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「──ああ! スッキリしたわ!」
晴れやかな笑顔でそう口にしたラシェル。
そんなラシェルとは裏腹に、レオはゲッソリとしていた。
レオの顔は薄汚れていて、学園服も心做しか煤けており、破れている。
レオのあまりのボロボロな様子に、さすがにラシェルも申し訳なく思ったのだろう。
サロンのソファーから立ち上がり、レオの顔に手を伸ばした。
「ま、待ってください……! 大丈夫です! じ、自分で怪我の手当くらい……っ!」
「だけど、私とマルクル叔父様の手合わせに巻き込まれて怪我をしちゃったじゃない……。せめて怪我の手当てくらい……」
ラシェルの手がレオの顔に伸びてきて、レオは赤くなればいいのか青くなればいいのか分からない。
だが、ラシェルの手が触れそうになると流石にレオの顔色は真っ青になった。
「ほ、本当に大丈夫です……! ラシェルお嬢様に触れられたら、更に怪我が増えます……っ!」
「──もう、何ですって?」
悲鳴を上げるようなレオの言葉に、ラシェルはムッとしたように唇を尖らせた。
そしてレオの額をつつこうとして、指をトン、と置いて軽く押し込んだ──。
瞬間。
「──ッ!?」
レオの体は瞬きをする一瞬の間に後方に吹き飛び、サロン内にある至るものを巻き込み、レオの後方にあった壁に吹き飛んだ。
派手な音を立て、様々な物が割れたり落ちる音がする。
壁に激突したレオの背中には、ボロボロと崩れて落ちる壁が見えた。
「──あっぶな……っ、ラシェルお嬢様っ!」
「ご、ごめんなさいねレオ……叔父様に会って、ついつい感情が昂っちゃって……」
可愛らしく頬を染め、赤くなった頬を片手で押さえつつ首を傾げるラシェル。
その可愛さと美しさは最早反則級だ、とレオは自分の顔を片手で覆った。
「俺だった、から……いいですけども……。旦那様や、奥様……シュタル様にはしないでくださいよ……」
「大丈夫よ、分かっているわ」
レオの言葉に、分かっている! とばかりに胸を張るラシェル。
そんなラシェルを見て、レオは困ったように笑った。
「全く……ラシェル様は公爵家の狂戦士と呼ばれるほど、力がお強いのですから本当に周囲の人間と関わる時は十分に気をつけて──」
「ああもうっ、分かっているわ、分かっている……! お父様やお母様、お兄様に接する時はちゃんと感情をセーブしているもの!」
「なら、俺にもそうして下さいよ……っ!」
レオの悲鳴を上げるような言葉に、ラシェルはキョトンと目を瞬かせる。
そして、なんて事ないように笑った。
「──あら。でも、レオは私と同じくらい強いじゃない? 叔父様以外で、私を止められるのはレオだけだわ。それだけ強いのだから、遠慮なんてしないわ」
ふふっ、と笑うラシェルに、レオは顔をほんのり赤くする。
「それに……。私が私らしくいられるのは、レオの前だけだもの。少しくらい許してちょうだい」
「──〜っ、分かりました、分かりましたよ……」
ああもう、可愛いんだから。
レオは胸中でそう叫び、これも惚れた弱みだ、と今日もラシェルの前で困ったように笑った。
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「それにしても……叔父様との久しぶりの手合わせはとても心が踊ったわ」
「それはようございました。ラシェルお嬢様は幼少の頃からマルクル様が大好きですからね」
「ええ、そうよ……! 感情が昂って私の魔力が暴走しても、マルクル叔父様はあっさり私を抑えてくださる……! やっぱり、叔父様以上に格好良い男性はいないわ……」
ほう、と焦がれるような溜息を零すラシェルを横目に、レオは自分の体を見下ろした。
マルクルのように、筋肉隆々ではない自分の体。
もりっ、と盛り上がった胸筋に、丸太のように太い腕。
あんな腕だったらきっと、ラシェルを軽々と持ち上げられるだろう。
(……俺ももっと鍛えた方がいいのだろうか)
決してひょろくは、ない。
ひょろくはない、はずだ。とレオはむむむと考え込む。
レオがそんな事を考えていると、ラシェルがぽつりと呟いた。
「……叔父様も仰っていたし。……何事も我慢、耐え忍ぶ事こそ、鍛錬、よね」
「──ラシェルお嬢様?」
ラシェルの沈んだ声に反応したレオがぱっ、と顔を向けてくる。
ラシェルはハッとして、すぐに笑みを浮かべて「何でもない」と言葉を返す。
「……叔父様との鍛錬を復習したいわ。レオ、夕食の時間まで付き合ってもらってもいい?」
「……軽く、ですよ。本気で手合わせはしませんよ……?」
「ええ、それでいいわ!」
ソファーから立ち上がったラシェルに倣い、レオも立ち上がる。
そして二人は庭の一角にある鍛錬場に向かって歩き出した。




