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準決勝・決勝

  大会3日目。今日のスケジュールは新人戦の準決勝と決勝の計3試合のみ。試合数自体は少ない。後、イベント事としては、本戦のトーナメント表が今日の新人戦終了後に発表される。

 上級生にとってはそれがメインと言っても過言ではないだろう。まあ、大会4日目は新人戦同様、1回戦の全てが行われる。だから、皆今日の新人戦終了後に調整することに変わりはない。

 リオンとアリサは練習場にて調性する。とはいっても、試合で怪我をしない程度のストレッチくらいで、そこまですることもない。

 「リオン君どうだい?優勝できそうかい。」

 調整がひと段落ついたリオンにジンが話しかける。

 「できるよ。アリサも思った以上に戦えているし、俺に大分余裕があるから。それにしても、先生がこの大会で話しかけてくるの今日が初めてじゃない?」

 ジンはここまでの2日間、他の代表選手ばかりを気にかけていて、リオンたちは放置状態であった。

 「それは申し訳ない。けど、リオン君たちなら問題ないと思ったからね。実力についてはもちろんそうだけど、本番に対する緊張とか一切しなさそうだし、メンタルケアとか無縁だろうからね。」

 「そうですね。それに先生も一ペアでも多く勝ち進めるように注力する方がいいですしね。」

 先生は学校の戦績を重視する。だから、優勝できるようなリオンたちより、勝利することが危うい生徒を見る方がいい。

 特に大会という大舞台、普段通り実力を発揮するというのは難しい。調子や緊張、いつも通りを出すことに障壁がある。

 その点、リオンとアリサはそんな懸念はない。

 リオンは殺し屋の戦いでも一切怯むことなく、自分の戦いが出来ていた。それにもし仮に、コンディションが良くなくても、そもそもの実力が違うので、試合を取りこぼすことはないだろう。

 アリサは言うまでもない。剣術の腕はそこまでで、実力が発揮できたからといって、戦力になるかとう話はあるが、アリサが実力を発揮できないわけがない。

 アリサは殺し屋として、何度も死線をくぐり抜けてきた。命の取り合いを制してきた彼女にとって、大会の緊張なんて微塵もないだろう。

 「リオン君なら大丈夫だと思うけど、一応対戦相手の情報について聞いとく?決勝で当たる可能性が高いユウト、カイトペアについて情報しいれているけど。」

 「いや、大丈夫です。確かに情報というのは、戦ううえで有利な要素ではありますが、本番前に偏見を持ってしまうのはよくありません。それに、戦争とかでは情報とかない一発勝負ですから、その練習とします。」

 「そうか。君がそういうなら無理強いはしないよ。」

 「配慮助かります。」

 ジンの話を聞いて、リオンはユウトたちのペアに対する期待度が上がる。まだ、準決勝の試合前で、決勝に誰が進むか分からない状況で彼等の話をした。

 それは、彼等が優秀なペアであることを裏付けるものだろう。自分の生徒に優勝して欲しいジンにとって、リオンに無意味な情報を与えることはない。つまり、リオンたちの脅威となる可能性があるペアが彼等というわけだ。

 それに、並のペアならジンがこんな話を持ち掛けることもないだろう。少なくとも、今までのペアとは格が違うこと表れでもある。

 「心配しなくても大丈夫です。必ず優勝してきますから。」

 どんな相手だってリオンは負けるはずがないのだ。

                      ♦

 準決勝。残っているのは4ペア。つまり、既に新人戦に出場している生徒全員が敗退している学校が最低でも4校ある。今回は残ったペアが全て別々の学校だったので、敗退校は最低限だったわけだ。

 では、敗退した学校の生徒は今日どうしているかというと、主に二つのパターンに分かれる。

 一つは新人戦を観戦する生徒。主に1年生が多い。多くの1年生は本戦の出場資格を得ていない。そうなると、残りの日程は観戦以外にすることはない。試合を観戦する行為自体も成長の糧となる。だから、見ていて損はない。

 特に1年生だと、同世代の試合を見るわけだから、今後の対策にもなるし、同世代の頂点の実力を見れるところにもある。

 上級性でも新人戦を見る価値がないわけではない。新人戦でベスト4。特に決勝まで行く生徒は、本戦の出場資格を得ていることが多い。その生徒と当たる可能性があるので、これまた対策となるわけだ。

