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第4話 隕石の対処は私の業務外。

同僚に「環さんってもしかしてワーカホリックですか?」と聞かれたことがある。


そうかも、と頷くと、


「中毒者じゃないですかー」


お巡りさんとお医者さんここですここ! と揶揄われた。


ワーカホリックってだけで、二業種に駆け付けられても困る。

私は健全だし、模範的市民だ。



無人のショッピングモールに来ていた。


時間が止まった生活にも慣れてきたし、色々買いたいものがあったから。


時間が止まる前、週末に出掛けることはほとんどなかった。

基本的にずっと寝てた。


今は終末だから出掛けてもいいでしょ、とくだらないことを考えながら辺りを見回す。


「普通に考えたら、午前2時のショッピングモールに入れるのっておかしいよね」


自動ドアが開いたから入ったけど、普通はシャッターが閉まってて入れないものでしょ。


でも、どのお店も営業時間みたいに開いていた。

従業員はもちろんいない。


巨大な建物の中、物音を立てる存在は私だけ。


「そういえば学生のとき、静かな空間で叫びたいって思ったことあったな」


そのときはできなかったけど。


今ならいけるか…?

一応、周りを見回した。


ん、ん! と喉を鳴らして響き方を確認する。


「めっちゃ響くんだけど…」


他の人に聞かれていなかったとしても、叫ぶ言葉は考えたほうがいいかも。


やっぱり無難なのは「あ!」と大きな声で言うヤツ。


でもそれだと情緒が無いって言うか、沈黙環境声出し初心者みたいな感じがする。

間違いなく私は沈黙環境声出しビギナーではあるんだけど。


「どうせだったら、響いてかっこいい感じのフレーズにしたいな」


エコーがかかると雰囲気出るよね、ってヤツ。


そうなってくると告白系かな。


「え、初めて告白のセリフ言うのって今かな?」


初めて、というところに重みがある。

こうなるんだったら、学生時代に告白しておけばよかったかな。


付き合うってから別れるまでのRTAしたいんですけど、っていう理由で誘うとして。


「ぱっと思いつく言葉ないし、それでいっか」


何度か深呼吸して、私は叫んだ。



「好きです、付き合ってください!!!!」



後半の「ください」が反響して建物中に響く。


「…テレビで見たアレみたいじゃん」


高校生が全校生徒の前で告白するヤツ。


「相手が存在しない前提で告白した人は流石にいないだろうな」


これで私が告白して断られた割合は0パーセントになったはず。


だから私のことは無敗の女王と呼んでもらおう。

勝率もゼロパーセントだけど無敗は無敗。



止まっていたエスカレーターが動き始めたので、それに乗って上の階へ。



「そういえば私、何を買おうと思ってたんだっけ…」


家に出る前にスマホのメモ帳に書いておいてよかった。

スマホを開いて買い物リストを確認する。


とりあえず、食べ物と日用品を買うつもりだった。


「…こういう終末世界のとき、食べ物のこと食料って言うよな」


あれってなんでなんだろ。

そう言った方が雰囲気出るから?


