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第99話「伝えたかった言葉」

第99話です。


武道館ライブを終え、物語はいよいよ恋愛パート最大のクライマックスを迎えます。


ここまで積み重ねてきた想い。


言えなかった言葉。


それぞれの気持ちが、ようやく一つになります。


二人の大切な時間を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。


 武道館の熱気は、まだ会場のあちこちに残っていた。


 歓声が消えたはずの廊下にも、どこか余韻のようなものが漂っている。


「れいじさん」


 ふたばは静かに声を掛けた。


「少しだけ、お時間いいですか」


「ああ」


 れいじは穏やかに頷いた。


 二人は並んで歩き始める。


 誰もいない静かな通路。


 さっきまで一万人以上の観客がいたとは思えないほど、武道館は静まり返っていた。


 やがて二人は、誰もいない客席へ続く扉の前で足を止める。


 スタッフに一言声を掛け、中へ入る。


 ステージだけに照明が残り、客席は薄暗い。


 つい数十分前まで歓声で埋め尽くされていた場所だった。


「静かですね」


 ふたばが小さく笑う。


「静かだな」


 れいじも客席を見渡した。


「さっきまであんなに人がいたのにな」


 二人は最前列へ腰を下ろした。


 しばらく何も話さない。


 その沈黙さえ心地よかった。


「今日一日」


 ふたばが口を開く。


「本当に幸せでした」


「武道館に立てて」


「みんなと一緒にライブができて」


「夢みたいでした」


 れいじは静かに頷く。


「俺もだ」


 ふたばは両手をぎゅっと握りしめた。


 今日、この日のために何度も勇気を出そうとしてきた。


 でも言えなかった。


 ここまで来たら、もう逃げたくない。


「れいじさん」


「武道館が終わったら、絶対に伝えようって決めてたことがあります」


 その言葉に、れいじの表情が少しだけ固くなる。


 胸が小さく鳴った。


 やっぱり。


 あの時聞いた言葉。


 区切りをつける。


 伝える。


 その話なんだ。


 れいじは静かに息を吸った。


 どんな答えでも受け止めよう。


 そう自分に言い聞かせる。


 ふたばはゆっくり顔を上げた。


 まっすぐ、れいじを見る。


「初めて会った日から」


 一度だけ言葉を止める。


 目には涙が浮かんでいた。


「ずっと……れいじさんが好きでした」


 れいじの時間が止まる。


「えっ……」


 思わず声が漏れた。


 ふたばは小さく笑った。


「ライブハウスで初めて歌った日も」


「初めて一緒に曲を作った日も」


「悔しくて泣いた日も」


「武道館を目指そうって言われた日も」


「全部、れいじさんがいたから頑張れました」


 涙が一粒、頬を伝う。


「ずっと隣で歌えて幸せでした」


「でも」


 ふたばは首を横に振る。


「このまま何も伝えないまま終わるのは嫌だったんです」


 大きく息を吸う。


「だから」


「言います」


 震える声だった。


 でも、その瞳だけは真っすぐだった。


「れいじさん」


「好きです」


「私と付き合ってください」


 静寂が流れる。


 れいじは何も言えなかった。


 驚き。


 安心。


 嬉しさ。


 いろいろな感情が一気に押し寄せる。


 そして。


 思わず笑ってしまった。


「……なるほどそういうことだったのか」


 ふたばが首を傾げる。


「えっ?」


 れいじは頭をかいた。


「俺、てっきりバンド辞める話かと思ってた」


「……えっ?」


 ふたばの目が丸くなる。


「えぇっ!?」


 思わず立ち上がる。


「違います!」


「そんなこと絶対ありません!」


「私、FirstDayが大好きですから!」


「れいじさんと音楽を続けたいです!」


 必死だった。


 その姿があまりにもふたばらしくて、れいじは小さく笑った。


「よかった」


 その一言だった。


「本当に安心した」


 ふたばは少し驚いたように見つめる。


 れいじは静かに続けた。


「誕生日の少し前から、ふたばとはじめが一緒にいるのが気になってた」


「武道館が終わったら区切りをつけるって聞いて」


「本当に辞めるんじゃないかって思った」


「その時、自分の気持ちに気付いた」


 少し照れくさそうに笑う。


「本当は俺から言うつもりだったんだけどな」


 ふたばの目から涙があふれた。


「えっ……」


「歌がうまいからじゃない」


「曲を一緒に作れるからでもない」


 れいじはふたばを真っすぐ見つめる。


「武道館で何度もふたばを見てた」


「気が付いたら、隣にいるのがふたばじゃないライブなんて、考えられなかった」


 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「隣で歌うのは」


「ふたばじゃなきゃダメなんだって」


 ふたばは涙をぬぐうことも忘れていた。


 れいじは少し照れながら笑う。


「だから」


「俺もふたばが好きだ」


「これからもよろしくな」


 その瞬間。


 ふたばの涙が一気にあふれた。


「……はい」


 何度も頷く。


「よろしくお願いします」


 れいじは少し迷ってから、そっと右手を差し出した。


 ふたばもゆっくりと手を重ねる。


 温かかった。


 二人はしばらく何も話さず、武道館のステージを見つめていた。


 夢だった場所。


 その夢の終わりに、新しい物語が始まった。


 立ち上がり、二人はゆっくり歩き出す。


 楽屋へ戻る扉を開ける。


 そこには、はじめ、美月、紬、彩乃が並んで待っていた。


 誰も何も聞かない。


 ただ、ふたばの少し赤い目と、れいじの照れたような笑顔を見て、すべてを察した。


 最初に笑ったのは彩乃だった。


「お兄ちゃん」


「耳、真っ赤じゃん」


 れいじが思わず耳を隠す。


 美月が吹き出した。


「分かりやすいね」


 はじめだけが一拍遅れて気付く。


「えっ!?」


「えええぇぇぇっ!?」


「もしかして!」


 ふたばが照れながら頷く。


 はじめは両手を大きく上げた。


「やったぁーーー!!」


 その声に、全員が笑った。


 武道館の夜は、拍手と笑顔に包まれながら、静かに更けていった。

第99話を読んでいただき、ありがとうございます。


ついに、ふたばが長年胸にしまってきた想いをれいじへ伝えることができました。


初めて出会った日から始まった恋。


ライブハウスでの初ライブ。


初めて一緒に作った楽曲。


全国ツアー。


そして夢だった武道館。


そのすべての時間が、この告白へとつながっています。


一方のれいじは、最後まで「ふたばがバンドを辞める話なのではないか」と勘違いしていました。


だからこそ、「好きです」という言葉を聞いた瞬間の安堵は、れいじ自身も驚くほど大きなものだったのだと思います。


そして、「隣で歌うのは、お前じゃなきゃダメなんだ」。


この言葉は、恋愛だけではなく、音楽を通して積み重ねてきた二人の時間があったからこそ生まれた答えでした。


最後に二人を温かく迎えた仲間たちも、FirstDayらしい締めくくりになったのではないかと思います。


次回はいよいよ最終話。


物語のタイトルでもある『今日が吉日』を、どんな形で締めくくるのか。


最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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