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くうねるあそぶVer4.0  作者: 馬頭鬼
~ 第三章 ~
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~ 第三章その8 ~


「ああああぁぁぁ……ぁはっ!」


 二人の少女だったモノ(・・・・・)が迫って来る……そんなあり得ない光景に、心の底からの絶叫を発し……自身の悲鳴で悪夢から目覚めることが出来た護は、すぐさま周囲を見渡して、自分が今いつもの見慣れた彼の部屋にいる、その事実を確かめる。


「……はぁああああっ、夢、かぁ」


 そこでようやく先ほどの凄惨な光景は夢だったのだと納得し、肺腑内の空気全てを放棄するかのような、大きな安堵の溜息を吐き出した。

 ……いや、アレが夢であることは、悪夢が始まった瞬間から分かっていたことである。

 ただ、あの二つの死体が迫ってこないことに、砕けた腕や呼吸すらしなくなった唇などが迫ってこなくなっただけでも、安堵する価値は十分にあった。


「……いや、違う」


 悪夢から逃れられて安堵する……そんなことしか出来ない、それが当たり前になっている情けない自分の心を、護は首を左右に振ることで脳からも振り払う。

 先ほどの悪夢が示唆しているのは、たったの一つ。

 護は……護自身は結局『何も出来ない』ということだった。

 あの二人が争う目標とされたにも関わらず、ただ狼狽えるばかりで二人を止めることも叶わず……

 そして、頼る相手がいなくなった瞬間、襲ってくるおぞましい化け物たちを前に、またしても情けない悲鳴をあげるばかりで、抵抗の一つすら……いや、両肩を外され足を縛られていたとは言え、ただ怯えるばかりで抵抗しようという意思すらも抱けなかったのだ。


「その結果が……」


 思い出したくも無い二つの死体が迫り来るその光景は、皮肉にも少年の脳裏に焼きついた恐怖と嫌悪が強烈な分、鮮明な形で脳裏に描くことが出来てしまう。


「……ぐっ!」


 脳裏に描く記憶が鮮明だからこそ、あの時に抱いた嫌悪感も鮮烈に思い出してしまい……その所為で湧き上がってきた吐き気を堪えるため、護は必死に手で口を押さえ、歯を食いしばる。

 そのまま一分ほどの時間を蹲り……最悪の気分を抱いたまま立ち上がった護は、溜息を一つ吐き出すと弱々しく呟く。


「また、食べて貰わないと……」


 ……と。

 結局のところ、無力さを思い知らさるのも、情けなさを思い知らさるのもいつものこと(・・・・・・)でしかなく……

 悪夢に苛まれ続けた少年は、嫌と言うほど『自分には何も出来ない』ということを熟知していたのだ。


「ははは。

 相変わらず、情けない」


 唯一違うのは、無力さを感じてそう自嘲したこと、だろうか。

 無力さを受け入れ、何もかもを諦めていた筈の彼は、珍しく自らの無力さに歯噛みするものの……やはり他に出来ることなど何もなく、ただ空を頼るためだけに身支度を始めていた。

 外がまだ明け始めたばかりだとしても、どうせもう……また悪夢を見始めた時点で彼は二度寝をする権利など持ち合わせていないのだから。




「ふふふふ」


 遅刻寸前の時間に教室へと入って来た鬼敷空という少女は、ただ護を一目見るだけで彼が何かを言うよりも早く『ソレ』を理解してくれた、ようだった。

 彼女はただ、眼前の少年が今回で何回目かになる『5万分の1』を引き当ててくれたことを喜び、満足に食事が出来る喜びに笑みを浮かべている。


 ──ゾッと。


 その食欲に満ちた表情で護を見つめる少女の視線に、護は正直、頼もしさや安堵よりも、ただ怯えと嫌悪とを感じていた。


(それでも……)


 それでも、少年に他の選択は有り得ないのだ。

 この鬼敷空という名の少女の力を借りる以外、彼はゆっくり眠ることすらも許されていないのだから。


「……ふふ。

 放課後が楽しみと思わない、ねぇ、護くん?」


 興奮に赤らんだ彼女の顔は、ここ数日間でまたしても少しだけ贅肉のついたこともあり、何とか妖艶とも言える気配を漂わせていた。

 その気配が分かるのか、教室中の男女を問わずまたしても蜂の巣を突いたかのような騒ぎが訪れる。

 その気配を敏感に感じ取った護は、頭を抱えて隣の席の少女を睨む。


「空さん。

 お願いですから、煽らないで下さいよ」


「ふふふ……どうして?

 面白くない?」


 そう微笑む空は、護少年に向けてそんな挑発的な言葉を紡ぎながら……だけど明らかに周囲の反応など気にしてはいなかった。

 それも当然で……彼女はこの現代日本の飽食の時代に、喰うや喰わずの壮絶な人生を歩んできたのだ。

 彼女にとっては他の人間たちなんて、森に生えている木や木に止まっているセミも同然の、気にするのに値しない、喰うことも出来ない虫けら程度に過ぎないのだろう。

 それでも、彼女はそうやって周囲の人間を意図的に煽っている。

 そうすると、目の前の少年が困り……彼女にとってはそれが心地良いから、だった。


「ふふ、ふふふ。

 どうやら私も、いつの間にか護くんの虜になっているみたいね」


「……はぁ。

 いや、えぇ?」


 その事実に気付いた空は先ほどの挑発的な笑みではなく、楽しそうな笑みを浮かべてそう呟き……

 彼女の告げた全く脈略もない言葉に、護は全く彼女の意図が理解出来ず、ただ目を白黒させるばかりだった。

 少年が戸惑うそんな様子を見て、化け物を喰らう少女は笑みを強くし……。

 目を閉じて、一つだけ頷くと。


「ねぇ、護くん。

 どうせだから、私と付き合わない?

 彼氏彼女、恋人同士。

 ……どう?」


 ……などと突然語りかけてきたのである。


「は、はぁあ?

 はぁああああああああっ?」


 隣の席の少女が突如放った爆弾発言に、言葉の意味は理解出来ても彼女の意図が全くもってさっぱり理解出来なかった護は、ただ困惑に任せてそう叫ぶことしか出来ず。

 そしてそれは……人前と言うかそろそろ授業も始まろうという時間帯で最も教室に人がいる状況にも関わらず、いきなりそんな言葉を聞かされた級友たちも同じ心境であった。

 しかも、最近色々な噂を呼び起こしている転校生が告白した相手は、生徒会長と話題になっている、あの(・・)合歓木護なのだ。


「「「「ええええええええええええええええ?」」」」


 だからこそ、教室中の全員が彼女の告げた言葉の意味を理解するのに必要とした数秒が経過した後……教室中は驚きの怒号に包まれることとなっていた。


(えっ、ええ?

 何が、何で、一体っ?)


 その中で、護少年は左右から叩きつけられてくる、意味すら聞き取れない問いかけや叫びにただ狼狽えるばかりであり、逃げ出すことも弁明の言葉すらも浮かばないまま、ただひたすらに不審な挙動を続けることしか出来ず。

 そんな困惑と委縮とを繰り返す護少年を見つめながら、周囲の怒号すら全く意に介した様子もない鬼敷空という少女は、自らの中に流れる妖(あやかし)の血を実感しつつも……ただ愛し気な表情を浮かべるだけだったのである。



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