#2
とはいえ、どうしたものか。
例えば急用ができて、理る暇もないほど急いでいたのかもしれない。自分と妻は夜更かししたせいで朝六時まで寝てしまっていたから、宿代だけ置いて出発した可能性もある。
だがやはり、できれば消息を知りたい。可能な限り町中を歩き、会う人会う人に客人を見掛けていないか尋ねた。
しかし誰もかれも首を横に振るばかりで、終いには歩き疲れて売店で休憩することにした。ほとんど途方に暮れていたのと、あまりにも早く帰って妻の機嫌を損ねることが恐ろしかった為、冷えた烏龍茶を飲んで知り合いと雑談をしていた。
「うん。とても男前な、今どきって言うのかな。若い兄ちゃんなんだけど、朝になったら居なくなってたんだよ。泊まってる間は変な人には見えなかったんだけどな」
知り合いの男は無精髭を撫でながら笑い飛ばした。朝から瓶ビールを飲んで、陽気に缶詰めを開けている。自分も飲みたかったが、酔って家に帰ったらそれこそ何事だと怒号が飛ぶ。ビールを尻目に、妬ましくため息をもらした。
「でも、こんな町に観光に来てる時点でちょっと変じゃないか? 温泉もないし特別食いもんが美味いわけでもない。畑しかない集落なんだから」
「あーら、こんな美人がいっぱいなのに何言ってんの」
店の女主人が話に割って入り、自分も麦茶をいれて飲み始めた。
「それより、そんな良い男なら何で教えてくれなかったのさ。すぐにでも飛んで会いに行ったのに!」
「客はアイドルじゃないからな。皆が家に押しかけてきたら女房が怒る」
最後の一口を飲み終え、店先に並べられている果物に目をやる。そういえばあの青年も、夜に突然果物が欲しいと言ってきた。ちょうどその夜は夕飯に林檎を出して切らしていた為、何も渡すことはできなかったのだけど。
後々どこかの店へ出掛けていたみたいだけど、お目当ての果物は手に入ったのだろうか。何故か今、そんな心配を始めてしまった。
そうこうしてる間に時間は過ぎ去り、もう昼時だった。もう帰ってもどうこう言われないだろう。妻は昼飯の準備で忙しいはずだ。
「ごちそうさん。とりあえず一回帰るよ」
「おう。もし何か分かったら電話する」
男は片手を上げて返した。店主の女性も頷き、そして首を傾げて呟いた。
「でも一週間もこの町にいて、あなた達以外その人を見てないなんて。不思議ねぇ」




