第3話 寝ることで時間を操作するのは流石にダサいって
「え、ここで敵出てくるのってなくない?」
後退しながらマシンガンでゾンビたちを一掃する。
リロードしつつクリアリング。
「それにしても最近のゲームってリアルだなぁ…」
大学を卒業して以降は触ってなかったので、驚くことばかり。
今プレイしているのは、荒廃した世界を生き残るサバイバルゲーム。
なんか似たような境遇だったから、勉強がてらプレイしてみた。
流石に私のいる世界にゾンビはいない。
「やっぱゲームってフィクションなんだな…」
今の私の状況もフィクション寄りではあるけど。
「ていうか、普通に画面酔いしてきたかも」
これもフィクションだからだろう。
ゲームをセーブしてからシャットダウン。
水を飲むために台所へ。
水道水をコップに注ぎ、一口飲んでから捨てる。
「そういえば、この水って飲んでも大丈夫なのかな」
飲んでから心配し始める。
ほら、水を浄化するシステムあるじゃん。
あれってちゃんと作動してるの?
「でもまぁ、機械系は普通に動いてるし」
そこまで心配しなくても大丈夫かも。
お腹を擦りながらソファにもたれかかった。
「あーマジで暇…」
本当にやることがない。
社会人になってから受け身で生活してきたからか、自分のしたいことが何か分からなくなっていた。
大学生の頃もバイトを詰め込んでたから、大学生の頃も同じようなものか。
「ていうかよく考えたら、私、ずっと流されるような生活してきたな…」
高校も大学も、何となく親とか先生が勧めてきたからそこに行ったって感じだし、
高校の頃に付き合ってた彼氏も、付き合いなよ、みたいな雰囲気を周りが出してたから付き合ったって感じ。
結局、どれもそこまで不満はないけど、満足しているかって聞かれればそれは違う。
時間が止まってるせいで、自分と向き合う必要が出てきた。
「今したいこと、したいことね…」
とりあえずぱっと思いついたのは、さっきやったゲームを現実でしてみたい、ってことだった。
いやわかってるよ?
普通に銃刀法違反で捕まるっていうのは。
でも、ちょっと考えとして出てくるのは別にいいでしょ。
ほら、思想の自由ってヤツ。
他の人に迷惑かけるつもりなんて一切ないんだから、考えるだけ考えさせて。
「…いや、普通に咬まれたら痛そうだな」
それなら初手ゾンビが一番かも。
「ゾンビって空気感染できるのかな…」
いかに無痛でゾンビになれるかを考えながら、私は目を閉じた。
目を開けた。
「やっば、普通に寝ちゃってた…」
起き上がりスマホで時間を確認する。
やっぱり変わらない午前2時。
「確認しても意味ないか」
スマホをテーブルに置いて、もう一度目を閉じようとしたその時、
「そういえば、目覚まし時計ってどうなってるんだろ」
目覚まし時計だけは、目が覚めたときに時間が進んでいる。
毎日タイマーを設定しているけど、今回は設定していなかった。
その場合はどうなるんだろうと思って、ベッドに向かった。
目覚まし時計を手に取る。
「あれ、目覚まし時計止まったままなんだけど…」
時間は18時30分を示していた。
前回、私が設定した時間。
つまり、寝てから起きるまでにこの時計は動いていなかったということになる。
「何か法則性があるのかな…」
正直、分からないことが圧倒的に多い。
分かっているのは、時間が止まっているということと私が動けているということ、
そして隕石が衝突する1時間前ということくらい。
「そういえば、時間停止系の能力を持った漫画とかあるんじゃないの?」
完全に忘れてたけど、まさに今の私に適しているのはそういう本。
少なくとも、ご高説垂れる科学系の本ではない。
とりあえず、『時間停止 漫画』と検索してみた。
「…半分以上エロ漫画じゃん」
冴えない男の子がクラスの女の子にイタズラする感じ。
「よく考えたら、時間が止まってる中で動けるのが私でよかったな」
私がエロ漫画の主人公だったら、それこそ大変なことになってたぞ。
少なくとも現段階で、他の人と接触するつもりはない。
役に立ちそうな漫画を電子書籍で購入して読んでみた。
「このキャラは『ザ・ワールド』って宣言したら時間停止してるな…」
よく分からなけど、なんかかっこいい。
他の作品では指パッチンで止めたり、スマホのアプリで止めたりしていた。
スマホアプリ系は大体エロ漫画だったけど。
「ていうか前提だけど、私が時間を止めてるって考え合ってるの?」
時間が止まってて偶然私が動けてるから、時間停止の能力を持ってると思い込んでる、とかだったら恥ずかしい。
変なことしてて、いきなり時間が進み始めて恥をかくようなことはしたくない。
…変なことをするつもりはないけど、もしもの話だから。
さっきも言ったけど、思想の自由ってヤツ。
「とりあえず、時間停止系のキャラがやってることを一通りやってみよう」
私はスマホ片手に立ち上がった。
ちょっと、やってやりますか…
おそらく必要ない準備運動をしてから、私はそのキャラみたいに叫んだ。
「ザ・ワールド!!」
部屋の中に少し響いた私の声はすぐに掻き消える。
時間は…動いてなさそう。
目覚まし時計の秒針はピクリともしない。
ていうか私は時間を動かそうとしてるわけだから、重ね掛けになっているのでは?
