元次男、長男に叱られる②
「それで?」
「えっとぉ…」
張り詰めた空気の中で、与一がボソボソと小さな声で経緯を語る。
下を向いて、合わせた手の親指をぐるぐるしながら呟くその様は、叱られている子供であった。
「……それで、藍ねぇからもらった学生服の予備を着たんだ」
そして、ようやく説明を終える与一。
ちなみに藍ねぇとは、近所に住む大学生だ。
同じ高校のOGでもあり、彼女が着ていた学生服を譲り受けている。
この世界は、戦闘により装備が破損することが多々あるので、予備はあればあるだけ良い。
どうせ学生服は、その学校の在学中にしか装備出来ないので、こうして親しい後輩に譲り渡すのが慣例である。
「………………………はぁ」
話を聞き終えた慶一郎は無言で天を仰ぎ、バリバリと頭を掻いた後に下を向き、溜息を吐く。
そして…
「このっ」
与一の肩を掴んで、目つきを鋭くする。
「馬鹿野郎ォッ!!」
「…っ!?」
慶一郎は与一に大声で怒鳴ったのだった。
「何悠長に飯なんぞ作っとるんだお前はっ!まず病院に行かなきゃダメだろうが馬鹿っ!何で直ぐに俺を起こさないっ!いいかっ!世界のバクには、死に関わるような肉体の変化だってあるんだぞっ!?わかってんのかっっ!!」
「…っ、…ぅ」
慶一郎からすれば、与一の行動は許しがたいものだった。
なにせ大切な家族の、大事な身体をないがしろにする行為である。たとえそれが本人のことであっても許せるものではない。そう、何かあってからでは遅いのだ。
気持ちは分かる。
少し粗野で、ややぶっきらぼうではあるが、慶一郎は家族想いの熱い男だ。
そんな彼が、家族のことで感情的にならないはずがない。
彼の性格上、しかたのないことと言える。それだけ与一を大切に想っているのだ。
だが。
「…………ふ…ぅ」
「え?」
だが、今はよくない。
今、目の前にいる、いっぱいいっぱいの少女相手に怒鳴るのは…
「ふぅ、ぐすゅ、ぅ、ぅぇ、ぁぃ…」
「お、おい」
非常に具合がよろしくなかった。
「ぅええええええええええええええええええんっ!!」
「…………っぇえ、え!?」
ぴぎゃー、と大泣きを始める与一。
ななめ上を向きながら、大きく口を開けて、はなみずが少しでて、ぽろぽろぽろぽろと大粒のなみだを沢山流していく。
「ぁぁあああああっ、け、けい、い、ち、ろう が、おこ、っったああああ!!」
「ちょ、ぇ、お、おい、そんな泣くな、な!?」
「ぼっ、ゔぉく、なんもっ、わるいこと、じて なっ、ぃのに、おごっ だぁあああああ!!」
「お、ご、ごめっ、悪かった!怒鳴って悪かったから!」
「こ、こわか、こわかっ、た、こわ、かった のおぉぉぉおおおおっ!」
「す、すまん!そうだよな!怖かったな!?」
「や、やっ、やざじく、やざしく、してぇええええええ!」
「わかった!悪かった!やさしくするからっ!!」
ぴゃーーーー、と泣き続ける与一と、それを大混乱慰めブラザーズする慶一郎。
実に混沌を極める状況である。
だが、そこに複数の足音が集う。
「どうしたっ!?」
先陣を切って現れたのは、家長である風上健治。
与一が五歳の頃から与一の父親をしている、筋骨隆々の男前である。
「なに!?なんなの!?誰が泣いてるの!?」
健治のすぐ後ろから顔を出したのは、健治の妻である風上薫。
慶一郎と茉莉の実母の、凛々しい美人である。
「朝からどうしたっていうのよっ!?」
そして矢のように部屋に飛び込んできたのは与一と慶一郎の妹である風上茉莉。
与一と慶一郎の一つ下の年齢で、薫似の凛とした美少女だ。
「どうしたんですか、騒がしい」
この八歳とは思えぬ落ち着きの少年は風上希。
「なになになになになぁにぃ!?」
そしてはちゃめちゃに転がって登場したのが六歳の風上恵である。
こうして。
全員が台所に雪崩れ込み、早朝の風上家に与一の家族が終結したのであった。




