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ラシェル達が通う学園では、年に二度討伐同行訓練がある。
国の騎士団に同行し、魔物・魔獣を討伐する実践授業がある。
学園生達は、日々研鑽した魔法を屈指し魔獣を討伐し、聖魔法が発動出来る者が魔素を浄化する。
それを、国の騎士団の保護下の元、行うのだ。
エデュンサ王国のあるこの大陸には、魔物や魔獣が棲息している。
普段は森深い場所に住処を持っているのだが、時折人里に降りて来て人間を襲うのだ。
王都近辺であれば、魔物や魔獣が出現しても騎士団が素早く動き、人間への被害は少ない。
だが、王都から遠く離れた場所に魔物や魔獣が出現し暴れれば小さな村など一溜りもない。
近くにある比較的大きな街から騎士隊が派遣されるが、やはりそれでも被害は大きい。
そんな事が起きないよう、騎士達は昼夜見回っているが、魔物や魔獣の生体にはまだ不明な部分も多く、完全に防ぐ事は出来ないのだ。
そして、それはこの大陸にある他の国々も同じ事。
エデュンサ王国と隣接している隣国でも、同じように魔物や魔獣の被害に頭を悩ませている。
貴族の家に生まれた人間は、平民より魔法の才に恵まれている。
平民に比べれば、魔力も多く発動出来る魔法も豊富だ。
殆どの平民が生活魔法を発動する事がやっとではあるが、それに比べ、貴族は攻撃魔法を発動する事が出来る。
貴族の家に生まれたからには、領民を魔物や魔獣の脅威から守る義務が発生する。
それを破れば、貴族には重い罰が科せられるのだ。
そのため、学園に通う学園生達は学生でありながら年に二度、騎士団の討伐に同行する。
魔物や魔獣との戦いを、学園生の時から慣れておく事が大事だからだ。
この討伐同行授業は、目前に迫っていた──。
◇
討伐同行授業、一ヶ月前。
学園でいつものように授業を受けていたラシェルは、授業終わりに教師が放った言葉に顔を上げた。
「来月は、討伐同行授業がある。各々、日々の鍛錬の成果を示す良い機会だ。騎士団が居るとは言え、自分の身は自分で守れるよう、万全の準備をするように」
教師が教室を出て行くと、途端に教室内が騒がしくなる。
「ラシェルお嬢様。討伐同行、そう言えばそろそろでしたね」
「レオ。……そうね、そう言えばもうそんな時期だったわ」
前回の討伐同行授業では、ラシェルは婚約者のアンドリューと行動を共にしていた。
仲が良くなくとも、その時はまだアンドリューはラシェルを自分の婚約者として接していた。
ラシェルの身に危険が迫らぬよう、王太子である自分と行動を共にさせていた。
そうすれば、アンドリューの護衛達の庇護下に置かれるからだ。
だが、今回はどうだろうか──。
ラシェルはアンドリューの方を確認しようとして、止めた。
(彼の頭の中には今はシエナ嬢しかいないわね)
ラシェルの考えは当たり、アンドリューの頭の中にはシエナの事しか無かった。
授業が終わるなり、アンドリューは自分の席を立つと真っ先にシエナの元に向かった。
「──シエナ」
「あ……、アンドリュー様」
シエナがアンドリューの事を「殿下」ではなく、名前で呼んだ事。
それに気がついた教室内の学園生達がざわり、とざわめく。
そして、ラシェルが同じ室内にいると言うのに好き勝手に話し始めた。
「シエナ嬢が、殿下の事を名前で……!」
「確か、婚約者のラシェル嬢ですら、殿下のお名前を呼んでいらっしゃらないよな……?」
「まさか、殿下はシエナ嬢を婚約者に……!?」
「まあ、確かに殿下の気持ちも分かるところはある。ラシェル嬢は公爵家で魔力は豊富だが……」
「──ああ。俺たちのように、攻撃魔法を放つ事は出来ないしなぁ……」
「おいおい、それは禁句だろう……」
コソコソ、ヒソヒソ。
ラシェルに対して、口さがない話を流している。
それを耳にしてしまったレオは眦を吊り上げ、話をしている令息達に口を開こうとした。
だが、すぐにラシェルがレオを止める。
「……レオ、別に気にしていないから良いわ」
「ラシェルお嬢様、ですが……っ」
「攻撃魔法が放てないのは本当の事だもの」
「だけど、ラシェルお嬢様は……」
ラシェルは、攻撃魔法を「放たない」
放つ事が出来ない訳ではない。だが、そうすると自分の魔力制御に不安が残るため、学園生の前では放つ事は無かっただけだ。
「……攻撃魔法なんて発動できなくても、自分の身は自分で守れるわ」
「それは、知っていますが……」
それでも、ラシェルの事を好き勝手言われるのは不服だ。
レオの表情には、ひしひしとそんな感情が浮かんでいた。
「いいのよ。今のレオは私の侍従でしょう? 今のあなたは、彼らより身分が下だから……下手に喧嘩を売らないで」
「……私も、自分の身は自分で守れますよ?」
「……馬鹿。国際問題に発展したら大変でしょう?」
ラシェルの言葉に、レオは軽く肩を竦めた。
二人は、会話をするために自然と距離が近くなっていた。
傍から見れば、ただの侍従であるレオと主人のラシェルは仲睦まじく見える。
そんな光景を、教室内の二人から離れた場所で、アンドリューは面白くなさそうに見ていた。




