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地球滅亡の直前に時間操作の能力を獲得したので、したいこと全部してから地球を救います。  作者: 夏野恵


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第27話 走馬灯を活用した持続可能な電力発電

「したいことをするってなったら、やっぱショッピングモールでしょ」


私の声は無人の空間の中で響いた。

最初にしたいことを実現したのもここだった。


あの時は「好きです、付き合ってください!」と相手の存在しない告白をしたっけ。


「本当に人がいないってなったら、ここでやりたいことはたくさんあるよ」


そう呟いて歩き始めた。



私の足音だけが反響する不思議な空間。


人がいたころの記憶が薄まっているが、もう少ししたらもとに戻るだろう。


まず向かったのは二階にあるスーパーマーケット。

まず1つ目にやりたいこと、それは—


「コイツを2つ同時に押してみたかったんだよね」


入り口付近に配置されているショッピングカートに視線を移す。

どこにでもある普通のショッピングカートだ。


それを二つ手に取り、片手でひとつずつ押し始めた。


「やっぱ楽しいな」


両手で動かすために設計されたカートを片手で押す快感。


やったことのある人にしか分からないだろう。



今日のコンセプトは「法律的には全然大丈夫なんだけど『迷惑が掛かるからダメ』と言われるものを全部やってみる」というものだった。明日から普通の社会人として復帰する予定なので、法律的にアウトなものはリスクがある。


私は「人の迷惑になることをするな」という価値観にかなり違和感を覚えてきた。


人の行動を制限するための言葉としては、あまりにも雑だと思う。

そういう人達に向けて、私は今日一日を捧げたい。




危ない?

周りに人いないし。


店員に迷惑がかかる?

店員もいないし。


通報される?

通報する人いないし。


SNSにさらされる?

