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第96話「最高の誕生日」


いよいよ、れいじの誕生日。


ここまでメンバー全員で準備を進めてきたサプライズが、ついに本番を迎えます。


笑いあり、感動あり。


FirstDayらしい、温かい時間になりました。


そして、この一日がれいじの心にも少しずつ変化をもたらします。


ぜひ最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。


 れいじの誕生日当日。


 全国ツアーはこの日も満員の観客に迎えられた。


 ライブが始まれば、誕生日のことなど忘れてしまう。


 いつも通りギターを鳴らし、歌を届ける。


 客席の歓声は熱く、アンコールまで駆け抜けた。


 ステージを降りたれいじは、汗を拭きながら息をつく。


「今日も最高だったな!」


 はじめが満面の笑みを浮かべる。


「ツアー始まって一番盛り上がったかも!」


「毎回更新してるじゃん」


 美月が笑う。


 ふたばは少し落ち着かない様子だった。


 何度も時計を確認している。


 その様子に気付いた紬が、小さく頷いた。


 準備はすべて終わっている。


 あとは本人を連れて行くだけだ。


「れいじさん」


 紬が声を掛ける。


「少し確認したいことがあるので、パーティールームまで来てもらえますか?」


「今から?」


「五分だけです」


「分かった」


 れいじは特に疑うこともなく歩き出した。


 ホテルの廊下を進み、一番奥の部屋の前で紬が立ち止まる。


「こちらです」


 ドアを開ける。


 部屋の中は真っ暗だった。


「電気ついてないけど」


 そう言った瞬間。


 パッ。


 照明が一斉に灯る。


「「「誕生日おめでとう!!」」」


 パンッ!


 パンッ!


