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地球滅亡の直前に時間操作の能力を獲得したので、したいこと全部してから地球を救います。  作者: 夏野恵


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第16話 私の能力で氷漬けにするぞ。

「私が『雨降らないかな』って思った翌日に雨降ったんだよね……」


それ以外の日は「一度も」雨が降っていないのだ。

これは何か重要だったりするかもしれない。


「例えば天気を操作できる……みたいな」


あり得ないとは思う。


でも時間が止まっているというあり得ない状況にいるのだから、あり得ないことの一つくらいあってもおかしくない。


「……とりあえず私が天気を操作できる、ということにしておこう」


とりあえずね、と繰り返し呟く。


チラシの裏に、「できること: 天気の操作(?)」と書き込んだ。


「これを確認するんだったら、普通に『この天気になって!』って思えばいいのかな」


発生条件が良く分からないけど、雨が降った日の前日は雨が降ったらいいのに、と考えた記憶がある。


「だったら、『雪になって!』って思うのが一番良いよね」


この7月に雪が降ることは普通考えられない。

何か特殊な能力が働いていると考える方が妥当だ。


「とりあえず、寝る前に雪になるようにお願いしておくか」


考えるだけでいいのかわからないので、何かお供え物でもしておこう。

あなたに200円の野菜ジュースを一本献上いたします。



シャワーを浴びてからリビングに戻る。



「そういえば髪って伸びたかな」


ドライヤーで髪を乾かしながら毛先をいじる。


一か月に髪が伸びるスピードは1センチ程度という話を聞いたことがある。


高校時代に前髪をセルフカットしたときにミスって色々調べたのだ。


髪が早く伸びる方法を授業中にさりげなくやっていたら、それを見た友だちに「今の環ちゃんも可愛いよ!」と励まされた。でもそのあとに「写真撮っていい?」と聞かれたので、おそらく悪い意味での「可愛い」だったのだろう。


あの時は学校に行くのが恥ずかしかった。


丁度梅雨の季節だったから、豪雨で休校になるよう何度もお願いして、てるてる坊主をさかさまに10個吊り下げた。


ちなみに休校にはならなかった。


「うーん、あんまり変わってなさそうだけどな……」


スマホの自撮り機能で髪の長さを確認してみた。


1か月程度じゃわからないか。


「もうちょっと経ってから確認してみよう」


ドライヤーを洗面台にもっていって動画サイトを開く。


「何見よっかな……」


サブスクのアニメとか映画でもいいけど、サクッと見れるものが良い。


1時間黙って見続けるのは得意ではない。

30分後くらいにはそわそわしてしまう。



結局、隕石関係の動画を見て時間を潰すことにした。



「もうちょっとハッピーに説明できないの?」


この世の終わりみたいな話し方でこの世の終わりみたいな内容を話していた。

確かに雰囲気には合ってるけど、どうせならもっと楽しそうな内容にした方が良いと思う。


「私なら謎の効果音とか入れまくるけどなぁ」


子どもの笑い声とか、馬の鳴き声とか。


おそらくコレは私の理想の葬儀像に関わっている。


もし私が死んだら葬儀は明るい感じで執り行って欲しいと常々思っているのだ。

遺影は私がお焼香をしているときの写真にしてもらう。


一世一代の変顔でもいい。


「とにかく、泣かれるのはイヤだな」


泣かれるために死んだわけじゃないし、泣かれるために生きてきたわけでもない。


満面の笑みで参加してもらいたい。


「うーん、満面の笑みっていうのもちょっと怖いな」


それはそれでホラーになりそう。



そんなことを考えているうちに、動画が終わってしまった。



暇つぶしは済んだのでベッドに向かう。


「雪が降るようなてるてる坊主の作り方ってあるのかな?」


興味が湧いたのですぐ検索。


「え、てるてる坊主をさかさまにするだけでオッケーなの?」


どうやって雨と雪を区別するんだ?


色々調べてみたが、「てるてる坊主で天気を変えられるわけないでしょ(笑)」みたいなマジレス専門家たちのアンサーしか見つけられなかった。


「そんなこと、聞いてる方も分かってるっての」


なんでそんなこと真顔でできるのかな。



私の能力で氷漬けにするぞ。

君のアカウントを永久凍結だ。



「他の国では似たようなのあるのかな」


そこまで眠くなかったので、他の国の文化も色々調べてみることにした。



アメリカ: スプーンを枕の下に入れる、氷をトイレに流す。

中国: 掃晴娘、太鼓や爆竹で雨雲を呼ぶ。

インド: カエル同士を結婚させる(?!)、雨神インドラに祈祷



「ぱっと調べただけでもこんなにあるんだ」


ちなみにアメリカでは、学校の休校を願う子どもたちがやっているんだとか。


「寝るかー」


スマホを充電器に挿して目覚まし時計をセットした。

これも言ってみれば呪いの一種かな。



さあマジレス専門家、君たちの意見が正しいかどうかここではっきりさせよう。



意気揚々に私は目を閉じた。



頭の中には人畜無害そうなてるてる坊主の笑顔が浮かんだ。



ジリリリリ!!


