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教師の言葉に、教室内がざわつく。
そこかしこから「大事なお知らせ?」「殿下やシエナ嬢に関する事か?」など、話している声が聞こえてきた。
学園生達の声は聞こえているはずだが、教師はアンドリューやシエナの事には一切触れず、続けた。
「本来、数ヶ月後に予定されている卒業パーティーですが……」
そこで一旦言葉を切った教師は、ちらりとラシェルに視線を向けた。
卒業パーティー。ラシェルはその単語にびくりと肩を震わせた。
国王との謁見の際、ラシェルは確かに聞いたのだ。その卒業パーティーの時に、ラシェルに褒美を、と言っていた。そして、王家で主催する、とも。
もしかして、その事だろうか。
ラシェルの考えを肯定するように、教師が言葉を続けた。
「本年度の卒業パーティーは、学園主催ではなく、王家が主催される事に。……国王陛下が、パーティーに参列なさいます。皆には一層、勉学とマナー講習に励んでいただきます」
教師の言葉に、教室内がざわめく。
「……パーティーの開催は、二ヶ月後に決定しました。各々、準備を怠らないように」
以上です、席に着いて。
そう話す教師に、教室内のざわめきはまだ収まらない。
ラシェルとレオは事前に国王から聞いていたからこそ、そこまで驚きはしていない。
開催が二ヶ月後、と言うのは多少驚いたが、それだけだ。
ラシェルとレオが自席に着いた時、アンドリューやシエナと良く一緒に過ごしていた学園生達が教師に問いかけた。
「せ、先生……! 今日、殿下やシエナ嬢がまだ……殿下は今日……」
「ああ……」
学園生の問いに、教師があっさりと答える。
「あのお二人は、昨日王城に。シエナ嬢が学園内で犯した罪は重いですから、その罰を。殿下はシエナ嬢と一緒に過ごしていますので、今日……いえ、暫くは学園にいらっしゃらないかと」
「──え」
「さて、質問はもういいですね? さあ、皆さん席に着いてください。授業を始めますよ」
驚く学園生をそのままに、教師は軽く手を叩き着席を促す。
殆どの学園生が唖然と過ごす中、授業は淡々と進んでいった。
昼食の時間になった。
いつも、アンドリューやシエナと仲の良い学園生達は昼食の時間になると騒がしい。
シエナに媚びるように話しかけ、アンドリューの婚約者であるにも関わらず、アンドリューから冷たくあしらわれているラシェルを小馬鹿にして笑っていた。
だが、今日はアンドリューも、シエナも居ない。
彼らは気まずそうに数人で集まり、こそこそと食堂に移動するのが見えた。
「──ラシェルお嬢様。今日はどちらで?」
「レ、レオ……」
ラシェルのもとに、レオがやってくる。
レオの手にはいつも通り昼食の入ったバスケットがある。
「そ、そうね……どこで食べましょうか……」
ラシェルがレオをチラチラ、と見ながら話していると、二人に話しかける学園生がいた。
「ラシェル様、侍従さん。もしよろしければ、私たちもご一緒してよろしいですか?」
話しかけてきた学園生は、討伐同行の時に助けた学園生だった。
そして、朝にも挨拶をして来てくれた三人。
ラシェルとレオは顔を見合わせた後、頷いた。
「ええ、ぜひ。……食堂横にあるテラスで食べましょうか」
ラシェルの言葉に、話しかけて来た学園生は嬉しそうに頷いた。
昼食のため、食堂横にあるテラス席に移動してきた一行。
ラシェル達と一緒に来た学園生は三人。
三人とも、あの討伐同行授業の際にラシェルが先頭に立って戦い、助けた集団の中に居た。
聖魔法の使い手である、女子学園生のララ・バンシー。バンシー伯爵家の次女。
男子学園生のナイン・カーザイン。カーザイン子爵家の嫡子。カーザイン子爵家では大きな商会を運営している。
男子学園生のハロルド・マクシリオン。マクシリオン伯爵家の次男で、将来は騎士隊に所属するのを目標に日々研鑽している。
「ラシェル様、こちらどうぞ」
「ええ、ありがとう。ララ嬢」
ラシェルの椅子を引き、嬉しそうに笑うララ。
レオは自分のやる事を取られてしまった、と少し不服そうにしながら、ラシェルの昼食の準備を始めた。
バスケットから食事を取り出され、ラシェルの目の前に用意されていく美味しそうな食事。
その様子を見つめながら、ララは憧れるようにラシェルとレオの二人を見つめていた。
ララからの視線を感じ、ふとラシェルがそちらに顔を向ける。すると、ララと目が合った。
「──どうしましたか?」
何か顔に付いているだろうか、と目を瞬かせるラシェル。レオも不思議そうにララを見ている。
二人から視線を向けられたララは慌てて手を振った。
「い、いえ……! じっと見つめて申し訳ございません……! その、お二人のご様子が仲睦まじくて……羨ましかったのです……」
