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第6話 いきなり触れて時間停止が解除されたら怖い

「人間って全く会話しなくても大丈夫なのかな」


部屋の中でぽつりと呟く。


まだ一週間前後だから問題なさそうだけど、気づかぬうちに健康が害されていた、みたいなことがあったら心配だ。



調べてみた結果、期間と環境次第で、長期的になればなるほどメンタルが弱くなってしまうらしい。


数週間から数か月で軽いうつ病に、

年単位になると現実感が薄れていくとか。


「それはちょっと怖いかも」


ときどき生成AIくんとお話しておこう。

これも会話としてカウントしていいのか怪しいけど。



「…今日も散歩行くか」


面倒ではある。

でも、健康は重要。


靴ひもを結んでから外に出る。


結局、雨が降った昨日は外出しなかった。

言い訳を10個くらい考えてから、そのいくつかをここでお披露目しよう。


・あの雨は長時間触れたら死ぬタイプの雨だったから、出ない方が安全

・いや、運動って別に外出しなくてもできるし

・運動もやりすぎたら逆に健康を害するっていうか。ほらあるじゃん、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』って。そういうこと。


こうやって言い訳を積み重ねることで、外出もしなければ運動もしない状態を作り出した。


言い訳というのは、自分の身を守るための道具。

雨の日のレインコートだ。



「ていうか昨日の雨は何だったの?」


今日は晴れ。


昨日のあれはなかったかのような気持ちのいい天気だ。


雨が降ってほしいと思ったから雨が降ったのか、それとも雨が降る前日に雨が降ってほしいと偶然思ってしまったのか。


正直、時間操作(と勝手に思い込んでる)の能力はわからないことが多い。


「まあ、困ったことにならないうちは別にいいんだけど」


結局、気になるのは自分が損をするのかどうか。

損をしないうちは静観しててもいい。


興味が出始めたら知りたい、程度にしか考えていない。



今日散歩するのは、前回と違うルート。



時間が止まる前はあまり通らなかったところだ。


というのも、


「午前二時でも人いるんだな」


目線の少し先にいるのは、大学生くらいの女子グループ。



繁華街。



社会人になってからは、歓迎会くらいしか行くことがなかった。

そもそも、会社の飲み会自体が好きじゃない。


誘われても困る。

むしろ私が困るから誘ってた?


