第18話 コーヒーのカフェインでガンギマリになった
散歩を終えてシャワーを浴びた。
「今更何かする気起きないんだけど……」
散歩中に色々な疑問が浮かんできたけど、正直明日の自分にパスしたい気持ちがかなり強い。
「明日やろうは馬鹿野郎」なんて言葉があるがそんなこと知ったことではない。
明日の自分が仕事を横流しして欲しくなくてそんなことを言っているのだろう。
そう、「明日やろうは馬鹿野郎」とは明日の自分によるプロパガンダ。
一方今日の自分はレジスタンス。
抵抗の証明として明日の自分に生まれた疑問を正々堂々横流しをすることにすることに決めた。
「でも、何に対して疑問を感じたのかくらいはまとめておくか……」
なんだかんだ言って、苦しむのは自分。
明日の自分に優しい今日の自分でありたいので、少しだけ手助けをすることに。
「えーと……」
散歩中に生じた疑問をチラシの裏に箇条書きする。
1. 時間を操作できる対象はどこまでなのか?
2. どれだけ時間を操作できるのか?
「今のところ操作できる対象は相対時間の時間と天気かな」
相対時間の時間というのも実は良く分かっていない。
目覚まし時計の針が動いているだけで、太陽とか気温といったものが独立して動いている、みたいな可能性もある。
「……とりあえず、今は考えないでおこう」
明日の自分にパスだ。
2. の疑問に移る。
「どれだけ時間が動かせるかって話になると……」
別のチラシに前提と計算式を書き込む。
前提:
1. 今が7月中旬
2. 雪が降るのは12月中旬
計算式:
5か月×30日×24時間=3,600時間
「少なくとも寝ている間に3,000時間以上は動かせるってことかな」
スマホの電卓を使って計算した。
「よし、ここまでやったら明日の自分に文句言われることはないでしょ」
チラシをクリアファイルに入れて伸びをした。
ソファに寝ころびながらスマホを眺める。
「今日の私、めっちゃ頭良いなー」
我ながら自画自賛だ。
もしかして少し前に飲んだ野菜ジュースのおかげだったりして。
またコンビニで買い占めておこう。
「でも一番近いコンビニの野菜ジュース、もうそろそろ品切れだよなー」
明日は別のコンビニに行くことに決めた。
その後は名前だけ知ってる配信者の切り抜きを見ながら時間を潰した。
「そろそろ寝るか……」
眠気はそこまでないけど、いつまでもスマホを眺めているのも良くない。
ベッドまでのっそり歩く。
「外が明るすぎるっていうのが良くないんだよね」
相対時間でいえば今は午前中。
カーテンは遮光のものに変えたものの、隙間から入ってくる光を完全に防ぐことはできない。いっそのことシャッターを下ろそうかと思っているが、最近はすぐに眠ることができるので、まだ実行はしていない。
目覚まし時計をセットしてベッドの中に入る。
「……あれ?」
ふと疑問に思った。
「目覚まし時計をセットするのってなんで必要なんだ……?」
私がこうなってほしいという時間まで睡眠中に進む、という考えが現段階で優勢。
それなら目覚まし時計をセットする必要がないのでは?
「ちょっと試しにやってみようかな」
目覚まし時計のスイッチをオフにする。
もしこれで時間が進んでいれば、思考が世界に影響を与えているという謎能力の存在解明にかなり近づく。逆に時間が止まったままであれば、やっぱり目覚ましをセットするという行為に秘密があるということになる。
「よーし」
頭の中で、「午前7時に動け」と念じてみた。
これだけで時間が動くとは思えないけど、何度も念じる。
これだけ念じれば大丈夫かな、と満足して布団の中にもぐりこんだ。
午前7時に起きとか、めちゃくちゃいい生活をしていると思う。
時間が止まる前は基本的に平日は午前5時30分起きで、休日は目覚まし時計をセットせずにひたすら寝続けるという生活を送っていた。
あの頃とは違って今の私は健康的な生活を送ることができている。
もし元の生活に戻ったとしても散歩はずっと続けたいな。
そんなことを考えながら、私は眠りに落ちた。
ずっと何かを追いかけている夢を見た。
自分でも何を追いかけているのかわからなかった。
そこが夢だとわかった瞬間、私は追いかけるのをやめた。
瞼を開けた。
寝汗をかいていた。
「いま何時……?」
目を擦りながら時間を確認する。
時間は寝る前と変わっていなかった。
「とりあえず着替えよ……」
タオルで身体を拭いて、キッチンに行って水道水をコップに注ぐ。
「やっぱり時間は変わってなさそうだなー」
そう呟いてから、コップの水を口に含んだ。
カーテンの隙間から入ってくる光はいつまでも変わらない。
今カーテンを開くと眠気が完全に冷めそうなので差し控えることにした。
「とりあえず、目覚まし時計をセットするのが大事だってことね」
あまり頭は回らないが、そう言うことなのだろう。
服も着替えてから目覚まし時計をセットし、エアコンの温度を少し下げて再び眠ることにした。
こんな汗かくくらいなら冬のほうが良かったりしそう、と思っているときだった。
「……えっ?」
ある可能性が頭の中をよぎった。
もしかして、今私がそう思ったら明日冬になる可能性ある?
「いや、普通に困るんだけど……」
寒暖差で風邪ひきたくないし。
頭の中では再び色々な可能性が起き上がり始めたが一旦無視する。
いやー頭が良すぎるっていうのも困りものだね。
枕を抱いてゴロゴロしてから目を閉じた。
今回は夢を見なかった。
ジリリリリ!!
目覚まし時計を止めて欠伸をする。
深呼吸をして起き上がった。
「やば、エアコンつけっぱだった」
いつもはタイマーをセットするんだけど、眠気眼でエアコンをつけたため完全に忘れていた。
「電気代とか大丈夫かな」
そういえば時間が止まっている間の水道光熱費ってどうなってるんだろう。
今更ながらその疑問が生まれた。
でもそれを確認する術は現段階で思いつかない。
「……今日からはエコで行くかな」
今の私にできることと言えばそれくらい。
とくにシャワーを浴びているときの水の出しっぱなしもこれからは控えることにしよう。
カーテンを開けて外の様子を確認してみた。
「午前7時っぽいなー」
外の景色は昨日と変わっていた。
冬にはなっていないので一安心だ。
やはり目覚まし時計のセットが鍵を握っているらしい。
「とりあえず、朝食の準備するか」
キッチンに入って食パンを温める。
私は同じものを食べ続けることができる人間だ。
基本的に飽き性ではあるものの、食事についてはそれが当てはまらないらしい。
そもそも、食パンは一日に一回しか食べないんだから、大体24時間くらいのサイクルがあるわけだ。
24時間後には前の食パンの味なんて忘れている。
だからずっとおいしい。
インスタントコーヒーに口を付けた。
そこまでおいしくないと思いながらなぜ私が毎朝飲んでいるのか。
その理由はシンプル。
コーヒーを飲む大人ってなんかカッコいいというイメージが子どもの頃にあったからだ。
親が毎朝飲んでいた。
中学校のころ、親がいない間にインスタントコーヒーの粉をこっそり拝借してコーヒーを飲んだことがある。
めちゃくちゃ苦かった。
でも大学生くらいに再びコーヒーにチャレンジしたら意外といけたので、それ以降は毎朝飲むことにしている。
飲めるだけで「おいしく」飲めるわけではないんだけど。
「よーし」
コーヒーのカフェインでガンギマリになった私は再びテーブルに座って昨日生まれたいくつかの疑問を考えることにした。




