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◇
討伐同行、当日──。
学園生達が集合している広場にはざわめきが広がっていた。
「──きゃあっ、公爵家嫡男のシュタル様だわ!」
「嘘でしょう、シュタル様も今回の討伐に参加されるの!?」
「やだぁっ、シュタル様がいらっしゃるならもっとちゃんとした格好を──」
ラシェルの兄・シュタルの姿を確認するなり学園生の令嬢達は浮き足立つ。
だが、彼の隣に立つ女性を見て、それまで浮き足立っていた令嬢達の興奮が一瞬にして下がった。
「……婚約者のアネット嬢もいらっしゃるわ」
「まあ、そうよね……シュタル様は騎士団、第三騎士隊隊長で、婚約者のアネット嬢は副隊長……。騎士として来られているなら、アネット嬢も一緒だわ……」
シュタルとアネットが仕事の事で話をしている姿を恨めしそうに眺めていた令嬢達は、シュタルが何かに気が付き表情を和らげたのを見て、シュタルの視線の先に目をやった。
「──ラシェル。それにレオも来たか」
「お兄様、おはようございます」
「シュタル様、おはようございます」
笑みを浮かべながらラシェルとシュタルが話す姿を見て、令嬢達は「あっ」と今更思い出したかのように口元を覆った。
そうだった──。
ラシェルも、公爵令嬢だったのだ。
だからこそ、この国の王太子と婚約をしているのだ。
その事を思い出した令嬢達は、バツが悪そうにしつつ、そそくさとその場を離れた──。
「ラシェル嬢、久しぶりですね」
「──アネット嬢。お久しぶりです」
シュタルの影にいて、アネットの姿に気が付かなかったラシェルは、ひょこりと横から顔を出したアネットに驚いたような表情をしたが、すぐに普段通り無表情になる。
「ふふ、相変わらず元気そうで良かったです」
「アネット嬢も、お元気そうで……」
「ええ、今日はよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
ラシェルが深々と頭を下げ、アネットが笑顔で受け答えをする。
傍ら、レオとシュタルは地図を見て話をしていた。
「レオ。危険性の低い森とは言え、油断は禁物だ」
「ええ、心得ております」
「私たちがすぐ傍に居ない時もある。無理はせず、深追いはせず、少しでも危険だと判断したら撤退するんだ」
「──はい。ラシェルお嬢様の身は命にかえてもお守りいたします」
「……私は、あなたの御身も心配しております」
レオにしか聞こえない声量で、シュタルがこそりとレオの耳元で耳打つ。
その言葉を聞いたレオは、苦笑いを浮かべた。
「継承権を放棄した私の命は、ラシェルお嬢様の物。幼い時にそう誓ったのです。ご心配なく」
「──レオっ」
シュタルが尚もレオに言葉を続けようとしたが、集合の号令がかかってしまった。
そのため、レオはラシェルに声をかけ、その場を離れて行ってしまう。
シュタルは何とも言えない表情で、二人の背中を見送った──。
◇
「ブルーラビットだ! こいつらはすばしっこいぞ、気をつけろ!」
騎士が大声を上げ、学園生達に注意を促す。
騎士の声に反応した学園生達は慌てる事も、パニックに陥る事もなく冷静に動いた。
攻撃魔法を発動する学園生達を中心に周囲に散開し、防御魔法を発動できる者が防御魔法を展開、攻撃魔法を発動する学園生達の魔力構築が完了するまでの間、防御魔法で周囲の学園生達を守る。
「──構築できた! 放つぞ!」
攻撃魔法の魔力構築が終わった学園生が声を発すると、巻き込まれぬよう学園生達がブルーラビットから距離を取った。
その瞬間、攻撃魔法を発動する学園生達の中心にいたアンドリューが高らかに声を上げた。
「雷よ……!」
アンドリューの声に合わせ、周囲の学園生達も声を上げる。
すると、ブルーラビットの周囲が一瞬パッと明るくなり、動き回っていたブルーラビットに雷が落ちた。
──ギャン!
と悲痛な声を上げ、ブルーラビットの群れは雷に撃たれ黒焦げになる。
プスプス、と煙が上がりぴくりとも動かないブルーラビット達にアンドリューは口角を上げた。
「──ふん、こんなものか」
掲げていた腕を下ろし、アンドリューは自分たちが倒したブルーラビットを確認するため、近付いていく。
その時。
倒されたブルーラビット達の影から、小さな影が飛び出した。
「──っ!」
「アンドリュー様!」
自分に飛びかかってくるブルーラビット。
この距離では攻撃魔法も間に合わない──。
アンドリューは咄嗟に自分の顔の前で腕を交差し、顔を守り痛みに備えた。
だが、痛みに備えたはずが、いつまで経っても痛みは訪れない。
それどころか目の前で何かが横切り、遅れて風がアンドリューの眼前に吹いた。
「──生き残りが居るかもしれません。不用意に近づかぬよう、殿下」
アンドリューを助けたのは、騎士隊・隊長シュタルだ。
ラシェルの身内に助けられた事が不服だったのだろう。
アンドリューは眉を顰め、そっぽを向いて答えた。
「……感謝する」
「殿下の御身を守る事が我々騎士隊の使命ですから」
アンドリューの言葉にシュタルは無表情で答えると、他の隊員にアンドリューを任せ、さっさとその場を離れて行った。
「──ちっ、兄妹揃って似たような顔で私を見やがって……」
アンドリューは苛立ちを顕に舌を打つ。
何もかもが気に食わない。
まるで自分の事を見下すような目、ちっとも変わらない表情。
先程のシュタルから向けられた目が、ラシェルの目と被る。
「……私をっ、馬鹿にしやがって」
アンドリューは悔しそうに声を震わせ、拳を握りこんだ。