 今回の場合だと、リオン・キングスフォードという本戦出場確実な生徒がいることから、観戦の価値というのが上がっている。

 ちなみに、本戦のトーナメントが発表されるまでは、運営以外は誰が出場するのか分からない状況となっている。

 もう一つは、本戦に向けて調整する生徒。主に本戦出場の上級生が多い。明日には必ず試合を行うので、勝利するために念入りに調整するのは普通だ。

 ちなみに、新人戦で勝ち残っている学校の生徒であっても、必ずしも全員が観戦するわけではない。上級生にとって、1年生の応援よりも、自身の試合の重要なのは言うまでもない。

 無論、1年生は全員観戦する。

 そして、定刻となり準決勝が始まる。

 リオンたちは準決勝の1試合目。既に試合会場におり、開戦の合図を待つのみ。

 (流石に準決勝なだけあって、見慣れた奴が相手だな。)

 相手のペア。リオンはその両方と入学以前の社交界の場で会ったことがあるし、模擬戦もしたことがある。正直大した相手ではない。しかし、それでも、同年代ではトップクラスの成績で、リオンの記憶だと自分に次いで2番、3番の実力の持ち主のはずだ。

 (なるほどな。)

 相手のペアは恐らく、あえて同じ学校に入学したのだろう。同世代トップの自分を倒すために。

 リオンの父も、実力ある者同士でペアを組んでいたし、大会での優勝を盤石にしたいのなら、そういった手は有効だろう。

 もしかしたら、社交界の模擬戦にはそういった狙いがあるのかもしれない。個人の実力が分かるし、自分と相性のいい相手を探すのにもうってつけだろう。

 まあ、仮にリオンが誰かを一緒の学校でペアを組むために誘っても、強い相手程良い返事はもらえなかっただろう。リオンとペアを組んで勝った場合、リオンにおこぼれをもらったと思われる可能性がある。それに、リオンを倒した方が周囲の評価というのも高くなるだろう。

 だから、リオンとペアを組みたい奴なんて、リオンのおこぼれをもらいたい奴だけだろう。どんなに弱い奴でも、リオンのペアとなり、3年生の時の本戦でベスト8になれば、無条件で軍に推薦されるのだから。

 「それでは試合を開始します。」

 リオンがくだらないことを考えているうちに、試合開始のコールが響く。

 リオンは早速ペアの片割れを倒すべく動く。

 リオンの先制攻撃、そこから流れるように繰り出される連続攻撃。相手は防ぐことに徹しており、攻撃してくることはないものの、きっきりと攻撃を防いでいた。

  この時点で、今までの対戦相手とは違う。やはり、準決勝。それなりに実力がある相手ではある。

 それに、相手はリオンと当たることを想定して、対策を講じているのだろう。リオンよりも動きが遅いのに攻撃を防がれている。

 (さて、どうするかな。)

 リオンは攻撃を続けながら考える。相手は自分のことを研究している。無策で防御に徹しているわけではいだろう。おそらく、どこかの攻撃パターンで、反撃できる隙をうかがっていると見る。

 本当に防ぐことに精一杯だったら、一度距離を置いて、この不利な状況をリセットするはずだ。そうしないということは、リオンの攻撃パターンのどこかに反撃の糸口を掴んでいると考えた方が自然だ。

 それに、対戦相手の戦い方は理にかなっている。格上のリオンとの戦いでは、リオンが主導権を握ることが想定される。だから、カウンターで形成を逆転し、主導権を握り返す。実に合理的な戦いではある。実力差が天と地ほどなければの話ではあるが。

 今のリオンの攻撃速度。当然全力ではない。それに、相手が収集している情報というのも、団長の時と同様、社交界での模擬戦等、リオンが手を抜いて戦っているものしかない。

 リオンが少し攻撃の手を速めれば、相手はその対応に追われ、反撃できる隙を生み出すことはできないだろう。

 ただ、そうすればユウト、カイトペアに新たな情報を与えることになる。別に与えたところで、リオンの勝利はゆるぎないが、少しだけ不安材料とはなる。

 (アリサの様子次第かな。)

