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第7話 さあ企業、私を幸せにしてみろ。

「生ごみとかの匂いとか大丈夫なのかな…」


呟きながらゴミ袋を指定された場所に置く。


当たり前だけど、ゴミ処理は時間が止まってから行われていない。

もしかしたら、数日後にはこの辺を通ると変な匂いがするって感じになるかも。


そうなったら、そのゴミ袋を自分が行かない場所に持っていくことにしよう。



今日はずっと思考実験の記事を見て自分なりの答えを考えてみた。

暇つぶしだったけど、ちょっと賢くなった気がする。


有意義な時間を過ごした結果をご覧いただこう。



水槽の脳:


自分が見ている世界は仮想現実。

本当は脳だけしかない存在。


今のこの文章を見ている自分は仮想現実ではないと言い切れる?


私の答え:

そんなこと知らないけど。

仮想現実だったら、好き放題させてもらおう。

今この回答を見ている出題者、君が最初のターゲットだ。



「思考実験って面白いかも」


ゴミ出しを済ませた後、私は日課の散歩を始めた。


もしかしたら私の回答が不真面目に思われるかもしれないけど、こっちだって真面目。


私が真面目に考えたか不真面目に考えたか、どうやって証明する?


思考実験スタート。



「散歩って健康にどういう影響を与えるのかな」


思考実験のことはさっさと忘れて、ネットで調べてみる。

もし身体に良い影響がないんだったら、普通にやめようかな。


生成AIに丸投げしてそうなホームページを選んで斜め読みしてみた。


「うーん、やっぱり健康に良さそうだな」


散歩をすることで、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が促進されるみたい。


実際、散歩を習慣にした結果、精神状態が安定している気がする。

今の状態で安定してるの? って言われそうだけど。


他にも、継続すれば痩せることができるそう。

当たり前と言えば当たり前かも。


20代とはいっても、やっぱり大病は怖い。

とりあえず、幸せホルモンで脳を騙しながら散歩を続けることにしよう。



「なんか、もっと使い勝手の良い能力だったらよかったのになー」



歩きながらボソっと呟いた。


相対的な時間を操作できる能力というのは便利なように見えるけど、そんなことはない。

結局、時間が止まってる世界の中に存在する時間を動かすことができるだけだ。


説明するのが難しいけど、実際そういう感じ。

絶対的な時間である午前二時を動かすことはできないようだし。


某猫型ロボットの某ポケットから出てくる某秘密道具の中ならどれを選ぼうかな、と考えながら散歩を続ける。



「そろそろ帰ろうかな」


ちょうど外に出てから20分経過した。

振り返って復路を辿る。



「あれ、そういえば風って吹いてない…?」


どうして今の今まで忘れていたのだろう。

この世界が本当に止まっているかどうかを確認する方法に風が吹いているかどうかがある。


一旦立ち止まって風を感じてみた。


「うーん、風が吹いてる感じしないな」


目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。


やっぱり風の気配はなかった。


「本当に止まってるっぽい」


だって風ってあれでしょ?

高気圧と低気圧の差で生まれる、みたいな。


少なくとも私の記憶が正しければ、風が吹いたことは地球が止まってから一度もない。


「科学的な観点から非科学的なことを証明することができるとは」


これも思考実験のおかげかも。


あれも言ってみれば科学でしょ。

Wikiでニュートンのリンゴの話とか出てきてたし。



家に到着。



いつも通りシャワーを浴びた。

漫画を読んで時間を潰す。


今日は恋愛漫画を読んでみた。


普通の女の子が主人公で、思いを寄せるのは学校一のイケメン。


それに加えて学校一とは言わないまでも、それなりにかっこいい幼馴染がいる、という感じ。

よくもまぁイケメンたちが雁首揃えていらっしゃいますねという、いわゆる逆ハーレムってヤツだ。


「こんな恋愛、私もしてみたかったなー」


この主人公みたいにイケメンたちに好意を寄せられたらさぞ毎日楽しいだろう。


ただ、私はこの主人公みたいになんとなく流されるようなことはしない。

高校の頃の彼氏が彼氏だったから。


「とりあえず、全員の個人情報を入手してからかな」


恋愛はそこから始めよう。


交友関係、授業中の態度、異性への対応、SNSの発言などなど。


人間関係というのは情報戦。

いつの間にか浮気されてた、みたいなのはごめんだ。


「実際、全員がシロ確してたら誰を選ぶかって話になるよね」


結局この主人公は、学校一のイケメンくんと結婚していた。

実はふたりは幼少期に出会ってて、主人公の指針になっていたらしい。


じゃあ私が誰を選ぶかと言えば、話は変わってくる。


「まずはがっつりアンケート調査をさせてもらうとして…」


次はインタビュー。


その人の人格を形成する要因を確認しつつ、それが私との相性が良いか判断したい。

その後は、どの程度家事をこなせるかのテストをする。


そして最後に私のことをちゃんと好きか言ってもらうことにしよう。


「…ていう流れをロードマップで説明した時に頷いてくれる人と付き合うことにしようかな」


まあ、そんな男の人なんて誰もいないと思うけど。



正直、結婚も視野に入ってくる年齢ではある。



中学時代の友だちは先月、第一子を出産した。

SNSで【ご報告】みたいな感じで投稿していた。


第一子の出産の平均年齢は31歳くらいらしいから、別に私が慌てる必要はないとは思う。


でも、そういう情報で自分を安心させていることのみじめさったらない。


「あんまり高望みしてるつもりじゃないんだけどな…」


誰でもいいかと言えば明確に違うけど。

高校の頃に浮気されたせいで、付き合うのが億劫に感じている自分がいる。


ずっと前の話なんだから切り替えろよ、という意見もわかる。

なんなら、それを言い訳に付き合ってないっていうのもある。


「はー、なんで漫画読んでこんな気持ちになってるんだろ」


少なくとも、この漫画の主人公たちは楽しそう。

可能であれば、この漫画の世界に行かせてほしい。


時間が止まってるだけの世界なんて、そんなに面白くないし。





昨日はネガティブな思考になってしまっていたが、それはセロトニンが不足していたからだろう。


とりあえず散歩して気を紛らわせることにする。


今日向かっているのは会社。

いよいよ、出勤ルートを散歩コースにしてしまった。


時間帯は流石に出勤時間からずらした。


私が勤めているのは、子供向けお菓子の企画・販売に携わる企業。


会社の経営理念は、『子どもの幸せを、日常へ』。

まずは働く人たちが幸せになるところからかな。


さあ企業、私を幸せにしてみろ。



くだらないことを考えていると、すぐ会社に着いた。


家を出てから大体15分。

ほとんどいつも通り。


建物の中には入らず、そのままUターンした。



「ていうか、この時間が止まってる時間を使って転職の準備とかできそうだな」


転職しても評価が下がらないであろう勤続年数まできた。


もっと条件の良い職場があるのでは?

長時間睡眠を保証、って企業はないかなと思い某転職サイトを開く。


「えー会員登録必要なの?」


そこまで手間ではないけど、それだけで面倒に感じる。


正直、今の職場にそこまで不満があるわけではない。

転職サイトからブラウザバックした。



ワークライフバランスはとるべきものなり、もらうべき品にあらず。



どこぞの偉大な思想家の名言をもじりつつ自宅に戻った。


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