「さっむ……」


布団に包まって目覚まし時計の音を聞こえないようにする。


ヤバい、明らかに寒い。


身体の震えが止まらないが、目覚まし時計の音が鬱陶しいので、手だけ出して目覚まし時計を布団の中に引き込む。


さっさと消して時間を確認してみた。



午前7時だった。



「え、なんでこんな寒いの?」


息を吐くと白いもくもくが部屋の中でも生まれる。


「むりむり……」


布団の中で身体を丸めて寒さに耐える。


本当に寒い。



しばらくすると布団の中があったまってきた。

その布団に包まれながらリビングまで向かう。



「え……?」



遮光カーテンを開けるとそこは雪国だった。



え? え? と戸惑いながらその景色を眺める。

手の力が抜けて、布団を床に落としてしまった。



雪は、空で完全に静止していた。



「マジか……」


しばらくの間、ぼーっとその景色を眺めていた。


「さっむ」


暖房入れてから冬用の服を引っ張り出してきた。

とりあえず朝食の準備だけする。



「はぁーマジか……」


朝起きてから何度も「マジか」と呟いている。


雨が降るのは分かるけど、今の季節は7月の夏真っ盛り。

本当に雪が降るとは思わなかった。


食パンをオーブントースターから取り出してもそもそ食べる。


「これって目覚まし時計のヤツと関係するのかな」


ぼそっと呟いた。


目覚まし時計をセットしないと外の風景は変わらない。

相対時間が変化することに理由があるのか、それとも全く関係しない何かなのか。


まだ色々確認することがありそうだ。


「ていうか、外の人たち大丈夫なのかな」


ちょっと心配になってきた。


繁華街にいる女子大生グループはかなり露出度の高い服を着ていたはず。

この雪の中で何時間もいれば、最悪凍死してもおかしくない……?


「……いや、私は関係ないし」


雪が振ったのが私だからって、私のせいで彼女たちが凍死したとしても法的責任はないはず。


そう、これは完全犯罪。

いや、別に私は犯罪してないけど。



「とりあえず、様子見てくるか……」


本当に可哀そうなことになってたらごめん。

可哀そうなことになってなかったとしても、せめて雪の当たらない場所に移動させておこう。



マフラーとニット帽、そして三重に服を着重ねて外に出た。



「やっぱ止まってるよねー……」


雪は空中に静止していた。

それは前回雨が降ったときと同じ。


エントランスまで降りて、手袋を外してから一番近い雪に触れてみた。


「つめた……」


雪は私の人差し指にくっついた。

手を振って落とす。


「粉雪っぽいな」


乾燥している感じ。

水分が多くて服がびちゃびちゃになることはないと思うけど……


「えーどうしようかな」


目の前に広がる大量の雪の粒を見て溜め息が出る。

その白い息は上に伸びて行った。


「よし、行くか……」


雪が目に入らないよう俯きながら繁華街へと進む。


「さむいさむい……」


夏と冬どっちが好きかと聞かれたら、間違いなく冬。

でも今どっちが好きと聞かれたら、絶対に夏と答える。


普通の冬なら道路まで凍って冷たくなりそうだが、雪は地面に着く「直前」に停止しているので、滑りやすくはなっていなかった。



「あー着いた……」


いつも繁華街に行くより5分くらい長めにかかったと思う。

両手をこすり合わせながら、女子大生グループを見る。


「ぱっと見、普通っぽい……?」


肌の血色も悪そうには見えない。


ただ私は凍死している人を見たことがない。

血色のいい状態で、立ちながら死ぬってこともありえる?


「すいません、失礼しまーす……」


いけないことをしている気分だが、これは確認。

別におかしいことはしていない。


そんな言い訳をしつつ近くの女の子の首筋に触れてみた。


「あれ、普通に温かいじゃん」


「人肌」というとちょっといやな表現だが、私の体温とほとんど変わらなかった。

他の女の子の体温も私と比べて明らかに低い、ということはなかった。


「よかったぁ……」


本当に良かった。


一方的だが、この女の子たちとはなんだかんだ顔見知りみたいになっている。

名前も顔と恰好から適当につけているから、それなりに愛着があった。


もちろん彼女たちの免許証か学生証を確認すれば答え合わせができるが、そういう無粋なことはするつもりがない。


頭の中で楽しむくらいがちょうどいいのだ。



「よいっしょ……」


彼女たちを全員数センチずらして、屋根の下に持ってきた。

移動させる中で身体に少し触れてしまったがノーカンだろう。


何もやましいことはしていない。

本当にしていない。



「じゃ、もう帰ろうかな」


やることないし。

彼女たちの安否が確認できたので、ここに用はない。


またね、と呟いて繁華街を後にした。

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