閑話①(side:桜)
おはようございます、桜です!
本名は金丸桜。
ポイント八王子で偵察作戦班に所属しています!
今は、朝の五時。
私の一日は、
拠点中の花壇に水やりをすることから始まります。
「大きくなぁれ、大きくなぁれ!」
花には癒しの効果があります。
攻略者が拠点で気持ちよく過ごせるようにするのも、
私の仕事です。
昨日まで魔物と戦っていた人が、
朝いちばんに花を見て少しでも息を吐けるなら、
それは立派な支援だと思うのです。
血の匂いと土の匂いばかりでは、
人の心は少しずつ固くなってしまいますから。
拠点中が大きな花だらけになれば、
素晴らしいと思いませんか!
「桜さん、おはようございます」
「颯さん、おはようございます!!」
彼は毎日夜間の見張りをしてくれています。
この姿を見られるのは少し恥ずかしいのですが、
彼は毎朝必ず挨拶をしてくれるいい人です。
水やりが終われば、食堂で腹ごしらえをして、
職場である偵察作戦棟に向かいます。
基本はいろいろな仕事が回ってきますが、
結人さんが来てからはALPHAチームも忙しくなり、
私はほとんど専属のようになっています。
ふぅ。今日も机の上には書類の山。
まずは仕分けるところからスタートです。
「桜さん、おはようございます」
「おはようございますっ!」
私は名前で呼ばれるのが大好きです!
同僚にも迫って、
全員から名前で呼んでもらっています。
同僚の机にも同じ量の書類の山があります。
ため息をつく同僚。
共有漏れをなくすため、偵察作戦班の全員が、
拠点すべての報告書を読むことになっています。
原始的で面倒ですが、
これのおかげで死亡率が減るなら仕方ありません。
一時間ほどで報告書を読み終わりました。
今日の南側の魔物報告は少なめ。
西側は相変わらず空白が多い。
空白は安全の証でもありますが、
報告がないだけ、という可能性もあります。
線を引くべきか、様子を見るべきか。
私は少しだけ迷って、
ひとまず赤い印を薄く入れておきました。
右手にはハーブティー。朝から優雅なものです。
おっと、もう八時前です。
そろそろ隊員たちの今日の任務を決めねば。
「ゴブリン退治に、輸送隊の護衛ですか――」
ALPHAチームは長期任務から帰ってきたばかり。
回ってくるのは簡単な任務ばかりです。
とはいえ、長期任務は正直消化不良でした。
みんな、軽く体を動かしたいはずです。
「朔真さんと、ひよりさんですか……」
振り分けを考えていたら、
自然と二人が組むことになってしまいました。
二人の相性はかなり悪いですが、
結人さんが来てからはマシになったように思います。
ひよりさんにとっては、結人さんが初めての後輩。
先輩としての自覚も出てきたのでしょうか。
ですが、彼は今、休暇中。
彼がいない状態でも二人が連携できるか、
確認しておく必要があります。
……もちろん、
少しだけ面白そうという気持ちもあります!
よし、久しぶりに試してみましょう!
「では、行ってきます!」
書類と格闘する同僚に声をかけて、外に出ます。
私は時間ギリギリ間に合いましたが、
同僚の書類処理はまだまだ終わらなそうです。
……あとで少し手伝いましょう。
――――――
書類仕事をしている間に、太陽が昇っています。
東京の地下にあるダンジョンですが……。
不思議で面白い空間です!
ウキウキで宿舎へと向かいます。
スキップなんかしちゃったりします!
「おう、桜。今日も元気そうだな」
「隊長、皆さん。おはようございます!」
宿舎にはチームメンバーが集まっていました。
隊長に雫さん、そして朔真さん。
あれ、ひよりさんがいません。
「その、ひよりさんは、まだ部屋にいます」
申し訳なさそうに雫さんが言いました。
これは……久しぶりの寝坊ですね!
朔真さんがムッとした表情をしています。
二人をペアにしたのは失敗だったかもしれません。
「ひよりさんのところに行ってきますね!」
ひよりさんの寝坊は珍しくありません。
結人さんが来てからは一度もありませんでしたが……。
彼の休暇中にさっそく寝坊。
後輩がいる間だけは、
ちゃんと先輩をしていたのでしょう。
ひよりさんも、なかなか分かりやすい人です。
宿舎は狭いながらも一人部屋が用意されています。
コンコンッとノックして、
返事がないことを確認してから部屋に入ります。
物が少ない、シンプルな部屋。
ひよりさんらしいですね。
「おーい、ひよりさーん!」
整った顔。
まるでお人形さんのようです。
何度か声をかけますが、やっぱり起きません。
これで起きるなら、雫さんが起こしているはずです。
ベッドから少し離れて……
さぁ、私の準備は万端です!
「どーーーん!」
思いっきりジャンプして、乗っかりました!
もちろん、怪我をしない位置は分かっています。
これでも何度も起こしてきた仲ですから。
柔らかな衝撃が来ます。
ひよりさんがビクッと反応しました。
「…………ん、さくら?」
「おはようございます!もう集合時間ですよ!」
ひよりさんはゆったりと体を起こして、
それから大きく伸びをしました。
うーん、遅刻したというのにマイペース。
むしろ清々しいです!
むにゃむにゃしているひよりさんの両手を引っ張り、
洗面台まで連れていきます。
実は同い年のひよりさんですが、
まるで子どもの世話をしているようです。
もちろんダンジョン内ではすっぴんです。
化粧品の研究もされているとは聞きますが、
優先順位はそんなに高くないでしょう。
顔を洗い、歯磨きをして、着替えて。
十分もかからずに準備を終え、部屋を出ます。
「……おはよう」
遅刻を悪いとも思っていないこの態度。
おっとりしていて、その上、美人ときました。
つい、許してしまいます。
「さぁ、今日の任務を発表します!!」
順番に任務を伝えます。
朔真さんとひよりさんは苦い顔をしましたが、
意外にもすんなり受け入れてくれました。
きっと喧嘩して帰ってくるとは思いますが……。
任務そのものは軽めですし、
二人なら危険はありません。
まぁ、問題ないでしょう!
ちょっとした問題はありましたが、
今日もとっても気持ちの良い一日になりそうです!
……ただ、西側の空白だけは、
あとでもう一度確認しておきましょう。
気持ちの良い一日ほど、
見落としは怖いものですから。
※今回は試験的に、改行方法を変えています。