私以外の人動けないし。



「全部、他人ありきだよね」


法律も倫理もマナーもなにもかも全部、他人ありき。

誰かに迷惑が掛からないようにするために私たちは精神を削って生活している。


人間が社会的な動物だから仕方ないのかもしれない。

でも、ずっとその生活を続けるのは息苦しくなる。


だからこそのショッピングカート同時押しなのだ。


これは社会に対する反逆。

協調という名の相互監視から一歩外に出る行為なのだ。


「あーほんと楽しい」


満面の笑みで、私はカートを押し続けた。



次にしたのは、エスカレーター延々往復。

普段なら通行人の邪魔になるかもしれない。


でも誰もいない今なできる。


「エスカレーターってどういう構造になってるんだろ」


この踏み台みたいなのが巻き上げられて上に進んでるって感じだったら、細長い円みたいな構造になってるのかな。


実はマナー違反とされるエスカレーターの上り降りもやってみた。


「なんでこのマナー違反は許されてるわけ?」


みんなやってるからっていう理由で正当化するのはナシだ。

周りの人の迷惑になってるんだから、マナー警備員たちにも守っていただきたい。




「あーパソコンとか携帯の充電器持って来ればよかったな」


フードコートに来てから思い出した。

ほら、フードコートって充電ができる席あるじゃん。


あれを一人で複数使えば、かなりの背徳感を味わうことができたかもしれない。


「まあそれは別にいいか」


フードコートでやりたいことはそれ以外思い浮かばなかったので、さっさとその場を後にした。




次に向かったのはゲームセンター。


最初に手を出したのは音ゲームだ。


小銭を入れてプレイスタート。

適当に曲を選んで、ゲームが始まった。


何もプレイせずに、その映像だけを黙って見続けた。

“Miss”という表示が増えていくにつれて、徐々に楽しくなってくる。


そしてゲーム終了。


当たり前のように全部失敗の表示がされる。


「なんでこういうところの音ゲーって失敗しないようにプレイしないといけないみたいな雰囲気出てるのかな」


子どもの頃か疑問に思っていたことだった。

みんな雰囲気に飲まれているからだったりして。


「それなら私が音ゲー全失敗のパイオニアになってあげよう」


これで音ゲー初心者も安心してゲームをすることができるはずだ。



満足してから別のコーナーに向かうと—


「あっハリネズミいるじゃん」


クレーンゲームの景品としてハリネズミのぬいぐるみが陳列されていた。


以前このコーナーに来たときは、泣き目のウサギのぬいぐるみをゲットしたが、その隣にハリネズミはいた。


「前来た時は全然気づかなかったな」


早速100円玉を入れてゲームスタート。


ウサギよりも小さめのサイズだから、ある程度細かい動作が必要になってくる。


「よし、ここらへんで良いかな」


横の角度から何度も確認したうえでボタンを押す。


アームはハリネズミをそっと抱えて持ち上げた。

その後はゆっくり落下口まで持っていき、アームが開く。


ポスッ、と音を立ててハリネズミが落ち、100円で獲得することができた。


「私、もしかしてクレーンゲームマスターだった?」


ハリネズミのぬいぐるみを抱きしめながら呟く。

ここにきて私の隠された力が明らかになるとは。


ただ、もう一度やって「いや、気のせいだったかも」と思うのは癪だ。


成功率100パーセントという優越感を胸に、堂々とゲームセンターを後にした。



その後もショッピングモールで人がいないからギリギリOKの遊びをし続けた。



特に楽しかったのは「もしショッピングモールの外がゾンビだらけになったとき、どういう経路で逃げるか」という妄想。まずはスーパーで食糧を集めてから上の階に昇り、消毒液とか包帯を抱えてゾンビから隠れる、みたいなシミュレーションを実際にやってみた。


途中で体力がなくなり、私はゾンビのエサになってしまうことが判明した。


うーん無念。



ショッピングモールから出る。



半日かそれ以上、この建物の中で過ごしていたと思う。

ただ外の景色は散歩に出かけたときと何ら変わらない。


「ほんと楽しかったなー」


これが本当に時間の止まった世界で最後にするべきことなのか、と言われると少し疑問だが、本当に楽しかった。


家に帰る途中、ふと思い出して繁華街に足を運んだ。


「やあやあ、調子はどう?」


フランクに女子大生グループに話しかけた。

もちろん彼女たちが返事をすることはない。


「これで会うのは最後になるのかな?」


もしかしたら通りすがりで会うことになるかもしれないけど、話すことはもうないだろう。


「まあ、今も一方的に話しているだけなんだけど」


なんだかんだ孤独なこの生活を紛らわせてくれた大切な人たちだ。

一応感謝しておこう。


「ほんとありがとね」


助かったよ、言いながら彼女たちの肩をひとりずつポンポン叩いた。


「動かす前とちゃんと同じ位置にいるよね……?」


少し遠くから確認して、大丈夫そうだと判断したら彼女たちに背を向けた。


そして繁華街から出て行った。



次に訪れたのは公園。



そういえば、最後の一つの遊具で遊んでいなかった。


「絶対コレ、一人でやるヤツじゃないよね……」


私の視線の先にあったのは、支点力点作用点を生かしたあの遊具。


そう、シーソーだ。


流石に一人でやっても面白くないと思うが、一応乗ってみる。

自分の足でギコギコさせて動かしてみた。


「……やっぱ楽しくないよね」


まあわかってたけど、と呟いてすぐに公園から出て行った。


川での水切りは昨日したから、もうしばらくはやらなくても良いかな。


次の機会が自分の子どもと一緒にすることを願う。


近くのコンビニで200円の野菜ジュースを何本か買ってから帰路についた。



自宅に到着。



「ふぅー疲れたな」


まさに遊び疲れたって感じ。

童心にかえることができて良かった。


これで満を持して、社会人生活に戻ることができる。


そのとき、ふと頭にあることがよぎった。

「もうずっとこの生活のままでもいいのでは?」という考えだ。


わざわざ社会人に戻って楽しくないことをする必要はない?


