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一方その頃、少し離れたラシェル達──。
「ラシェルお嬢様、私から離れないでください」
「──ええ、ありがとうレオ」
集団で襲って来るブルーラビットの群れにラシェル達は遭遇していた。
ラシェル達学園生の周囲にも騎士達は配置されている。
騎士達の助けを得ながらブルーラビットの討伐は恙無く進んでいた。
ブルーラビットの最後の一匹を倒したレオにラシェルが近付いた時。
近くに居た騎士がぽつりと呟いた。
「──おかしいな。森の半ばまではまだ進んでいないのにどうしてこんなにブルーラビットが……?」
騎士の表情、声音から緊張感が溢れている。
周囲の学園生達は討伐出来た事に浮かれ、ラシェルとレオ以外、誰も騎士の言葉には気がついていなかった。
ラシェルはレオと顔を見合わせ頷き合い、その騎士に近付いて行く。
「すみません……ブルーラビットは普段、この場所ではあまり見られないのですか?」
「──スタシータ嬢!」
話しかけてきたのがラシェルだと分かるなり、騎士はさっと姿勢を正す。
騎士の所属する部隊はラシェルの兄、シュタルが隊長を務める第三騎士隊だ。
胸元に付けている徽章で、騎士の所属が第三騎士隊だと分かったラシェルは表情を和らげ、告げる。
「兄の事は気にせず大丈夫です。今の私はただの学園生ですから」
「──っ、あ、ありがとうございます」
自分の上司の妹──。
失礼な態度を取れない、と緊張していた騎士だったがラシェルの言葉で力を抜いた騎士は、先程感じた違和感について、話し始めた。
「スタシータ嬢の仰る通り、この辺りでブルーラビットの群れが現れるのは初めて見ました。ブルーラビットが現れるとしても、普通は群れからはぐれた少数です。……ですが、このように群れで現れると言う事は……」
最後の方は言葉を濁し、倒し終えたブルーラビットに視線を向ける。
ラシェルも騎士に倣いブルーラビットに視線を向けた後、森の奥に視線を移した。
「……通常では有り得ない、と言う事ですね?」
ラシェルの言葉に、騎士ははっきりと頷いた。
「──はい。……まるで、何かから逃げてきたかのような……」
「……この森に、それ程恐ろしい魔獣はいない、と学園でも説明をされていますが……」
「ええ、その通りです。だからこそ、今回の討伐同行の場所に選ばれました。……私は一度、隊長にこの事を報告して参りますので、スタシータ嬢は他の騎士のもとへ……」
「ええ、分かりました」
軽く頭を下げて足早に去って行く騎士の後ろ姿を眺めていると、レオが長剣を鞘に収めつつラシェルの隣に並んだ。
「ラシェルお嬢様」
「──レオ」
名前を呼ばれたラシェルがレオに顔を向ける。
すると、レオの表情が硬い事に気がついた。
「どうしたの……、異変を感じた?」
声を潜め、そう問いかけるラシェルにレオはこくりと頷く。
「……ええ。森の奥から感じる気配が濃いです。……シュタル様と合流しましょう」
「──そんなに?」
「万が一があっては困りますから」
キッパリと言い切るレオに、ラシェルは不安を感じつつ頷いた。
レオは続ける。
「確か、シュタル様の隊は殿下の部隊を担当しておりましたね?」
「ええ、そうね」
「ならば、ここから少し離れているはず……。あちら方面、か」
レオはそう呟きながら、アンドリュー達の部隊がいるであろう方向へ歩き始める。
「でも……勝手に行動してもいいものかしら?」
「森の異変を隊長に報告するのですから、大丈夫でしょう。最優先事項です」
ラシェル達が属していた部隊から離れ、シュタル達がいるであろう方向に歩いて行く。
森の中は広く、昼間だと言うのに暗い。
どこから魔獣が襲いかかってくるか分からない緊張に晒されながら、やっとの事でラシェルとレオはアンドリュー達の部隊が視界に入る所までやってきた。
アンドリュー達から少し離れた場所にシュタルの姿を見つけて、ラシェルもレオもほっと肩の力を抜いた。
その時、アンドリューはラシェルとレオが木々の間から姿を現すのを見て、眉間を寄せた。
「……あの女、自分勝手に動き回っているのだな。討伐同行のルールも守れず、勝手な行動を取るなど」
「殿下、我々が追い返しましょうか?」
アンドリューの呟きに反応した学園生がそんな事を言いながら近づく。
アンドリューの機嫌を取り、側近に取り成してもらおうと考えているのが態度から透けて見えて、アンドリューは不機嫌そうに顔を顰めた。
だが、学園生の勝手な行動を認める訳にはいかない。
アンドリューは王族として、学園側生徒の取りまとめ役だ。
「──そうだな。スタシータ公爵令嬢と、あの侍従を追い返せ。自分たちの持ち場を離れるな、とな」
「かしこまりました……!」
アンドリューの言葉に、話しかけた学園生はにたにたと笑う。
王太子から直接命令をされたのだ。
免罪符を手に、その男子生徒は勝ち誇った表情でラシェル達の方へ歩いて行った。
高位貴族の公爵家令嬢に対して、引き返せと告げる事が出来る──。
伯爵家次男の生徒は、どこか誇らしげに胸を張り、ラシェルとレオに向かって声を上げた。
「──スタシータ嬢に、その侍従! 勝手な行動は迷惑です。自分の部隊にお戻りくださ──」
「──おい! その場から早く逃げろ!」
自分達に近付いてくる男子生徒。
その男子生徒の背後で、黒い影が動いたのをレオは見た。
その瞬間、ハッとして男子生徒の声に被せるようにレオは叫んだ。
だが──。
「──は? ……ぐぁっ!」
男子生徒の怪訝な表情が、次の瞬間には苦悶の表情に変わる。
背後で蠢いていた黒い影が、男子生徒目掛けて物凄い速度で接近し、男子生徒の脇腹を切り裂いた。
男子生徒はその場に倒れ、パッ、と地面に赤い血が散る。
ラシェル達と、アンドリュー達。
その間で突然血を流し、地面に倒れ込んだ男子生徒。
アンドリューの部隊の学園生達は、一瞬で集団パニックを起こした──。