 ……シーン。


 三つ目だけ鳴らなかった。


「あれ?」


 はじめが何度もクラッカーを振る。


「壊れてる!」


「それ引っ張りすぎだから」


 美月が笑いながら取り上げる。


「最初から二発しか鳴ってないじゃん」


「うそだろ……」


 そのやり取りに部屋中が笑いに包まれた。


 れいじは少しだけ目を丸くしたあと、小さく笑った。


「そうか今日だったか」


「忘れてたの?」


 ふたばが驚く。


「毎年そんな感じ」


 彩乃が苦笑する。


「お兄ちゃん、自分の誕生日興味ないから」


「なるほどね」


 はじめが納得したように頷く。


「だからサプライズ成功だ!」


 テーブルには大きなチーズケーキ。


 白と黒を基調にした飾り付け。


 そこへ赤を少しだけ添えた落ち着いた雰囲気。


 れいじらしさをイメージして、みんなで考えた空間だった。


「これ、みんなから」


 ふたばが代表してプレゼントを差し出す。


「開けてもいい?」


「もちろん!」


 包装をゆっくりほどく。


 中から現れたのは、真っ白なマグカップ。


 持ち手の内側だけが深い赤色になっている。


 シンプルで飽きのこないデザインだった。


 れいじはしばらく眺めていた。


「……これいいな」


 その一言だけ。


 でも彩乃は見逃さなかった。


 兄の耳が少し赤くなっている。


 本当に嬉しい時の癖だった。


「みんなありがとう」


 静かな声だった。


 けれど、その一言だけで十分だった。


「じゃあ、ここからは特別企画!」


 はじめが前へ飛び出す。


「司会、はじめでーす!」


「勝手に始めないで」


 美月がすかさずツッコむ。


「まずは、『れいじ王決定クイズ!』」


「俺が答えるの?」


「もちろん!」


「第一問!」


 はじめが大きく紙を広げる。


「れいじが人生で初めて買ったギターの色は?」


 れいじは少し考えた。


「……黒?」


「ブー!」


「正解はサンバースト!」


「覚えてない」


 部屋中が笑いに包まれる。


「第二問!」


「れいじが一番好きな食べ物は?」


「寿司」


「正解!」


「それは本人だから分かる」


 美月が呆れる。


「クイズになってないじゃん」


「しまった!」


 また笑いが起こる。


 続いて彩乃が一枚のアルバムを持ってきた。


「次はこれ」


「ちょっと待て」


 れいじが嫌な予感を覚える。


「昔の写真でーす!」


「やっぱり!」


 ページを開く。


 小学生のれいじ。


 ギターを抱えている写真。


 中学生。


 文化祭。


 初めてバンドを組んだ頃。


「お兄ちゃん、この頃から髪型変わってないんだね」


「ほんとだ」


 ふたばが笑う。


「恥ずかしいから閉じてくれ」


「却下」


 彩乃は楽しそうだった。


 ひとしきり笑ったあと、紬が部屋の照明を少し落とす。


「最後に、一つだけ」


 ふたばが静かに前へ出た。


 手にはアコースティックギター。


「え?」


 れいじが顔を上げる。


「れいじさん」


 ふたばは少し照れながら笑った。


「プレゼントは物だけじゃ、何だかFirstDayらしくないなって思って」


 椅子へ座る。


 ゆっくりとギターを構える。


「短い曲なんですけど」


「今日のために作りました」


 静かに弦を鳴らす。


 優しい音色が部屋に広がる。


 歌詞は飾らない言葉ばかりだった。


 一緒に笑った日。


 一緒に悩んだ日。


 一緒に音楽を作ってきた時間。


 そして、


『これからも隣で歌わせてください』


 そんな願いが込められていた。


 歌い終わる。


 部屋は静まり返っていた。


 誰もすぐには拍手できない。


 その静寂を破ったのは、はじめだった。


「……ずるい」


 目をこすりながら笑う。


「俺まで泣きそうになった」


「はじめちゃん、泣いてんじゃん」


 美月が笑う。


「汗!」


「ホテルの中なのに?」


「細かいことは気にするな!」


 また笑いが広がる。


 れいじは、ふたばを見つめていた。


 しばらく何も言えなかった。


 ようやく口を開く。


「本当にありがとう」


 それだけだった。


 でも、その一言には言葉以上の想いが詰まっていた。


 パーティーが終わり、みんなが部屋を出ていく。


 最後に美月が振り返った。


「そういえば」


 れいじを見る。


「最近、ふたばとはじめが一緒にいた理由、分かった?」


 れいじは部屋を見回した。


 飾り付け。


 ケーキ。


 プレゼント。


 そして、今日の歌。


「……なるほどな」


 自然と笑みがこぼれる。


「全部、俺のためだったんだな」


「そういうこと」


 美月は満足そうに笑って部屋を出ていった。


 一人になったれいじは、もらったマグカップをそっと手に取る。


 胸の中を覆っていたもやが、すっと晴れていく。


 あの数日間の違和感も、不安も、全部勘違いだった。


 そう思った瞬間。


 なぜか心の底から安心している自分がいた。


「……なんで、こんなに安心してるんだ」


 答えはまだ分からない。


 けれど、その夜はこれまでで一番温かい誕生日になった。

第96話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は誕生日サプライズということで、メンバーそれぞれの個性を詰め込んだ一話になりました。


クラッカーがうまく鳴らずに慌てるはじめ。


冷静にツッコミを入れる美月。


兄の反応を誰よりもよく知っている彩乃。


全体を支える紬。


そして、最後に音楽で想いを届けたふたば。


どれもFirstDayらしい時間だったのではないかと思います。


特に今回は、プレゼントだけではなく「歌」を贈るという形にしました。


音楽でつながってきた彼らだからこそ、一番心に残る贈り物になると感じたからです。


また、れいじがここ数日感じていた違和感の正体も明らかになりました。


すべては自分を喜ばせるためだった。


その事実を知って、思わず安心してしまう自分に戸惑うれいじ。


まだ本人は、その感情の正体に気付いていません。


ですが、その心は確実に少しずつ変わり始めています。


物語もいよいよ終盤へ。


武道館ライブ、そしてその先に待つ未来へ向けて、FirstDayはさらに歩みを進めていきます。


次回もぜひお付き合いください。

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