「でもやっぱ私って飽き性だしなー」


ハリネズミを一刻も早くお迎えしたいというのもある。

この生活を長く続けるというアイデアは一瞬にして消えた。



シャワーを浴びてカップラーメンを食べる。



「そういえば地球滅亡の日もコレ食べたな」


あのときは最後くらいはちゃんと地球に感謝して食べようと思って、珍しく手を合わせた記憶がある。


「今日も久しぶりにやってみるか」


いただきます、と呟いてからカップラーメンを口に入れた。


「……やっぱ変わるわけないか」


化学調味料混じりの味はいつも通りおいしかったものの、格別においしいというわけではなかった。


地球に感謝してもおいしくなるわけではないらしい。


「ごちそうさまでした」


一応、手を合わせて地球に感謝した。


カップ容器をゴミ袋に入れて歯磨きをする。


いつもより時間をかけて丁寧に奥歯を磨いた。



「もう寝るかー」


スマホをいつまでも見ると寝つきが悪くなるらしい。


ブルーライトは2時間以上前にシャットアウトした方が良いという情報を、隕石衝突の数時間前に知ってイラっとした覚えがある。


スマホの画面を伏せた状態で充電器に挿した。


一瞬スクリーンが明るくなったが、すぐに電源を落とす。


疲れた体を引きずってのそのそとベッドに向かった。


「明日は平日だから、ちゃんと目覚ましを設定した方が良いよね」


いつも通り、5時30分に目覚まし時計をセットする。


明日には絶対時間と相対時間が再び一つになっているのだろうか。


「あんまイメージ湧かないなー」


隕石が無くなったら絶対時間が進むという考えに基づいているので、間違っている可能性もある。


でもその時のことはその時考えよう。

隕石の時間を進めることが最優先だ。


「どうしようかな、何年くらい進めたら完全に壊れるのかな」


昨日の実験では、川の石は6兆年経過すると完全に存在が無くなるということがわかった。しかし隕石はそれよりもずっと大きな物体なので、それに応じた年数分進めることにしよう。


「川の石が10センチだとして、隕石は直径10キロだったかな」


そうなってくるとどうなるんだっけ?

いち、じゅう、ひゃく、と桁を指折り数えながら、今日進める年数を決めた。


「やば、桁数大きすぎて数えれないんだけど」


わざわざリビングに戻って比例式を書いてみた。



10cm : 6兆年 = 10km : X

X = 60,000,000,000,000,000


「6,000京年、かな……?」


単位の読み方はあまり詳しくないが兆の次に来る単位だったはず。

ハリネズミたちを絶滅の危機に陥れた罰として、このくらいの時間耐えてもらおう。


隕石が徐々に風化していく姿をイメージしながら、ベッドに戻った。

そしていつも通り、枕を抱いて満足するまでゴロゴロする。


「じゃあおやすみー」


誰に言うわけでもなく呟いた。

そして瞳を閉じる。



徐々に時間の止まった世界での生活を思い出した。


色々あったけど、ためになることは1つもしていない。

でも、本当に楽しかったな。


あれ、コレってもしかして走馬灯ってヤツ?


死ぬ直前ではないんだけど。

そういえば走馬灯の『走馬』って何なの?


隕石の降る直前は走馬灯の『灯』に注意がいったけど、よく考えたら手前の言葉もおかしいぞ。


だって『走馬』って走る馬ってことでしょ?

馬って大体走るでしょ。


1人ずつ馬を走らせてたら全人類で70億馬力になるから、相当なエネルギーが生まれそうだよね。


『走馬灯を活用した持続可能な電力発電』とかどう?


そんなくだらないことを考えながら、私は眠りに落ちた。




ジリリリリ!!


けたたましいアラームが部屋の中で響く。


「もう……」


唸りながら目覚まし時計を切って時間を確認する。


5時30分だった。


それはいつも通り。


背伸びをして身体を左右に動かす。

骨がポキポキ鳴らして欠伸をした。


カーテンを開いて外の様子を見てみる。


いつも通りだ。


「まあ5時30分だからね」


別に人の気配がしないのはおかしくない。


リビングを通り、キッチンに向かう。

食パンを電子レンジの中に放り込んでから電子ケトルで水を沸かせる。


これもいつも通り。


電子レンジの前でぼーっと待っている間に、リビングのカーテンも開けることにした。窓を開けて外の様子をしっかり確認してみる。


「あれ?」


全然人がいないな。

車も通っていない。


電子レンジが音を鳴らしたので、とりあえず食パンを取り出す。


「もしかして……」


少し焦ってスマホで時間を確認しようとした。

しかしちょうどその瞬間に電子ケトルがお湯を沸かせたことを知らせる。


「……とりあえずコーヒー作ってからにするか」


キッチンに戻り、インスタントコーヒーの粉をコップの中に入れる。


「やっぱおいしくないよね」


いつも通りの感想を呟いてから、すぐリビングに戻った。

背中を向けたスマホを充電器から取り外して現在時刻を確認してみた。



「……は?」


表示されている時刻に眉をひそめる。




でかでかと示されているのは、いつも通りの午前2時だった。

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