元次男、次男じゃなくなる③
「…うっ、ぐすっ、どぅ、しよ」
早朝。
部屋の隅で膝を抱えて蹲る少女。
蹲まって声を殺して泣いている。
昔から与一は、悲しかったりテンパったりすると、こうして一人隅で泣いて心を落ち着ける癖があった。
最も、彼女がこんなふうに泣いたのは小学生以来である。
どうやら女性化して、感情の振り幅が大きくなっているようだった。
「え、えっと、あっ、そうだ…」
そして泣いているうちに思い出す。
何故自分が今日も早起きをしているのかを…
「…お、おべんと、つく、ら、なきゃ」
涙が溢れる目元を乱暴に拭きながら立ち上がる。
そう、与一には使命があるのだ。
家族のご飯をこしらえるという使命が。
それは、家族の愛を疑ってしまうことへの贖罪であり、彼女にとっては命よりも重かった。
「…ふく、きが、え」
滲む涙を堪えながら、学生服に着替えていく。
いつもの様に学生服にエプロンをして調理をしようとする。
だが、そこで思わぬ事態が発覚した。
「…えっ!? そ、装備できない!?」
そう、学生服が装備できないのだ。
「ぅえ、っど、どうしよ、なんでっ!?」
防具は装備しないと意味がない。
これは小学生だって知っている当たり前のことだ。
着るだけでは不十分。着て、ちゃんと「装備」をして初めてステータスに防御力が反映されるのだ。
「…ぅえ!?男性服だから、装備できないのっ!?」
ステータスを見て見れば、そこには男性用装備不可の表示。
これは体質である。
どんな性別の装備でも、どんなファッションの装備でも装備できる人もいれば、その逆もいる。
どうやら与一は男子服を一切受け付けないタイプの女子である様だった。
「ど、どうしよう、どうしよう」
焦り、混乱する与一。
もう既にキャパオーバーである。
また涙が溢れてくるが、もう時間がない。
起きてからもう結構な時間が経っている。このままは朝ごはんとお弁当が作れなくなってしまう。
それは嫌だ。
それは、嫌だった。
「ぅ、あっ!そうだ!」
そこで与一は思い出す。
妹の茉莉の予備の制服があることを思い出したのだ。
妹は一つ下、そして同じ学校なので大丈夫なのだ。
「確か、えっと、向こうのクローゼットに入れておいたはず…」
風上家の家事を一手に引き受けている与一は、当然衣服の管理もしているので制服の所在も明らかである。
彼女は早速、女子用の制服を取りに向かった。
本当は。
料理をするだけなら制服を装備する必要はない。
だが、両親をモンスター被害や殺人で失っている与一には、防具を装備しないという発想がなかったのだ。
勿論両親だってちゃんと出歩く時に装備をしていた。だが、それでも死んだのだ。
戦闘職でない与一が、当たり前の様に装備を欠かさないのは当然と言えた。
まぁ、テンパっているというのもある。
ともかく。
「ぅ、ちょっと大きいな」
こうして制服エプロンの眼鏡女子が、風上家の台所に立つのであった。




