第2話 暫定一位は上司にDoS攻撃。
「えーっと、『地球滅亡の直前に時間が止まった場合、私は何をすればいいですか?』でいいかな」
どうすればいいか分からないので、とりあえず生成AIに聞いてみることに。
解答が出力される。
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もし地球滅亡の直前に時間が止まったのだとしたら、それは物理法則を超越した、あなただけの『究極の時間』ですね。
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もし物理法則が厳密に適用されるなら、時間が止まると「光」も止まるため、あなたの目には何も映らなくなります。
また、「空気の分子」も動かないため、一歩も動けず、息を吸うこともできないかもしれません。
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「そういえばさっきから息苦しいような…?」
いや、やっぱりそんなことない。
深呼吸してから、再び質問を入力する。
『とりあえず息は吸えてるんですけど、周りは全然動かないです。でもなぜか、私の目覚まし時計だけは目が覚めると動いてます。あと太陽も目が覚めると動いてます。』
よく考えたら生成AIくん、君が動けてるのもおかしくない?
でもMr. レスポンスはどこ吹く風。
入力した質問に対する回答だけが出力された。
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なるほど、あなたの周囲には「特定のルール」に基づいた奇妙な時間の流れがあるようですね。
その特殊な状況を生かして、滅亡を目前にした世界で以下のようなアクションを試してみたはどうでしょうか。
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「そういう話をしてるんじゃないんだけど」
ぼやきながら、とりあえず読み進める。
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「自分の目覚まし時計」と「太陽」だけが動いているということは、あなたの主観的なサイクルが時間を進めるスイッチになっている可能性があります。
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「…なんかあんまだな」
最後まで回答を見ずにブラウザバックした。
目が覚めると、太陽と目覚まし時計は動いている。
でも、現在時刻は午前2時のまま。
少なくとも、起きているときに太陽は動いていない。
ここ数日はずっと寝たおかげで、めちゃくちゃ頭が冴えている。
だから、生成AIが出力した内容の違和感にすぐ気づくことができた。
今ならノーベル賞総なめできるかも。
冷蔵庫を開く。
「やば、もう食べ物ないじゃん」
時間が止まった日の前日に買ったのが最後だ。
「こうなるんだったら、もっと事前に用意しておけばよかった…」
時間が止まることを予測して準備しているのもヤバいヤツだと思うけど。
「めんどいけど、おなかすいてるし…」
財布とスマホを持って外に出た。
夕方だった。
私が起きたのが18時30分だったから、それくらいの空気感ではある。
「そういえばすっぴんで外に出たの、めっちゃ久しぶりかも…」
感染症が流行ってる時期でも、目元のメイクはしてたし。
道路に止まっている車を見ながら、コンビニに向かった。
コンビニに到着。
自動ドアは普通に作動した。
店内に入る。
午前2時はこんな感じだよな、という雰囲気。
「鮮度とか大丈夫なのかな?」
流石に生ものは怖い。
時間が止まってからの日数を指折り数えながら、それでも大丈夫そうな食品を手に取る。
「精算どうしよ…」
そのまま持って行ってもよさそうだけど、とりあえず財布から小銭をレジに置いた。
万引きするつもりはなくって、店員さんが来ないからそうするしかなかったんですよ、という雰囲気を出すためだ。
大人のリスクマネジメントってヤツ。
そして私は外に出た。
「それにしても、都合がいい世界だよなぁ…」
軽く伸びをしてから呟いた。
人間は完全に止まっているけど、自動ドアとか生成AIみたいな非生命体は問題なく動いている。
地球滅亡の直前といっても、私にとっては楽園みたいなものだった。