それともアレかな?
裏の裏は表だから元に戻る、みたいな。
「良く分からないけど、失敗っぽい…」
ただ私が声出しただけじゃん。
お隣さんに聞かれてたら、引っ越しを考えよう。
とりあえず次だ。
「指パッチン、私できないんだけど…」
そう言いながら、親指と中指で音を鳴らそうとする。
「無理だ、一旦やり方調べよ」
ネットで『指パッチン やり方』で検索。
手順:
1. 中指を軽く曲げ、親指は中指の第一関節のあたりに添える。
2. 薬指を親指の付け根に添える。
3. 中指と親指を擦り合わせ、中指を親指の付け根にぶつける。
「マジでコレでできるの?」
この記事、ガセネタじゃないよね?
何度もやってもできない。
そろそろ指が痛くなってきたのであきらめよう。
次はスマホのアプリで時間が停止できる、ってヤツ。
「そんなんあったら私も欲しいんだけど」
流石に某アップストアにはないだろうから、『時間停止 アプリ』で調べてみた。
「やば、普通にR-18コンテンツばっかなんだけど…」
いや、調べる私も大概だとは思うけど。
いくつかのコンテンツのサンプルをちらっと見てから諦めた。
他も試してみたけど、時間が動きだしそうな気配はなかった。
「なに、じゃあ私って時間停止した中で動けるだけの人ってこと?」
外に出て時間が進み始めたら、漫画の一般人らしく驚いておけば問題ないだろう。
ひとまず納得してからベッドに入った。
「あまり寝れないけど、横になるだけだから…」
とりあえず、目覚ましは午前6時に設定しておこう。
最初に見た漫画を電子書籍で数巻読んでから、私は眠りについた。
ジリリリリリ!!
すぐにアラームを消して起きる。
「十分な睡眠取れたらめっちゃ目覚め良いじゃん」
もう一度寝ようという気にはならなかった。
カーテンから光が漏れていた。
昨日寝た段階ではなかったはず。
「あ、そういえば現在時間は…」
目覚まし時計で確認してみた。
午前6時だった。
「…コレって時間が動いているうちに入る?」
スマホで時間を確認してみよう。
午前2時だった。
「てことは…?」
ベッドで横になりながら考える。
おそらく日本は午前2時。
でも時間停止した空間では午前6時。
「やっぱりずれてるよね…」
理由は分からないけど。
「…目覚まし時計を設定したら、その時間に私が起きて、太陽もその時間帯に合ってるって感じ?」
多分合ってる。
これまでの経験からなんとなくだけど。
「でも、目覚まし時計を設定しなかったら、時間は変わらないんだよね…」
その理由はまだ良く分からない。
え、どういうことなの?
「ちゃんと整理してみよう」
私は起き上がり、投函されたチラシの裏に書き込む。
「まず一つ確実なのは、地球は止まってるよね、ってこと」
絶対: 午前2時 と書き込む。
「で、良く分からないけど、私が目覚まし時計で起きると時間は進んでる」
相対: X と書き込む。
つまり、二つの時間軸が存在する?
で、その相対的な時間軸だけ私は動かせるっぽい。
目覚まし時計をセットして寝ると、その時間になるし。
じゃあ私って、もしかして時間操作系?
しかも寝ることによって?
「…寝ることで時間を操作するのは流石にダサいって」
私も『ザ・ワールド』って叫びたかったんだけど。




