#6
草木も眠る丑三つ時。自分はまだ子どもだったが、旅と称して各地を転々としていた。同じ仲間を見つけるためと、居心地の良い場所を見つけるためだ。それが終わったら元の住処に帰り、見てきたものを親や兄弟に教えるつもりだった。
暑いのは苦手だったが徐々に南下し、貨物船に上手く紛れて初めて海を渡った。お金もないし、人のふりをしても力不足ですぐに怪しまれてしまう。それならいっそ素のままで、と開き直って移動した。幸い人にも外敵となる存在にも出くわすことなく旅は続いた。
行くべきは町ではなく、山の中。足が痛くても、疲れて嫌になっても歩き続けた。やがてお腹が減って辿り着いたのは、ある小さなお社。
そこは自分が知ってる神社よりずっと地味でみすぼらしい印象だったが、お供え物はしっかり置いてあった。りんごや栗、柿などが小皿に置いてある。階段から一直線、そっと近付いた時……後ろから声を掛けられ飛び上がった。
『あなた、ここで何してるの?』
“それ”と会ったのは初めてじゃない。でもここまで間近で、しかも向こうから近付いてきたのは初めてだった。だから殊更驚いた。
普通なら自分に驚いて逃げる存在のはずだ。よほどこの場所が大切なのか、近くに子どもでもいるのか。どちらにしてもどうするべきか、慌てて間合いをとって身構えた。
しかしその相手は臆することもなく、飛びかかってくることもなく、じっとその場に留まった。こちらを警戒しつつ、冷静に状況を見ている。
『お腹が空いてるのね。そこにある食べ物を持っていきなさい』
それは思ってもみない言葉だった。まさかそんな風に同情……いや……
分からない。けど自分のような余所者を受け入れ、誇らしげに神社の良いところを述べてきた。
ここはいつまで経っても自然が破壊されない、本当に素敵な場所だと。ここで生まれて、育って、死ぬときはこの森で死にたい、と“彼女”は言った。
自分の住処を愛するのは皆一緒だ。それだけは共感できて、大人しく話を聞いた。一個だけと思ったのに、お供え物は全てたいらげてしまった。それでも彼女は何も言わず、私が食べ散らかしたことにする、と皿をひっくり返した。 今は銃を持った人間がわんさかいる。そんなことしたら危ないと忠告したが、大丈夫と言って聞かなかった。
夕立の雨凌ぎをして休んだ後、故郷に帰ることを伝えた。すると彼女はまたいつかおいで、と笑った。
『私とあなたが出逢えたように、次も絶対誰かが迎えてくれるから』
その言葉を今も覚えている。
声も、風も、景色も、温度も。決して忘れないよう胸に刻み込んだ。だから何年経とうと変わらず、時時この町を思い出すんだ。




