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地球滅亡の直前に時間操作の能力を獲得したので、したいこと全部してから地球を救います。  作者: 夏野恵


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第23話 そんなの紅葉狩りじゃなくて初心者狩りじゃん。

「そろそろ狩るか」


漫画で見たセリフっぽいことを口にする。

おそらく紅葉狩りに使うセリフではない。



私の目の前に広がるのは、真っ赤に染まる山。



1時間かけて自転車を漕いだかいがあった。


「階段上るだけで頂上に行けちゃうんだな」


初心者向けの山という言葉通り、山道は階段で完全に舗装されていた。

ただその階段というのが多い。


「標高400メートルって何段くらいあるんだろ」


わからないけど、1,000段以上は少なくともある。

果てしなく続く階段を見て怯んでしまった。


まだ登り始めていないが、自転車でここまで来たため体力をかなり消耗している。

今からコレを登ったあとに1時間かけて帰るつもりだ。


本当に山登りして大丈夫?


「まあ『千里の道も一歩から』っていうし」


私が上るのは標高400メートルの山でしかない。

千里が何メートルくらいなのか分からないけど、千里に比べたら難しいことではないはず。


色々頭の中で言い訳をして立ち止まっていたが、ようやく最初の一歩を踏み出した。



無言で歩き続けるなかでふと思い出した。



「せっかく紅葉狩りをするんだったら、外の景色とかも楽しまないと」


なんでも、紅葉狩りの醍醐味は風景の鑑賞らしい。

すぐに首を左右に振って確認する。


「うーん、これを見て楽しいって感情湧かないけどな……」


平安時代の貴族ならイカした俳句の一つでも詠みそうだが、残念ながら何も思い浮かばなかった。


頭に出てくるのは『苦』という一文字のみ。

季語なんて一文字も入らない。


「それにしても……」


あたりの木々をざっと見回して感じたことがある。


「紅葉、全部同じ色ってことあり得るの?」


この山にあるイチョウやカエデの木はすべて真っ赤だった。

私の紅葉狩りイメージはもっとグラデーションになる感じだったんだけど。


「私の想像力が足りてなかったのかな」


紅葉狩りと言えば真っ赤な葉っぱでしょ、という小学生レベルの発想しか寝る直前の私になかった。その結果、こんなことになってしまったのかもしれない。


「……とりあえず歩くか」


いつまでも立ち止まっていると、疲労で動けなくなる可能性がある。


再び無言で歩き続けた。



「はぁ、はぁ……これ何時間かかるの?」


スマホのストップウォッチで登山開始からの経過時間を確認する。

これが時間の止まった世界で経過時間を確認する唯一の方法だ。


自転車での移動時間もこうやって確認している。


「まだ40分か……」


この山を登頂するのにおおよそ1時間30分かかるという登山者のコメントを参考にすると、あと半分以上かかるということが言える。


「まだ半分行ってないって納得できないんだけど……」


気分的にはもう登頂してもおかしくないと思っていた。


ていうか、別に山に来たからって山頂まで目指せなんて誰も言ってないよね。

なぜか一番上を目指したがるけど、山の中間で満足して帰っても問題ないじゃん。


頭の中で言い訳がポンポン浮かんでくる。


「でもなぁー……」


溜め息を吐いて、延々と伸びる階段を見上げる。


「まだ道中ですよ」みたいな顔をしている階段があるので、上り続けないとダメな気分になってしまう。


「……行くか」


深呼吸してから再び歩き始めた。


汗を拭いたり、こまめに水分補給をしたりで休憩を挟みつつ足を前に前に運んで行った。



「ここが山頂……?」



開けた場所にようやく到着した。

ベンチがあったのですぐに腰を下ろす。


「はぁーきっつ……」


水を喉に流し込み、手で顔を仰ぎながら、頂上からの景色に視線を移す。

目の前に広がるのは、この山の赤と他の山の緑との綺麗なコントラストだった。


「この山だけ赤くなるように念じたからかな」


別の時間軸に身を置く山々の風景。

幻想的というより奇妙という印象だね。


この山の真っ赤な紅葉越しに透ける緑色は、見ているとどこか不安になってくる。


「大体2時間か……」


ペットボトルのキャップを締めて、ストップウォッチで時間を確認してみた。

ネットでコメントしていた自称初心者よりも登頂するのに時間がかかったということになる。


「……いや、この人が勝手に自分を登山初心者って言ってるわけだしな」


もしかしたら中上級者なのに初心者を騙ることで、登山した人がその人の時間を切れなかったときに「自分は初心者以下なんだな……」って残念に思わせるための工作だったりするのかもしれない。


そんなの紅葉狩りじゃなくて初心者狩りじゃん。



疲れが少しとれるまで景色をゆっくり楽しむ。

スマホも圏外なので、山頂からの景色を見る以外にすることがなかった。


デジタルデトックスもできて一石二鳥だね。



「そろそろ帰るか」


身体もある程度元の状態に戻った。

紅葉狩りの後半戦に入ることにする。


登った階段を黙々降りる。


帰りは少し余裕があったので、山の空気感や木漏れ日を楽しみながら麓まで降りた。



「はぁー疲れた」


スタンドを立てた自転車に乗りながら呟く。


ストップウォッチで時間を確認してみると、1時間30分と示していた。

登りと降りを比べると、降りのほうが30分程度早いことがわかる。


「あの自称山登り初心者、帰りの時間を登りの時間として虚偽申告してたんじゃないの?」


やっぱり私が登山初心者に遅れを取るというのは気に食わない。

『私も1時間30分でした!』という主語の欠けたコメントを残して帰路についた。


嘘はついていない。



自宅に到着。



「もう筋肉痛始まってるんだけど……」


自転車を元の場所に戻したところまでは良かった。


そこから家まで徒歩数分。

その数分の間に筋肉が痛み始めたのだ。


特にふくらはぎが痛い。


「明日は何もできなそうだなー……」


そのつもりだったし、別にいいんだけど。


「……ていうか私、なんで紅葉狩りしたんだ?」


今更ながら疑問に思った。


実験をする、という目的もあったがそれは後付けだ。

わざわざ身体を痛めてまで山登りをする必要はない。


なんで山に行ったんだっけ?

本当に思い出せなかった。


「私、無計画に行動するタイプじゃないんだけどな」


昨日の自分が何を思って紅葉狩りに行ったのかを考えつつシャワーを浴びた。


シャワーから出る。


「あっそうだ、」


ぼーっと髪を乾かしているときにやっと思い出した。


「前回自転車で海に行ったから流れで山に行ったんだ」


せっかく山に行くなら紅葉狩りでしょ、みたいなノリがあったのだ。

そして『あること』をするのを忘れていたことを今になって気づいた。


「やば、山頂で『ヤッホー!』ってやるの忘れてた……」


思わず天を仰ぐ。


前回は帰る直前で思い出したけど、今回は完全に失念していた。

アレをしないで山登りを終えるというのは、画竜点睛を欠くと言っても過言ではない。


まさに痛恨のミス。


私は何のために山登りに行ったんだ。


「借りはいつか必ず返す……」


「覚えとけよ」という捨て台詞を吐いて、私はドライヤーを洗面台に持っていった。

その後はいつも通り時間を潰してベッドに入った。


ちなみに翌日は筋肉痛で動けなかった。

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