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「──ラシェル・スタシータ……? どうしてあの女が王城に?」
ラシェル達が謁見の間を出て、廊下を歩いている時。
王城の別の場所を歩いていたアンドリューは怪訝そうに眉を寄せた。
ラシェルが何の用でここに来たのか。
それを問いただそうと思ったアンドリューだったが、自分は今、父である国王に呼ばれている。
「──ちっ。あの女、運が良いな」
国王に呼ばれてさえいなければ、ラシェルを追ってあの討伐同行の際の勝手な行動を咎めてやろうと思ったのだ。
「どうせ数日の間に授業も再開する……次に学園で会った時は、学園生達の前で私があの女を罰してやるか」
討伐同行は、王太子である自分の命令が最優先。
それに、何か行動をしたいならば自分の了承を得てからだ。
「私に報告も、相談もしなかったあの女をどうしてやろうか。……そうだ、シエナの意見も聞いてみるか」
アンドリューはほくそ笑み、機嫌良く足を進めた。
◇◆◇
スタシータ公爵邸。
王城から帰ってきたラシェル達は、それぞれ自分の部屋に戻った。
シュタルは明日の準備をしなければならない、と言いレオを伴って自室に籠った。
ラシェルは部屋でじっとしていられず、使用人を呼んで訓練着に着替えると部屋を出た。
ラシェルが向かう先は、訓練場だ。
公爵家の騎士達が訓練をしている場所。
今日の訓練は終わり、訓練場には今は誰もいない。
今の訓練場は公爵家の豊富な魔力で、森を再現していた。
「──森林での白兵戦を想定して訓練していたのかしら?」
ラシェルは「ちょうど良いわね」と声を弾ませつつ、足を進める。
まるで、本物の森の中にいるような感覚。
風まで吹き、土の匂いを感じ、木々のさざめきを感じる。
目を閉じていたラシェルはパチリ、と開くと手近な木に向かって拳を振りかぶった。
ラシェルの拳が直撃するなり、太い幹は派手な音を立てて割れ、地面に倒れる。
ずしん、と地面から伝わってくる振動に、ラシェルは満足そうに頷いた。
「明日、私もお兄様に同行するのよね……。それに、先行している騎士隊や、聖魔法の使い手達を守る……。自分の仕事を全うしないと」
ラシェルは気合いを入れるように拳を握り、近場にある木々を薙ぎ倒して行く。
けたたましい音を立て、幹が倒れる音が響き、ラシェルは突き出していた拳を元に戻した。
「……駄目ね、これじゃあただの森林破壊だわ。何の訓練にもなっていない……。レオはお兄様の所だし……どうしよう」
ただ我武者羅に拳を振るうだけでは駄目だ。
ラシェルは薙ぎ倒した木の幹に近づき、そのまま腰を下ろす。
「仮想魔獣でもいればいいんだけど……そこまでの再現は出来ないのよね……魔獣と戦えたら……」
そんな事をぶつぶつと呟いていたラシェルは、そこでハッとする。
「──魔獣。そう言えば、魔素をどうにかできないかな、って思ったんだったわ……!」
魔素を浄化出来るのは聖魔法の使い手しかいない。
それは、遥か昔から決まっている事だ。
「……魔素を、浄化……。ようは、魔素という変な物を、消滅させてしまえばいいって事よね……? 魔素を消滅……消し飛ばす……? 極限まで極めた物理攻撃で、魔素自体を消し飛ばして、消滅させる事は出来ないのかしら……?」
ラシェルはそう呟いた後、徐に立ち上がり、太い木に向かって歩き出した。
◇
一方、シュタルとの話が終わったレオはラシェルの部屋に向かい廊下を歩いていた。
ラシェルの部屋に着いたレオは、扉をノックして声をかける。
「ラシェルお嬢様。……お嬢様?」
だが、レオが声をかけても中から返答は無い。
それどころか、室内で人が動く気配も感じられなくてレオは扉から顔を背け、廊下の先に視線を向ける。
「部屋にいらっしゃらない、と言う事は……訓練場か?」
そう言えば、とラシェルが言っていた事を思い出す。
彼女は魔素を消滅させる手立ての事を話していなかっただろうか。
「──聖魔法の使い手以外で、魔素を浄化……消滅させる方法を探していらっしゃるのか? ラシェルお嬢様なら行動に移しそうだな……」
そう呟いたレオは、足早に訓練場に向かった。
訓練場に入ったレオは、今日の訓練は森での戦闘訓練だったのか、と思った。
だが、目に映る景色は普段見慣れている森とは別物へと変貌していた。
木々は物理攻撃で薙ぎ倒され、太い幹が途中からボッキリと折れ、木の上部分が跡形もなく消滅している。
レオが唖然としていると、前方の方から物凄い破壊音が聞こえてきた。
更に、地面にも振動が伝わってきており、そんな事が出来るのはラシェルだけだ。
レオは足を進め、訓練場の奥の方へと入って行った。
「ラシェルお嬢様……!」
声を張り上げながら進んでいると、視界の端に人影が動いた。
そちらに顔を向け、近付いて行くとラシェルの姿がはっきりと見えた。
だが、ラシェル自身はレオに気がついておらず、助走を付けて大木に駆け寄り、拳を幹に叩き込んだ。
すると、ラシェルの拳が幹に触れた瞬間、拳が当たった周囲が弾け飛ぶようにして消えた。
幹の中間を失った大木は、そのままラシェルがいる方向に向かって倒れてくる。
「──っ」
かなりの魔力総量を拳に乗せていたのだろう。
ラシェルの顔が一瞬焦ったものに変わる。
レオは自分に身体強化の魔法をかけると、一足飛びでラシェルの前に体を割り込ませ、倒れてくる大木を片手で受け止めた。
「ラシェルお嬢様、お怪我は……!?」
「──レオ? どうしてここに……」
ラシェルがびっくりしたように、元々大きな目を見開いている。
レオはラシェルに怪我は無さそうだ、と安心すると倒れてきた大木を横に投げ捨て、ラシェルの手を引いた。
「一先ずこちらへ。……拳がこんなに赤く腫れてしまっているじゃないですか。早く手当をしましょう」
「え……っ、あ……本当だ。集中し過ぎちゃっていたみたい……ごめんね、レオ」
「俺こそ、すみません。早くラシェルお嬢様の下に来ていれば……」
「レオのせいじゃないわ、心配かけてごめんね」
眉を下げてしゅん、と肩を落とすラシェルの手を引き、歩いていたレオはちょうど腰掛けるのに良さそうな場所を見つけ、ラシェルを座らせた。
「ラシェルお嬢様、とりあえずここに。一先ず応急処置ですが……」
そう言いながら、レオはラシェルの前に跪き持ち運び用の応急手当の道具を取り出した。
恭しくラシェルの手を取り、消毒をして包帯を巻いていく。
最後にレオはラシェルの手の上に自分の手を重ね、氷魔法を微調整して冷やした。
「少しの間、こうして冷やしておきましょう」
「……ごめんね、ありがとうレオ」
「いいえ。ラシェルお嬢様の傍に居れず、申し訳ございません」
レオはそこで一旦言葉を切ると、後方に顔を向けた。
先程までラシェルが訓練をしていた場所を見つめつつ、続ける。
「──それで何か掴めましたか、ラシェルお嬢様」
レオの質問に、先程までしゅんとしていたラシェルはハッとして顔を上げる。
そして、キラキラと瞳を輝かせ笑顔で答えた。
「聞いて、レオ! 拳に魔力を集中して木の幹を殴ったら、拳が当たった周辺が跡形もなく消滅したの!」