「こんにちはー…」


私は近づきながら、その女の子たちに近づいた。

返事はない。


女の子のひとりの前で手を振ってみる。

目は動かない。


「ていうか、顔赤すぎでしょ」


多分この子、お酒あんまり強くないぞ。

飲んで1時間くらい経ってから外に出たって感じかな。


「地球滅亡の数時間前にお酒を飲んで楽しく過ごすっていうのもアリだったな」


今後地球が滅亡しそうなときの参考にしよう。


「にしても、本当に時間止まってるんだな…」


目の前の女の子たちを見てしみじみ呟く。


まさにまな板の上の鯉。

某ジャンルだったら垂涎のターゲットだろう。


「ま、私は興味ないんだけど」


お疲れさまでした、と呟いてその子たちから離れた。



繁華街を抜けてしばらくすると、アパートがちらほら見えてきた。

私の住んでる場所と似たような感じ。


「そういえばあの子、ここら辺に住んでるって言ってたな」


この辺りのほうが日当たりが良い、みたいな話を同僚から聞いた記憶がある。


あの同僚と仲が良かったとは思うけど、そこまで仲が良いというわけでもない。

実際、連絡を取るときはいつもお互いに敬語だった。


「私が敬語なの分かるんですけど、なんで環さんまで連絡するときは敬語なんですか?」と尋ねられたことがある。


なんとなくだね、と答えた。



彼女と最後に別れた日のことを振り返りつつ、歩き続ける。



「よく考えたらあの日、隕石のこと全く考えてなったな」


目の前の仕事をどうにかするということしか頭の中になかった。

定時過ぎに残っていたのはおそらく私と同僚だけだったと思う。


「今考えると、地球滅亡の数時間前まで仕事してる場合じゃないよね」


現段階の第一候補はお酒を飲んで寝ることだけど。



今来た道を折り返す。



アパートを抜けて繁華街に入り、さっきの女子グループを通りすぎる。


「そういえば人間に触れたらその人だけ動けるようになる、みたいなの見たことあるな」


昨日雨の球体に触れて落ちたのは、触れた瞬間に時間が戻ったから、という考え方もできなくはない。


さっきの女子グループのところまで戻ってきた。


「うーん、いざ触れるとなると勇気いるな」


幸か不幸か、彼女たちはそれなりに露出度の高い服を着ていた。


「もし、動き出した場合も考えて、誰に触るかも考えないと…」


彼女たちの顔をぐるぐる見回して、どの子が一番無害そうかを見分ける。


「異常事態になると壊れるタイプっていうのもいそうだよな」


いつもはおとなしめだけど…みたいな。


どちらかといえば私はそっちタイプ。

それなら話も合いそう。



「どちらにしようかな…」


子供の頃からやっている運で決めるヤツを女子グループの中でやってみた。


私からすると、どの子も動き出してほしくない。

いきなり襲われる可能性もあるし。


そういえばこれって地域差があるって話を聞いたことあるな。


途中でやめて、スマホを取り出して調べてみることに。


「天の神様の言う通りにした後、鉄砲を撃ってるのが多いな…」


「神様の言う通り」のあと、物騒になる系が多かった。

天在住の神様にお願いした後に発砲するってどういう流れ?



とりあえず、私は自分の地域の「どちらにしようかな」をやって女の子を選んだ。


「…バンバンバン」


そして私の指は1人の女の子に止まった。


君に決めた。


「どうもー…」


いきなり触れるのは失礼かと思い、恐る恐る彼女の肩に触れる。


彼女の肩に触れた。

何も起きなかった。


「マジで時間の無駄だったな…」


いきなり動き出されても困るけど。


その後は来た道を淡々と歩いた。



家に到着。



「思ったより疲れたー」


溜め息を吐きながらリビングへ。

水道の蛇口を捻ってコップに水を注ぎ、一口飲んでから捨てる。



とりあえず今日、人間に触れても変わらないということがわかった。


ついでに気になるのが、完全に止まっているのか、意識はあるけど動けない状態なのか。

こればっかりは確認のしようがない。



シャワーを浴びてリビングに戻る。



「明日はどうしようかな…」


正直、散歩する以外はやることがない。


時間を潰すという点で言えば、ゲームが一番簡単。

でも、地球が正常に戻ったときに、私も正常に戻れるかどうか分からない。


視力が落ちたりするのは怖い。


やるとしても一日一時間まで、と親が子供に設定するルールを決めつつ、他の案を考える。


「…思考実験とかおしゃれじゃない?」


私が知ってるの、そこまで多くないけど。


博学スタンスの一応他称インテリが好きそうなヤツっていう印象しかなかった。

私も博学スタンスの一応他称インテリになってみるかな。


明日はちょっとそれについて考えてみるとして、一つくらい考えてみよう。


ネットで『思考実験 例』と検索してみた。


「あ、これは私でも知ってる」


トロッコ問題ってヤツ。



暴走するトロッコ。


自分はレバーを握っている。


現在進んでいるのは5人の作業員のいる路線。

1人しかいない路線に切り替えることができる。


あなたはどうしますか? みたいな感じ。



「まあ、上司が選べって言う方を選ぶって感じかな」


仕事に感情を持ち込むべきではない。

とりあえず、トロッコ問題は上司の顔色をうかがうことにしよう。


こういうときだけ、「あなたが選ぶとしたら?」みたいな主体性云々の話を出してくるヤツは信用できない。


お前をトロッコで轢くぞ。

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