「羨ましい……。私とレオが?」
こくこく、と頷くララ。ララは気になっていた事があるのです、と前置いてからラシェルに質問した。
「ラシェル様と侍従様は、昔からのお知り合い、なのですか?」
「ええ、そうよ。私とレオは子供の頃に出会って……」
「──怪我をしていた私を救ってくださったのが、ラシェルお嬢様のお父様、現公爵です。傷を癒し、恩返しをしたいと思い、私は公爵家の使用人として働く事になったのです」
「まあ……! そうだったのですね」
レオが手際良く紅茶を用意していく。
ララにも紅茶を注ぎ、どうぞ、と目の前に置いた。
「──ありがとうございます。……そっか、そうだったんですね、お二人は子供の頃から……」
カップを両手で包み、ほう、と小さく息を漏らすララ。
こんな事を聞いて、どうしたのだろうか。ラシェルがそう考えていると、躊躇いがちにララが続けた。
「その……ナイン、卿と私も……幼い頃からの知り合いでして……」
「──カーザイン卿と?」
ララの言葉にラシェルが返すと、彼女は「ええ」と頷いた。
そして、恥ずかしそうにはにかみつつ、続ける。
「私と、ナイン卿も幼い頃から交流があり……今でも友人のように過ごしてはいるのですが……」
ララが言葉を濁し、恥ずかしそうに目線を下げるのを見て、ラシェルはピンと来た。
もしかしたら、ララは幼なじみのナインに想いを寄せているのでは。そして、お互いの関係に変化をもたらしたいのでは、とそんな考えに至る。
「その、ラシェル様と侍従様のように……お互いを信頼し合い、仲睦まじく過ごすには、どうしたらいいのかな、と思って……こんな質問を。……きゅ、急に変な事をお聞きして申し訳ございません……!」
ララは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、ラシェルに頭を下げる。
ちょうどその時、食堂から食事を持ってナインとハロルドが戻ってきた。
「──お待たせいたしました。……ララ嬢、どうしました?」
ララの昼食も持って戻って来たナインが両手で顔を覆っているララを見て、不思議そうにラシェルを見た。
ララの気持ちを勝手に代弁する訳にはいかない。ラシェルは誤魔化すように肩を竦め、何でもないと答えるしかできない。
ナインとハロルドが戻ってきた事で、ララの話をそれ以上広げる事は出来ず、昼食時の話題は自然と今朝の事になる。
食事の手を止めたナインが切り出した。
「──殿下と、シエナ嬢。教師はあのお二人の事に触れませんでしたね」
「……っ! そ、そうですわ、ラシェル様……! あの日、シエナ嬢に治癒魔法を掛けられていましたが、お体は大丈夫でしたか!? どこにも異変はございませんか!?」
ナインの言葉に、ララはハッとして慌てて続ける。
ラシェルは微かに微笑みを浮かべ、頷いた。
「ええ、大丈夫よ。……あの後、王城で聖魔法士にしっかり診ていただきました。何の問題もないそうです」
ラシェルの言葉を聞き、ララはほっとして椅子に背を預けた。
「よ、良かったです……。治癒魔法を健康な方にかけるなんて……。どんな事が起きるか分からないんです。ラシェル様がお体に違和感を感じていなくて良かったです」
「本当ですね。ラシェル嬢に対してあのような事をしたのです。いくら将来聖女と呼ばれる人物に一番近い人とは言え、罰されるのは目に見えている」
ララの言葉の後、口元をナフキンで拭ったハロルドが静かに告げる。
「……もしや、シエナ嬢は此度の罰で学園にいないのでは……? そして、殿下は気落ちするシエナ嬢のお傍にいるのではないでしょうか」
ナインの言葉に、ララは表情を歪めた。
「ラシェル様と言う婚約者がいらっしゃるのに……! 本当に殿下は何をお考えなのか……! 理解に苦しみますわ!」
「……ララ嬢、思っていても口に出すのは……。ここには他の学園生もいる。殿下やシエナ嬢と懇意にしている学園生もいるんだ。あまり迂闊な発言はしない方が良い」
ナインが諌めるように告げるが、ララは「でも……」と不服そうに眉を寄せる。
この三人は、討伐同行の際にアンドリューから見捨てられた。その時の負の感情からアンドリューに対して嫌悪感を抱いているのだろう。
だが、流石にこの場でするには不味い話題だ。
ラシェルは口元を拭い、話題を変える事にした。
「──それより、先生が仰っていたわ。……今年の卒業パーティーは少し早まるのね。それに、王家が主催なんて……」
「──そうでした! 王家主催、それも国王陛下がご臨席されるなんて……! 今まで無かったですよね!?」
ララの意識が上手く逸れた事にほっとし、ラシェル達は卒業パーティーの事に話題を移した。