家に戻りながら、あることを考えていた。
それは、いつまでこの時間停止状態が続くのかということ。
もしタイムリミットがあるんだったらちょっと怖い。
目が覚めた瞬間に地球滅亡、というのはやめて欲しい。
逆に私が操作できるんだったらそれはもう、って感じ。
それがわかるまではやすやすとこの状況を喜ぶことはできない。
家に到着。
コンビニで買ったクッキーを口に入れる。
いつも食べるのとまったく同じ味。
食べながらスマホで調べものをしていた。
その調べものとは、地球最後の日に他の人はどんなことをするのか。
「やっぱり、『大切な人と一緒にいる』が一番多いな」
本心がどうかは別として。
「大切な人か…」
ぱっと思いつくのはやっぱり両親。
でも田舎の方に住んでるから、ここから向かうはほぼ不可能に近い。
私、ペーパードライバーだから。
「大切な人の第二候補は?」
スマホをスクロールして記事を斜め読みする。
出てきたのは恋人。
地球最後に日こそ相手に愛情を伝えるとよい、みたいなことが書いてあった。
「恋人がいたのとか高校生のときだぞ」
高校の頃、ある日の放課後の話だ。
教室に戻ると、彼氏と私の友だちがキスをしていた。
幸か不幸か、私が目撃したことに気づいていなかったみたい。
だから適当な理由を付けて彼とは別れ、友だちとも卒業まではそれなりに仲良くしてた。
「よく考えたら大切な人がいても、同じ時間を共有できなかったらダメじゃない?」
この空間を動けるのは私だけみたいだし。
地球最後の日にしたいことの他の案を調べてみた。
「うーん、なんか全部微妙だな…」
スマホでタブを消してから呟く。
正直、心が躍るほどしたいかって聞かれるとちょっと違う。
ネットで調べるんじゃなくて、自分で考えてみようと思い立ち上がる。
「…そういえば、上司へのメールって送信されたのかな」
数日前に送ったヤツ。
スマホを開いてメールを確認してみた。
送信中で止まっていた。
「…コレ、なんか使えそうじゃない?」
なんだっけ、DoS攻撃っていう名前だった気がする。
会社の研修で名前を聞いたことがある。
大量にアクセスすることでサーバー負担を一気にあげて、サービス停止に追い込むってヤツ。
別に本気でしようと思ってるわけじゃないけど、やったら面白いことになりそう、とは思う。
とりあえず、地球滅亡の日にしたいことの暫定一位は上司にDoS攻撃。
「もし神様が数十億人の中から時間停止した空間で動ける人を一人選んだとしたら、絶対人選ミスしてるじゃん」
ランダムで選ばれたのかな。
少なくとも私は「そういうこと」を考える人間。
でも時間がかかったり、労力が使う系は流石に遠慮したい。
あと、地球滅亡の残り1時間で警察のお世話になってしまうのもごめんだ。
だから裸で外を歩くみたいなことはできない。
するつもりもないけど。
「とりあえず、今期のアニメでも見ようかな」
同僚におすすめされてたし、後で感想教えてください! とも言われてた。
いつもだったら、アニメのレビューサイトから適当に感想を拾ってくる。
そしてもれなくバレる。
「アニメ見た人の話し方じゃないんで、一瞬でわかりますよ」と言われた。
そうなんだって感じ。
「今回は時間あるし、ちゃんと熱い感想でも言ってみようかな…」
私はサブスク配信のアプリを開いた。
「なんか、あんまだったな…」
面白かったけど、誰かへの義務感で見るものではない。
どこら辺の感想が欲しいのか、とか考えているうちにワンクール見終わってしまった。
とりあえず忘れないうちに、感想をスマホのメモ帳に残しておこう。
「『7話あたりの展開が印象に残った』っと…」
小学生の感想みたい。
「さて…」
今からどうしよう。
アニメを見てすぐって全然眠れないんだよね。
「今の時間は…確認してもわからないか」
ずっと午前2時。
普段なら、もうそろそろ寝ないと流石にヤバいって思い始める時間だ。
でも正直、寝すぎて眠れる気がしない。
「一旦、音楽でも聴いて気を紛らわせよ…」
ワイヤレスイヤフォンをつけてベランダに出た。
やっぱり夕方。
涼しい風が入ってきた。
「そういえば隕石って肉眼で見えるのかな」
衝突1時間前の秒速20キロってことは…
「わからないけど、数万キロくらい?」
で、直径10キロだから…
「…考えるのめんど」
上見てもそれっぽいのはないから、見えないってことで。
好きな曲が終わって知らない曲が流れ始めたので、私は部屋に戻った。




