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第91話「夢への招待状」


全国ツアーも順調に進み、FirstDayにとって忘れられない知らせが届きます。


バンドを始めた頃は、ライブハウスで数十人のお客さんの前に立つことさえ夢でした。


それが少しずつ形になり、気づけば新しい景色が見え始めています。


今回のテーマは「夢」。


努力を積み重ねた先に待っていた、新たな目標への第一歩です。


ぜひ最後までお楽しみください。



 全国ツアーは順調だった。


 どの会場でも客席は満員。


 新しいアルバム『NOW I KNOW』の曲たちも、少しずつライブの定番になり始めている。


 ステージに立つたび、客席から自然と歌声が返ってくるようになった。


 その光景に、ふたばは何度胸を熱くしたかわからない。


 この日もライブは大成功だった。


 アンコールを終え、大きな拍手に見送られながら楽屋へ戻る。


「はぁー!」


 はじめがソファへ倒れ込んだ。


「今日も最高だったね!」


「毎回それ言ってるし」


 美月が笑う。


「だって本当なんだもん」


 れいじはギターケースを静かに置き、タオルで汗を拭いた。


「客席、最初から飛ばしてたな」


「『Now I Know』で歌ってくれてましたね」


 ふたばが嬉しそうに言う。


「最初はみんな静かに聴いてたのに」


「もう一緒に歌ってくれるんだ」


 その言葉に全員が頷いた。


 音楽が届いている。


 その実感が何より嬉しかった。


 そこへ楽屋のドアが開く。


「失礼します」


 紬だった。


 その後ろには黒田と佐伯の姿もある。


「黒田さんに佐伯さんまで?」


 れいじが少し驚く。


「現場まで来るなんて珍しいですね」


「今日は少し話があってな」


 黒田は穏やかに笑った。


 その表情を見て、紬もどこか嬉しそうだった。


「みんな座ってくれる?」


 部屋の空気が少し変わる。


 何だろう。


 全員が自然と姿勢を正した。


 黒田は一枚の封筒をテーブルに置いた。


「まず最初に」


「全国ツアー、本当にお疲れさま」


「ありがとうございます」


 四人が頭を下げる。


「正直、ここまで反響があるとは思わなかった」


 黒田は続けた。


「アルバムも好調」


「ツアーも各地でソールドアウト」


「会社としても本当に嬉しく思ってる」


 はじめが照れくさそうに頭をかく。


「褒められると恥ずかしいな」


「本題はここから」


 黒田が微笑んだ。


 その一言で、また部屋が静かになる。


 黒田は封筒を開き、中から一枚の資料を取り出した。


「正式に決まりました」


 ゆっくりとテーブルへ置く。


 そこに書かれていた文字を見て、ふたばは息を呑んだ。


『日本武道館ライブ開催決定』


「……え」


 誰も声が出ない。


 数秒の沈黙。


「武道館?」


 はじめがようやく口を開いた。


「本当に?」


「本当だ」


 黒田が力強く頷く。


「来年の春」


「日本武道館を押さえた」


 部屋の時間が止まった。


 ふたばは何度も資料を見返す。


 読み間違いじゃない。


 夢でもない。


 本当に書いてある。


「武道館……」


 小さく呟いた。


 美月も目を丸くしていた。


「私たちが?」


「ああ、もちろん簡単じゃない」


 黒田は真剣な表情になる。


「会社としても大きな勝負だ」


「でも」


「今のお前たちなら立てると判断した」


 その言葉は何より嬉しかった。


 会社に認められた。


 そう感じた。


 はじめは立ち上がったまま動けない。


「夢じゃないよな?」


 自分の頬をつねる。


「痛っ!」


「夢じゃないね」


 美月が笑う。


 楽屋が少し和んだ。


 ふたばは資料を見つめたままだった。


 武道館。


 子どもの頃からテレビなどで見ていた場所。


 憧れのアーティストが立っていた舞台。


 そこへ、自分たちが立つ。


 なかなか信じられなかった。


 自然と目に涙が浮かぶ。


「私……」


 声が震える。


「武道館なんて、夢の中だけの世界だと思ってました」


 涙が一粒、頬を伝った。


「まさか自分が……」


 最後まで言えなかった。


 紬がそっとティッシュを差し出す。


「ありがとうございます」


 ふたばは少し照れながら受け取った。


 れいじは静かに資料を見ていた。


 普段あまり感情を表に出さない彼が、今日は珍しく言葉を探しているようだった。


「どうした?」


 黒田が声をかける。


 れいじは少し笑った。


「いや」


「夢って」


 一度言葉を切る。


「本当に叶うんですね」


 その一言に、部屋が静かになる。


 黒田も少しだけ目を細めた。


「まだ夢の途中だ」


「武道館を成功させて、初めて本当に叶ったと言える」


「はい」


 れいじは力強く頷いた。


 話が終わり、黒田たちは楽屋を後にした。


 部屋にはまだ興奮が残っている。


「武道館だぞ!」


 はじめが叫ぶ。


「武道館!」


「落ち着け」


 美月が笑う。


「いや無理だな!」


 ふたばもようやく笑顔になった。


「本当に行けるんですね」


「そうだな」


 れいじが答える。


「ここまで来たんだから」


「最高のライブにしよう」


 その一言に全員が頷いた。


 夜。


 ホテルへ戻ったあとも、誰もすぐには眠れなかった。


 ふたばはベッドに座り、スマホで武道館の写真を眺めていた。


 大きな屋根。


 独特な八角形の建物。


 何万人ものアーティストが憧れた場所。


「あと半年か……」


 小さく呟く。


 まだ時間はある。


 でも、きっとあっという間だ。


 その頃、れいじも同じように武道館の写真を見ていた。


 静かに画面を閉じる。


 そして窓の外を見る。


「やっとここまで来たな」


 誰に言うでもなく呟いた。


 夢だった場所が、少しずつ現実へ変わろうとしていた。


 FirstDayの新しい目標は、もう目の前まで来ていた。

第91話を読んでいただき、ありがとうございます。


ついにFirstDayの武道館ライブが決定しました。


物語の序盤では、武道館はまだ遠い憧れの場所でした。


ライブハウスで数十人のお客さんを前に演奏していた頃の彼らからすると、本当に大きな一歩です。


もちろん、武道館が決まったからといってゴールではありません。


むしろ、ここからが本当の勝負です。


最高のステージを作るために、さらに成長しなければなりません。


今回印象的だったのは、それぞれの反応の違いでした。


はじめは全身で喜び、美月は少し照れながらも現実を受け止め、ふたばは夢が現実になったことに涙を流しました。


そして、れいじ。


普段は感情をあまり表に出さない彼が、「夢って本当に叶うんですね」と口にした一言には、これまで積み重ねてきた時間が詰まっているような気がします。


武道館まで、あと半年。


FirstDayはここからさらに走り続けます。


次回も、彼らの歩みを温かく見守っていただけたら嬉しいです。

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