 近くで戦闘しているアリサの様子を横目でみる。

                       ♦

 この戦いアリサは苦戦していた。敵のレベルが格段に上がったということももちろんある。しかし、一番の要因はアリサの戦闘スタイルだ。

 今のアリサの戦闘スタイルはリオンの模倣。それも、アリサの動き自体はリオンと遜色ない。

 つまり、敵は対策済みというわけだ。

 アリサの攻撃は当たらない。当たらない。どんなに攻撃しても、相手に防がれる。

 (そういうことね。)

 アリサは攻撃を重ねていく中で、自分の状況を理解する。いくら、敵が今までよりも強いとはいえ、こうも攻撃が防がれるのには何か原因がある。その原因が自分がリオンの模倣をしていたからというわけだ。

 (さてと、どうしましょう。)

 正直に言って、今のアリサに目の前の相手を倒すことは難しい。

 戦闘速度を上げて、敵の防御を振り切れる可能性。

 (ダメね。)

 戦闘速度自体を上げることは可能だ。今以上に身体強化魔法をかければいい。ただ、それだと剣技がおろそかになる。

 アリサが今戦っている戦闘速度。これがリオンの攻撃を模倣できる限界点なのだ。戦闘速度を上げれば上げるほど、剣を振る速度、攻撃箇所の正確性、連続攻撃の間、いつも以上に高度に要求されることになる。まだ、アリサの剣技だと、自身のトップスピードに動きを合わせることができない。

 速度に任せた雑な攻撃。これが通じないことは、学校での本戦出場をかけた予選で体感している。いくら、攻撃が速くても、動きが単調であれば防げてしまう。

 (でも、試してみる価値はあるかもしれないわね。)

 このまま戦っていても、どっちみち勝ち目はない。なら、別の手立てで攻める方がいいか。

 (それとも、防御に徹してリオンが来るのを待つか?)

 アリサがこのまま攻め続けていれば、いずれ反撃をくらうことになる。攻撃をしている中、敵の反撃を防げる保障はない。なら、防御に徹した方が確実に攻撃を防げて、時間稼ぎになる。

 (まあ、時間を稼ぐ方が得策かもね。)

 もし自分が負けて、リオンが1対2の状況になったとしても、負けるとは到底思えない。ただ、今はまだ準決勝。決勝じゃない。無理に攻める必要もない。

 それに、決勝では自分が負ける可能性もあるだろうし、ここでリオンに負担をかけるわけにはいかない。

 アリサは防御に徹することにした。

                       ♦

 (ここはとっとと敵を倒した方がよさそうだな。)

 リオンはアリサの戦闘を見て、作戦を決めた。正直な話、アリサには耐えの戦法ではなく、負けてもいいから、模倣ではなく自身の戦術を使って欲しかったのだが、しょうがない。

