第93話「秘密のプレゼント」
武道館という大きな目標へ向かって走り続けるFirstDay。
そんな中、メンバーたちはもう一つの大切な計画を進め始めます。
それは、れいじ本人には内緒の誕生日サプライズ。
仲間を喜ばせたいという想いから始まった作戦ですが、そう簡単にはいかないようです。
今回は少しハラハラしながら楽しんでいただけたら嬉しいです。
全国ツアーも折り返しを迎えていた。
ライブはどの会場も盛況で、移動の合間も取材や打ち合わせが続く。
忙しい毎日だったが、その裏で、もう一つの計画も少しずつ進んでいた。
れいじの誕生日サプライズ。
本人だけが知らない、秘密の計画だった。
ライブを終えた翌日。
午後からリハーサルまで少し時間が空いた。
「今しかないね」
紬がスケジュールを確認しながら言う。
「今しかない!」
ふたばは大きく頷いた。
「みんなでプレゼント買いに行こう!」
集まったのは、ふたば、はじめ、彩乃、紬の四人。
美月は雑誌の取材が入っており、後から合流する予定だった。
れいじには、
「ホテルで曲作ってるって」
と、はじめが確認している。
「じゃあ急ごうか!」
四人は街中へ向かった。
最初に入ったのは雑貨店だった。
店内にはマグカップや革小物、腕時計などが並んでいる。
ふたばは一つ一つ手に取りながら悩んでいた。
「これどうかな?」
シンプルな革のキーケースだった。
彩乃は少し考えて首を傾げる。
「お兄ちゃん、鍵あんまり持ち歩かないんだよね」
「そっか……」
ふたばは戻す。
「じゃあこれは!」
今度は腕時計。
「もう持ってる」
「そうだった……」
はじめが笑う。
「れいじって難しいよな」
「そもそも物欲ないからね」
彩乃も苦笑した。
他の店へ移動する。
次は食器専門店。
棚には色とりどりのマグカップが並んでいた。
「これいい!」
ふたばが白いマグカップを手に取る。
派手な柄はない。
シンプルで落ち着いたデザインだった。
持ち手の内側だけ、深い赤色になっている。
「……これ、ほんとにいいかも」
彩乃が呟く。
「お兄ちゃん、毎朝コーヒー飲むし」
「ブラックだったよね」
はじめが得意げに言う。
「ちゃんと聞き出したからな!」
「役に立ったね」
紬が笑う。
ふたばはマグカップを見つめた。
「これなら長く使ってくれそう」
「うん」
彩乃も頷く。
「これならお兄ちゃんらしい」
「よし決まり!」
ようやくプレゼントが決まった。
四人がレジへ向かおうとした、その時だった。
「あれ?」
聞き慣れた声がした。
全員の動きが止まる。
「……えっ?」
ふたばがゆっくり振り向く。
そこには紙袋を片手に立つれいじがいた。
「れ、れいじさん!?」
はじめも固まる。
「何でここに?」
思わず口に出してしまった。
「さっき弦が切れて買いにきた」
れいじは近くの楽器店を指差した。
「終わったから少し見て回ってた」
嫌な汗が一気に噴き出す。
プレゼントはまだ包装もしていない。
ふたばは反射的にマグカップを背中へ隠した。
紬も紙袋をさりげなく自分の後ろへ移動させる。
れいじは不思議そうに四人を見た。
「みんなで買い物?」
「そ、そう!」
ふたばの声が裏返る。
「ちょっと、その……」
言葉が続かない。
はじめも助け船を出そうとする。
「えっと……あれだ!」
「その……」
頭が真っ白だった。
すると、一歩前へ出たのは彩乃だった。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「武道館の衣装で使えそうな小物探してたの」
れいじが店内を見回す。
「食器屋だけど」
「インテリアも参考になるから」
彩乃は平然と答える。
「色の組み合わせとか、質感とか」
服飾を勉強している彩乃らしい説明だった。
れいじは納得したように頷く。
「ああ、なるほどな」
その瞬間。
ふたばたちは心の中で同時に叫んだ。
(助かった……!)
「じゃあ俺、先戻る」
「う、うん!」
れいじは軽く手を振ると、そのまま歩いて行った。
姿が見えなくなる。
全員。
一斉に大きく息を吐いた。
「危なかったぁ……」
はじめがその場にしゃがみ込む。
「寿命縮んだ」
「まだ何もしてないのに」
紬が笑う。
彩乃も苦笑していた。
「まさかここで会うとは思わなかった」
ふたばは胸を押さえる。
「心臓、まだドキドキしてる」
「でも彩乃ちゃんのおかげ」
紬が言う。
「本当に助かった」
彩乃は少し照れながら笑った。
「お兄ちゃん相手なら、あれくらいごまかせるよ」
「さすが妹」
はじめが親指を立てる。
「ありがとう」
ふたばも頭を下げた。
「ううん」
彩乃は首を振る。
「成功させたいもんね」
その一言に、ふたばは大きく頷いた。
「絶対、喜んでもらおう」
四人は改めてプレゼントを受け取り、ホテルへの帰り道を歩き始めた。
一方、その頃。
ホテルへ戻る途中のれいじは、一人で歩きながらさっきのことを思い返していた。
「みんなで買い物か」
特に違和感はない。
でも。
ふたばの慌てた顔だけは、なぜか頭に残っていた。
「……何か隠してた?」
小さく呟く。
すぐに首を横へ振る。
「まあ気のせいか」
そう思って歩き出す。
しかし、その小さな疑問は、本人も気付かないまま心の片隅に残り続けていた。
第93話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は誕生日サプライズ編のスタートでした。
プレゼント選びという何気ない出来事ですが、それぞれの性格がよく出る回になったと思います。
真剣に悩むふたば。
自然に情報を集めるはじめ。
冷静にフォローする紬。
兄のことを一番よく知っている彩乃。
そして、何も知らずに偶然現れるれいじ。
特に今回は、プレゼント選びの最中に本人と鉢合わせしてしまうという、ちょっとしたハプニングを入れてみました。
本人たちはかなり焦っていますが、読者の皆さんには少しクスッと笑っていただけたら嬉しいです。
また、彩乃がとっさに場を切り抜けたシーンは、兄妹ならではの距離感を意識して描きました。
まだれいじは何も気付いていません。
ですが、小さな違和感は少しずつ心に残り始めています。
この違和感が、この先どんな感情へ変わっていくのか。
誕生日サプライズ編はまだ始まったばかりです。
引き続き、FirstDayの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。




