元次男、長男に叱られる①
風上家の台所に、包丁がまな板を叩く音が響く。
そこには制服のシャツを腕まくりして調理する、エプロン姿のメガネ少女がいた。
ちなみに、長い髪に火が燃え移りそうで怖くて、長い黒髪を二つおさげの三つ編みにしている。三つ編み自体は妹に何度かしているので熟れていた。
「これなら間に合いそうだ、よかった」
ふんふんと小さく鼻歌を歌いながら、どんどん料理を仕上げていく与一。
今回のような不足の事態に備えるために、常備菜をいくつか用意していた。
それを用いて、品数の不足を埋めたのだ。
「あとは、味噌汁を仕上げて…」
与一は料理をする事で、一時的に落ち着きを取り戻していた。
問題を先送りにして現実逃避をしているともいえる。
料理に集中することで、女体化の事を考えない様にしているのだ。
だが…
「おう、おはよう」
「っ!?」
…その逃避は終わりを迎えようとしていた。
「いつも早ぇな、ありがとよ」
眠そうにして、欠伸を噛み殺しながら、頭をバリバリと掻く長身の男。
引き締まった筋肉を全身に纏った彼は、長男の風上慶一郎である。
彼は部活の朝練があるので、朝が早いのだ。
「お、今日はかしわ飯か」
慶一郎は席に着くと、卓上の炊飯器から飯をよそい食べ始める。
それに合わせて与一が慶一郎の前にオカズを並べ始めた。
出汁巻の卵、お茄子と小松菜の味噌汁、蒸した野菜と三種類のディップソース、豚肉と香味野菜の炒め物、どれも量は沢山。運動をする育ち盛りのための朝食だ。
それらが食卓を彩る中で、慶一郎は違和感を感じる。
さっきから、与一が一言も喋らないのだ。
「おい、なんだ、どうかし…」
そこで慶一郎は初めて顔を上げる。
そして、そこで言葉を失う。
いつもより低い位置にある、小さな顔。
黒髪を三つ編みにして、二つ分けのおさげにした黒縁眼鏡。
何度も見ている、華やかさはないが、整っている童顔。
よく見知った顔の小柄な女生徒が、そこにはいた。
「…じょ」
女装か?
似合ってるな。
そう、言いかけて止める。
少し視線を下ろせば、そこには確かな膨らみ。
そして腰つきが女性のそれ。
何より…
「おい、なにがあった」
真っ青な顔で震える、涙目の与一がそこにいたからだ。
「俺にわかるようにイチから説明しろ」
びくりと跳ねる華奢な肩を掴み、慶一郎は与一を問いただすのであった。




