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ごっこ遊び 〜殿下が望んだ婚約者ごっこ。全力で全ういたします!〜  作者: 高瀬船


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「──落ち着け! 襲って来たのはブルーラビットだ、落ち着いて対処すれば問題ない!」


 パニックを起こす学園生達に向けて、シュタルが声を張り上げる。

 だが、シュタルの声が正しく届いている学園生達はどれ程だろうか。

 パニックは連鎖を起こし、先程までブルーラビットに冷静に対応していた学園生達も慌てふためき、まともに連携が取れていない。


「……レオ、さっき感じた気配って」


 パニックを起こす学園生達に合流しつつ、ラシェルが隣にいるレオに問う。

 ラシェルの言葉に、レオはゆるりと首を横に振った。


「──いえ、ブルーラビットではありません。あの気配はもっと……ブルーラビットより強いと思います」

「……それなら、不味いわね」

「ええ。ブルーラビット程度でこれだけ混乱しているのです。それ以上の魔獣が出たら……」


 ラシェルとレオの懸念が当たってしまったかのように、学園生の誰かが叫ぶ。


「──うわあっ! レッドベアだ!」


 レッドベア──。

 その名の通り、熊の魔獣。


 ブルーラビットに比べ、腕力も体力も豊富で、駆け出しの騎士には少し荷が重い魔獣だ。

 だが、討伐に同行している騎士は経験豊富。

 彼らにかかればレッドベアが出ようともなんて事はない。


 ──のだが。


「──落ち着け! 陣形を崩すな!」


 焦燥感に滲んだシュタルの叫び声が聞こえる。

 パニックを起こした学園生達が邪魔をして、騎士隊の戦闘の邪魔をしているのだ。


 このままでは死傷者も出かねない。


「──お兄様に合流するわよ、レオ」

「かしこまりました」


 兄に合流し、少しでも戦闘の手助けをしなければ。

 そう判断したラシェルはレオに声をかけ、走る。


 シュタルの元に向かって駆けているラシェルを見つけたアンドリューは、焦った様子でラシェルの腕を掴み、引き止めた。


「──お前っ! どうしてお前がここに居る!?」

「──っ、殿下!? 手を離してください!」

「待てっ、この混乱に乗じてシエナに何かするつもりか!?」


 そんな事をするつもりは微塵もない。


 だが、一々それを説明する時間も惜しい。


「──手を離してください!」


 アンドリューの手を振り払おうと、ラシェルが腕に力を込めたところで。


「きゃあああああ!!」


 シエナの叫び声がその場に響き、アンドリューは咄嗟にラシェルから手を離した。


「今のはシエナの叫び声か!?」

「──ちょっ」

「お前もこっちに来い!」


 アンドリューもパニックに陥っているのか。

 ラシェルを連れて行っても意味がないと言うのに、ラシェルの手をぐいぐいと引っ張りながらアンドリューは進む。


「ラシェルお嬢様……!」


 レオがラシェルに向かって声を上げる。

 ラシェルは軽く首を横に振ってレオを止め、大人しくアンドリューに引っ張られるがまま着いて行った。


 よくよく確認してみれば、アンドリューの近くには彼の側近候補である学園生の姿が無い。

 護衛の騎士が二人居るが、その護衛騎士二人はアンドリューに近付くブルーラビットやレッドベアの相手をしているため、今アンドリューの身に危険が迫った際、すぐに動ける騎士はいないのだ。


 それならば、自分が傍にいた方が守りやすい。

 そう考えたラシェルだったが、アンドリューがシエナを視界に捉えた瞬間、ラシェルの腕から手を離し、シエナのもとへ駆け出した。


「シエナ! シエナ、大丈夫か!?」

「ア、アンドリュー様……っ」


 レッドベアを避け、シエナのもとに辿り着いたアンドリュー。

 この場に突然魔獣が出て暴れている事を忘れているのだろうか。

 レッドベアに対して堂々と背中を晒している。

 アンドリューの背に迫るレッドベアに対して、レオは舌打ちをしつつ攻撃魔法を繰り出した。


「──どうして私が守らなければいけないのか!」


 レオの声は苛立ちに溢れている。

 嫌々ながら、それでもこの国の王太子だからとレッドベアを攻撃し、無力化したレオにラシェルは手を取られた。


「ラシェルお嬢様、あちらはもう大丈夫でしょう。シュタル様と合流しましょう」

「え、ええ」


 こくりと頷いたラシェルは、自分の手を引いて走るレオに着いて行こうとした。

 だが、そんなラシェルを背後から呼び止める声がする。


「──どこへ行く!? シエナを安全な場所に避難させるんだ、手伝え!」


 アンドリューに声をかけられたラシェルの足が一瞬止まる。

 その一瞬、その一瞬で。

 背後から迫ってきていたブルーラビットがラシェルに飛びかかってきた。


「──ッ!?」


 ラシェルは飛びかかってきたブルーラビットを咄嗟に振り払う。

 すると、ブルーラビットの胴体がラシェルの腕にたまたまぶつかった。

 途端、ブルーラビットは声にならない悲鳴を上げ、目にも止まらぬ早さで後方に吹き飛んで行った。


 地面に叩き付けられたブルーラビットはそのままぴくりとも動かず、事切れた。

 ラシェルは誰かに見られてやしないだろうか、とちらりと周囲を確認してみたが、アンドリューはシエナに夢中になっており、他の騎士もアンドリューの身を守ろうとして彼の動きに注目している。


「ラシェルお嬢様、大丈夫です。見られてやいません」

「──そう、良かったわ」


 ブルーラビットを屠った場面を唯一目撃していたのは侍従のレオだけ。

 それが分かったラシェルはほっと安堵の息を吐き出した。


「殿下には、私は攻撃魔法も満足に放てない人間だと思っておいてもらわないといけないものね」


 このごっこ遊びの間、アンドリューには自分自身を「役立たず」だと思ってもらいたい。

 そうすればきっと。


「王家──殿下から、婚約破棄を切り出してもらわないと」


 王家から婚約を提案された。

 そして、今回も王家から婚約破棄を切り出されたら。

 スタシータ公爵家は、王家に振り回された被害者の体を取れるのだから。


「レオ、一先ず殿下の身の安全を確保するわ……! 彼を騎士達のもとへ……!」

「──〜っ、分かりました! ラシェルお嬢様は俺の傍から離れないでください!」

「ええ、分かったわ!」


 ブルーラビットの総数は最早数えられない。

 レッドベアは全部で四体。


 レッドベアは、先程倒された仲間を見て怒り、攻撃的になっていた──。


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