「地球滅亡のときに、そんなどうでもいいこと考えてるわけないか」


多分、そういうルールみたいなのがあるんだろう。



スーパーに到着。



「こういう時って、どういうのがいいんだろ」


日持ちするほうがいいのは分かるけど、他にも気を付けたほうがいいポイントとかあったりするのかな。


「『サバイバル生活 食料』とかで検索してみるか…」


『食料』にしたのはもちろん雰囲気を出すため。

地球滅亡のときでも、私はそういうことを考える。



必要な条件が出てきた。


それは、


1. 軽いこと

2. 腐らないこと

3. そのまま食べられること

4. カロリーが高いこと


ナッツ類とかドライフルーツがいいらしい。


「えー毎日同じのって飽きるんだけど」


こういうことをサバイバルマスターたちに言ったら、「生きるか死ぬかの状況でそんなこと言えるわけないだろ」って怒られそう。


でも、今の私はそういうことを言える状況。

サバイバルマスターズには敬意を表するけど、表するだけだね。


「ていうか、今の状況ってサバイバルなの?」


がっつり都市だけど。


「でもまぁ、都市もコンクリートジャングルって言われるし、実質ジャングルみたいなものか」


# 密林サバイバル っと。


その後はさっさと買い物を済ませ、クレジットカードで決済をして退店する。

やっぱり、お金を払わずに外に出るのは怖い。


いきなり万引きGメンの群れが押し寄せてくるかもしれないし。



いろいろ用が済んだので、ショッピングモール内を散策してみた。


基本的に私は用があるところだけしか寄りたくないタイプ。

でも、時間があるから暇つぶしにぶらぶらしてみよう。


「あ、なんかいい感じのアクセサリー売ってるじゃん」


普段なら素通りするようなお店だが、興味があったので入ってみた。


「へーけっこう可愛いかも」


私の同僚が付けてそうな感じ。


…あれ、そう思ったらあんまりかも。

すぐそのお店から出た。



「こういう無人の空間を歩くだけのゲームとかも流行ったことあったよな」


大学生の頃にちょっと触ったことがある。

ちなみに開始30秒でゲーム酔いしてアンインストール。


星5にしつつ、レビューサイトに書いてあった批判を要約して投稿した。


なぜかディベロッパーから喜ばれた。


「でも今の状況ってほぼそういう感じのゲームだよね」


ゲーム酔いしないからラッキーと思いつつ、その空間を楽しんだ。



ショッピングモールから出た。


かなり長い間いた気がするけど、太陽は同じ角度。

大体9時くらいかな。


私が今日起きたのもそのくらいの時間。


そして家に帰る。



家に到着。



買ったものを所定の場所に保管する。


「そういえば、私は何をするべきなんだろ」


何をしたいかではなく、何をするべきか。

ひとまずそっちの方向で考えてみることにした。


もちろんしたいことはいくつかある。

例えば会社のコピー機を破壊するとか。


でも、ネットでその価格を見て諦めた。

請求されたら困る。


「ぱっと思いつくのは、隕石をどうにかすることだよね」


正直、それ以外思いつかない。


落とし物を持ち主に届ける、みたいなことをちまちましててもしょうがないし。

それは自助努力に任せる。


「私に隕石を何とかできる力があるわけないじゃん」


現段階でできそうなのは、目覚ましセットしたら時間停止状態でもその時間帯に世界が動くってだけ。


隕石の対処は私の業務外。


「…ていうか、もっと適役いたはずでしょ」


なんで私なわけ?


前見たエロ漫画で言えば、私は主人公にイタズラされる側の人間。

そんな私に能力を与えても、大したことは起きない。


まあ、嫌いなヤツの顔殴るくらいはしてもいいかなと思ってるけど。


「とりあえず、するべきことは隕石を何とかするってことにしよう」


他にするべきことがあればそっちを優先するかもしれないけど。


「で、それが決まったら後は何をしたいかだよね」


社会的使命がある中で、したいことを優先することの背徳感を味わいたい。

そういうニッチなことでしか、私は悦びを味わえない人間なのだ。


「時間があるからこそできるものねぇ…」


すぐに思いつくのはやっぱり英語。

この時代、英語はできないと困る。


でも、某ビジネス英語テストで53万点をたたき出す私には必要ない。


必要ない。



「運動とかやってみる?」


健康は何より重要。

年を取ってくると、色々気を使わないといけなくなる。


食習慣だけじゃなくって運動も必要とか普通のことを普通な顔した普通の大人に子どもの頃から言われてきたのだから、多分そうなんだろう。


「とりあえず、一日に一回は散歩することにしようかな」


好きな曲とか聞きながらだったら、そこまで苦痛じゃないでしょ。

他の人に見られないわけだから、身なりに気を遣う必要はない。


将来のしなやかな身体づくりのため、散歩をすることに決めた。


「ていうか、これもするべきことじゃない?」


いつの間にか私のしたいことじゃなくなっていた。

これじゃ背徳感を味わうことができない。


「まず今日はショッピングモールの中で散歩したからしなくていいかな」


なんならあのとき歩いたのって三日分くらいあるから明日と明後日は何もしなくていいでしょ。


三日坊主ですらない言い訳をしながら、私はご飯の準備を始めた。

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