 そう決めた瞬間、リオンの速度が一気に上がる。徐々に上げてしまっては、敵が動きに慣れてしまう可能性がある。

 相手は急な戦闘ペースの変更に飲まれ対応できない。そのまま戦闘不能になってしまう。

 その後、リオンはアリサの対戦相手も難なく倒し、無事決勝進出を決めた。

                       ♦

 準決勝2試合目。戦闘自体はあっさり終わり、ユウト、カイトペアが決勝に駒を進めた。

 「思った以上にやるな。」

 会場にて準決勝を見ていたリオンの感想だった。ユウト、カイトペアに対峙した相手は決して弱い相手ではない。リオンも社交界で見たことのある、剣術の名家のペア。

 そんな相手を二人は難なく倒した。それも、かなり余裕のある状態で。それだけ実力差に開きがあったというわけだ。

 「勝てそう?」

 隣で試合を観戦していたアリサが聞く。アリサも二人の想像以上の強さを見たからだ。いや、どちらかと言えば力が未知数だからといった方が正しいだろう。

 あの二人は準決勝までで、一切全力を出していない。つまり、相手の実力は準決勝のペアを余裕であしらうことができる実力という、曖昧な尺度でしか分からない。

 今の段階ではリオンよりも強い可能性ということも考えられる。

 「大丈夫だ。確かに次の決勝、俺が想像していたものよりも過酷になることは間違いない。けど、俺は負けないさ。」

 今の言葉に根拠はない。ただ、リオンには絶対的に信頼しているものがある。それは自分の強さだ。一度はアリサによって砕かれはしたが、この大会で再認識することはできた。

 「それとアリサ。決勝では耐え忍ぶ戦法なんて取らなくていいぞ。攻めて攻めて攻めまくって、その結果リタイアするならそれでいい。俺は1対2でも大丈夫だから。」

 リオンはアリサに成長して欲しい。だから、模倣を越えたその先にある、自分の戦術を確立してもらいたい。

 確実にユウト、カイトペアのどちらと戦っても、アリサの攻撃は防がれるだろう。その時に、アリサの真価が問われる。

 「分かったわ。リオンがそれでいいなら。」

 「じゃあ、決勝戦頑張ろうか。」

 リオンは面白い決勝になることを望みながら言った。

                      ♦

 いよいよ決勝戦。

 リオンたち出場選手は開始位置に集まる。

 「まさか本当に決勝に来るとはな。」

 正直リオンはこの二人が決勝に来る確率は低いと思っていた。社交界で見たことがない=剣術の名家ではないということだ。

 この国では名家出身である方が実力があると言われるくらいには名家に有力者が多い。当然リオンも、キングスフォード家という剣術におけるトップの名家出身だ。だから、名家でない者。しかもペアの両方がそうでないとは非常に珍しい。

 「決勝に来る自信があったからこそ、リオン君たちに声をかけたわけだ。」

 ユウトが答える。

 「それに、君たちに勝つためにこの場にいる。名家のトップであるキングスフォード家に勝てば、俺たちにも拍が付く。」

 カイトが続けて話す。

 「なるほどな。」

 リオン・キングスフォード。この世代で最強と言われる剣士。そんな彼を倒せば、世間の評価というのも変わる。

 特に剣術の名家でない者、前評判が悪い者、そういった者にとって見返す大チャンスというわけだ。

 それに、将来的な話ではあるが、軍で好成績を残した名家でない者は、名家に昇格することもできる。

 そういう意味では、学生時代から評価を上げておく方がいい。

 「悪いけど、リオン君たちには僕らの礎となってもらうよ。」

 試合が開始する。

 リオンはカイト、アリサはユウトをそれぞれ相手する。

 リオンは得意の先制攻撃でカイトを攻める。普段見せていない攻撃パターンで。

 ユウト、カイト二人の口ぶり的に、この新人戦で二人はリオンたちに焦点を当てていることに間違いない。

 とすれば、準決勝の相手同様こちらの動きを研究している可能性というのは高い。つまり、今までと同じように攻撃をしていれば隙を晒すようなものだ。それが強い相手であればあるほど。

 だからこそ、リオンは相手のデータにない動きをする。攻撃を読まれないために。

 カイトはそれを上手くさばきつつ、リオンの攻撃の隙を縫っては反撃してくる。

 (流石に他の奴とは一味違うか。)

 今までの相手なら、データにある動きしかしなくても、パワーやスピードといった基礎能力の差で対応が困難だった。

 (まあ、それでも・・・。)

 現段階で相手が脅威になることはない。基礎能力では勝っているし、技量もこちらの方が上だ。このままいけばリオンが勝つのは間違いない。

 (あとは、アリサ次第か。)

 リオンがこのまま1対1で戦えるなら、別に出力を上げて勝ちにいく必要はない。ただ、アリサが負けて1対2の盤面になった時に、どう戦況が変わるか。

 アリサがリオンの指示通り、防御に徹することをしなければ、敗北は必然だ。アリサの基礎能力は身体強化魔法により一線級だ。しかし、アリサの場合は技量が伴っていないため、基礎能力を上げればそれだけ攻撃が単調になってしまう。

 単調な攻撃は基礎能力で押し切れない相手には、隙を晒す行動となる。

 (さて、どうなるか。)

 アリサの戦闘スタイル的に、戦いを長引かせるのは好みではない。(防御に徹する時を除いて。)つまり、リオンが様子をうかがっている内に決着がつきそうだ。

                     


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