのは一日やそこらで伸びるものではないので、再戦すれば負けるのは必至というわけだ。

                       ♦

 「おめでとう。とりあえず、第一段階クリアだね。」

 新人戦が終わり、会場を出たところでジンに迎えられた。

 「当然。予定通りです。」

 リオンの実力を加味すれば、アリサというハンデを背負っていても、新人戦の優勝は確実だ。リオンにとって新人戦の優勝は、嬉しさというよりも、ちゃんと優勝できたことに対する安堵の方が大きい。

 「アリサ君もよく頑張ったね。」

 「別に。私は決勝戦では役に立たなかったし。」

 「そんなことないよ。アリサ君も立派に戦ってた。入学した頃に比べれば、剣の技術は上がっているし、十分な成果だよ。」

 「それはそうだけど・・・。」

 アリサの剣術はリオンの模倣がメインとはいえ、入学時に比べればその差は圧倒的だ。けど、結局決勝戦では完敗してしまったわけだ。

 「アリサはよく頑張ったよ。しっかり実戦を経験したことで、課題も見えただろ。来年は勝てるように特訓しよ。」

 「そうね。」

 流石のアリサも試合結果はどうでもよかったとはいえ、決勝戦について何も思わなかったことはない。やはり、勝てるのであれば勝ちたかった。それに勝てる可能性もゼロではなかった。

 アリサが初めから自分のスタイルを確立できていればの話ではあるが。スピード自体は勝っていたのだから。

 「それはそうと、明日から本戦だ。今日はしっかり休んで明日に備えてね。本戦でも優勝を狙っているリオン君にとって、休息は大事だからね。」

 「もちろん、今から部屋に戻ってゆっくり休みます。」

 1年生での本戦優勝。その難易度は各学年の中で1番高い。

 大きな理由は言うまでもなく、1年生は上級生に比べて実力がないから。

 ただ、それ以外にも要因はある。それが1年生は連戦を強いられることだ。本戦に出場できる生徒は当然新人戦にも参加する。そして、準決勝・決勝まで勝ち残ることが常だ。

 つまり、1年生は本戦の1回戦を迎える前に、既に3日間試合をしているわけだ。それに対し、上級生は本戦まで試合がなく、本戦にコンディションを合わせることができる。

 その差はとても大きい。疲弊している1年生と万全の調子の上級生。ただでさえ、実力で劣ることが多いのに、それ以外の要素でも不利な状況になっているわけだ。

 だから、1年生の本戦が一番の鬼門なのだ。

 「リオン君には愚問だったかな。」

 ジンはリオンの顔を見て、休息の重要性をしっかり理解していることを把握する。

 「何なら、私が癒してあげよっか?身体で。」

 アリサはリオンの耳元で甘く囁いた。

 「そっそれは・・・。」

 リオンは顔を真っ赤にし言葉に詰まる。

 「こらこら。大会中は不純異性交遊は禁止だよ。もしするなら、大会が終わってからホテルでも借りてするんだね。」

 「そんなことしないからー。」

 リオンは大声で叫んだ。

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