第8話 やりたいことないし、地球救うのを趣味にしようかな
「『趣味 一覧』っと…」
ネットでどんな趣味が人気なのか検索してみた。
流石に毎日、したいことを考えるというのがキツくなってきたからだ。
「一番重要なのは、ひとりだけでできるってことだよね」
2人以上じゃないと楽しめないヤツは時間が止まってるから無理。
「一位は音楽鑑賞か…」
某サイトの人気ランキングを見ながら呟く。
自分の世界に浸れるから最高、と書いてあった。
「音楽は日常的に聴いてるしなぁ」
音楽だけで一日潰せるか、っていうとちょっと難しそう。
マルチタスクの癖が出て、音楽だけに集中できなさそうだし。
次だ。
「二位はアニメね…」
かなり私にフィットしている。
ただ、マルチタスクの癖が得て、アニメだけに集中できなさそう。
次だ。
「三位は読書…」
しかし、マルチタスクの癖が…
「それだけに集中せざるを得ないレベルの趣味があったらいいんだけど」
私は抜け道があればそっちに逃げるタイプ。
二つの趣味を同時にやってどちらもそこまで楽しめない、という感じになりそう。
画面をスクロールしながら、私に適した趣味を探す。
「温泉も趣味の一つに入ってくるんだな」
しかも意外と上位。
「修学旅行のときに悪いイメージついたせいで、あんまり温泉に良い印象ないんだよね」
宿泊先の温泉で、男子が女湯を覗いたらしい。
同室の女の子から聞いた。
あの時のエピソードを再現しよう。
シャワーを浴びた後、スマホを触りながら時間を潰していた。
ドアをノックされたので、すぐに鍵を開ける。
「環ちゃん聞いた?」
「聞いてないかも」
まあそうだよね、と言ってその子は言った。
「男子たちが女湯覗いてたらしいんだよ」
「マジ?」
マジマジ、と女の子。
「今ちょっと外出れる?」
そういって女の子は私を外に連れ出した。
エントランスに人が集まっていた。
皆の視線の先にいるのは外にいる男子生徒数名と教師数名。
「あの人たちが覗いてたらしいよ」
ヤバいよね、と女の子。
「なんでバレたの?」
先生が入ってきたタイミングで、洗い場の上に乗って覗いているのを見つかったらしい。
「環ちゃん、大浴場に行かなくってよかったね」
見られたって思ったら恥ずかしくって、とその女の子は呟いた。
彼女の肩をポンポンと叩いた。
「…ていうか私、他の人と一緒に裸で過ごすのとか好きじゃないんだよね」
今銭湯に行けば、誰もいないと思うけど。
趣味にすることはなさそうだな、と思い他のものを見てみる。
「お菓子作りねぇ…」
これも意外と上位。
ただお菓子作りにも良い印象がない。
私の初恋の話でも聞いてもらおう。
小学校の頃。
当時、私には好きな人がいた。
で、バレンタインデー間近。
これはチャンスと思い、私はチョコレートを人生で初めて作った。
2月14日のバレンタインデー当日。
ドキドキしながら教室に入った覚えがある。
だが、教室で渡すことはできなかった。
他の人に見られたくなかったからだ。
帰る道も途中まで一緒だったからその直前に渡そうと思い、ポケットの中に入れていつでも渡せる準備をした。
玄関あたりだったと思う。
クラスメイトの女の子が彼に走り寄ってきて、「ちょっと時間ある?」と彼に尋ねていた。
その瞬間、私はチョコを渡すのを諦めた。
他に渡す人のいない前提で考えていたため、びっくりしたというのもある。
彼とその女の子に「バイバイ」と手を振り、家に帰った。
そしてそのチョコは自分で食べた。
「…こういう感じで失恋したって人、意外といそうだよな」
高校のときに友達とした失恋談でもっとヤバい人もいたし、私くらいは普通だろう。
次の趣味を探してみる。
「うーん、なんか全部微妙だな…」
地球滅亡の日にしたいことをまとめた記事を読んだときと同じく、本当にしたいと思えるようなものがなかった。
「もう本当にやりたいことないし、地球救うのを趣味にしようかな」
趣味にすることではないし、積極的にやりたいことでもないけど。
「座ってても思いつかないし、散歩しながら考えよ」
散歩するための準備を済ませて外に出た。
しばらく歩き続ける。
「あれ、そういえばこの時間帯の割には全然暑くないな」
時間が止まっているとは言っても7月で普通に夏。
そして正午過ぎ。
歩いて数分経てば汗が背中に張り付いて気持ち悪くなるはず。
「これも何か理由があるのかな?」
この世界のメカニズムを明らかにするという趣味も良いかもしれない。
「ていうか、それが一番じゃない?」
世界で私だけにしかできない趣味。
その言葉に、心が躍る。
明日からちょっとやってみよう、と思いつつ歩き続けた。
しばらく前に来た公園に到着。
あのときはブランコを乗るだけだったが、遊具はまだ何個かある。
今日はジャングルジムで遊ぶことにした。
私の年齢向けに作られていないのは明らか。
いい大人が何をやってるんだろう。
良い大人は真似しないでね。
「そういえば、このジャングルジムっていくらするんだろう?」
触れる前に気になったのですぐに検索してみる。
「え、コレ100万円もするの?」
そう呟きながら鉄の棒を叩く。
しかも基礎工事とかも必要で、さらにコストは嵩むそう。
「子供の遊びにもお金が必要なんだなぁ」
こういう工事費用に税金が使われてるんだったら納得なんだけど。
その後、ジャングルジムの玉座に数分間座ってから降りた。
今の姿を見られたらヤバいな、と思いながら座っているのは意外と楽しかった。
その後は前に来た時と同様、河川敷まで来た。
一目散に川に近づいていく。
今日しようと思ってたのが水切り。
川に石を投げて、どのくらい水面を跳ねるかってヤツ。
小学校の帰り道に川があったのでたまに遊んだ。
子どものころ、親に川に近づくなと口酸っぱく言われた。
でもその時の私はその忠告を無視して川に近づいた。
もし今の私が親だったら、子どもが川に近づいたらめちゃくちゃ心配すると思う。
ていうか、子供を遊びに行かせたくない。
怪我して欲しくないし。
「やっぱ自分の親ってすごかったんだな…」
しみじみ思った。
子どもに自由を与えるというのは、親として責任を伴う。
まさか大人になって水切りをするときに気づくことになろうとは。
親に対するリスペクトはしつつ、水切りに向いてる石を探す。
「平べったくて薄いのが良いんだよね」
いい感じのないかな、と呟きながらしゃがみこんだ。
「お、コレとか良さそう」
丁度手に収まるサイズ。
肩をぐるぐる回しながら準備運動をする。
一回投げて肩を怪我する可能性もある。
この一投に、魂を込める。
なるべく水面に対して水平になるようにし、手首のスナップを使って回転をかける。
最後に離れるのは人差し指。
石の入水角度を意識しつつ、丁寧に投げた。
ピシャン、ピシャン、ピシャン、ピシャン。
「あれ、4回しか行かなかったな」
まあ最初だから仕方ない。
その後は何度か調整したが、上手くいって8回だった。
子どもの頃は謎のバフがかかって10回後半とか出せていた気がするんだけど。
「あれかな、身長が高くなって、石が入水する角度を水平にするのが難しくなったみたいな」
そうに違いない。
自分の技術が退化しているというのは納得できない。
ゴールデンエイジを過ぎた私にできることは後継者の育成。
もし子どもができたら、水切りのやり方を伝授しよう。
いや、その前に川に行かせないか。




