第87話「次のステージへ」
第87話です。
『NOW I KNOW』発売から一夜。
昨日は夢のような一日でしたが、本当に大切なのはここからです。
音楽は作って終わりではなく、届けてからが始まり。
そして今回は、その結果が少しずつ見えてきます。
さらに、FirstDayの全国ツアーへ向けた新しい動きも。
少しずつ大きくなっていくバンドと、それを支える仲間たち。
そんなお話です。
発売記念イベントを終えた翌日。
DAYBREAK RECORDSの事務所には朝から全員が集まっていた。
理由は一つ。
ランキング発表である。
昨日のイベントの帰り際。
紬が意味深な笑顔を浮かべながら、
「結果は明日です」
と言って帰ってしまったのだ。
おかげで全員が落ち着かなかった。
特に落ち着きがなかったのは、もちろんはじめだった。
「まだ?」
「まだ」
「紬ちゃんまだ?」
「まだ」
「あと何分?」
「知らない」
美月が冷たく返す。
「お前、昨日からそれ何回目だ」
「気になるだろうが!」
はじめが机を叩く。
ふたばも正直気になっていた。
昨日の反応は良かった。
でもランキングは別の話だ。
世の中にはもっと有名なアーティストもいる。
期待しすぎるのも怖かった。
その時だった。
事務所のドアが開く。
「おはようございます」
紬だった。
いつものように資料を抱えている。
しかし今日は全員の視線が違った。
「紬ちゃん!」
「結果!」
「早く早く!」
「圧がすごい」
紬は苦笑した。
そして机の上に資料を置く。
「じゃあ発表しますね」
部屋が静かになる。
誰も喋らない。
はじめだけが変な呼吸をしていた。
「NOW I KNOW」
紬がゆっくり言う。
「デイリーアルバムランキング」
ごくり。
誰かが唾を飲み込む音がした。
「第2位です」
沈黙。
数秒。
誰も動かなかった。
「……え?」
最初に声を出したのはふたばだった。
「2位?」
「はい」
「2位?」
「はい」
「全国で?」
「全国です」
次の瞬間。
「うおおおおおおお!!」
はじめが立ち上がった。
「マジかよ!!」
「2位!?」
「2位だぞ!?」
「知ってる」
美月も珍しく驚いていた。
「すごいじゃん」
ふたばはまだ信じられなかった。
昨日、自分たちのCDを買ってくれる人を見た。
応援してくれる人がいることも知った。
でも。
ランキング2位。
数字として突きつけられると、急に現実味が増した。
「本当に……?」
「本当です」
紬が笑う。
「みなさんおめでとうございます」
ふたばの目に少し涙が浮かんだ。
そこへれいじが言う。
「よかったな」
短い言葉。
でもどこか嬉しそうだった。
その日の午後。
さらに嬉しい知らせが続いた。
テレビの音楽情報番組。
ネットニュース。
音楽サイト。
様々な場所でFirstDayの名前が取り上げられ始めていた。
『急上昇中の4人組バンド』
『NOW I KNOWが好調スタート』
『注目の若手バンド』
事務所のモニターに映る自分たちを見ながら、ふたばは不思議な気分になった。
「なんか変な感じ」
「わかる」
美月も頷く。
「自分たちのこと話してる」
「なっ」
はじめはもう上機嫌だった。
「もう有名人だな俺たち」
「調子乗るな」
「もう遅い」
全然反省していなかった。
数日後。
さらに紬から報告が入る。
「ツアーの件です」
全員が顔を上げる。
「東京公演ソールドアウト」
「おお!」
「大阪公演ソールドアウト」
「マジか!」
「福岡公演ソールドアウト」
「うおおお!」
はじめがまた騒ぎ始めた。
ふたばも驚いていた。
チケットは売れるとは思っていた。
でも、こんなに早いとは思っていなかった。
「名古屋も残りわずかです」
紬が言う。
「追加公演の話も出ています」
「追加公演……」
ふたばは呟く。
夢だった全国ツアー。
それが今、現実になろうとしていた。
「武道館も夢じゃないかもな」
はじめがぽつりと言った。
部屋が静かになる。
以前なら笑い話だった。
遠い遠い夢。
でも今は違う。
誰も笑わなかった。
れいじも否定しない。
ふたばの胸が少し高鳴る。
でもまだ遠い。
でも少しだけ近づいた気がした。
そんな空気の中。
紬が新しい資料を取り出した。
「もう一つあります」
「まだあるの?」
美月が聞く。
「今回のツアーグッズです」
「あっ」
全員が止まる。
確かに必要だった。
Tシャツ。
タオル。
リストバンド。
パンフレット。
何も決まっていない。
「どうする?」
美月が聞く。
その時だった。
れいじが何気なく言う。
「彩乃に頼もうと思う」
「え?」
ふたばが声を上げる。
「彩乃ちゃん?」
「うん」
「服飾やってるだろ」
確かにそうだった。
れいじの妹。
相田彩乃。
服飾系の専門学校へ通っている。
「面白そうね」
美月が言う。
「でも大丈夫?」
「とりあえず聞いてみる」
れいじはスマホを取り出した。
数分後。
彩乃が事務所へやって来た。
「何か用?」
入ってきた瞬間から警戒している。
嫌な予感がしている顔だった。
「ツアーグッズ」
「うん」
「それとツアーの衣装」
「うん」
「彩乃にやってもらいたい」
「は?」
彩乃が固まる。
「えっ?」
「私?」
「うん」
「無理無理無理無理!」
全力だった。
「まだ学生だよ!?」
「知ってる」
「プロじゃないよ!?」
「知ってる」
「じゃあ何で!?」
れいじは平然としている。
「なんか面白そうだから」
「それ兄ちゃん基準じゃん!」
部屋に笑いが起きる。
彩乃は頭を抱えた。
「無茶振りすぎるから……」
すると紬が資料を差し出した。
「もちろん予算やサポートはあります」
「えっ本気なの?」
「本当にお願いしたいと思っています」
彩乃が資料を見る。
ツアー日程。
会場規模。
グッズ案。
数字。
情報。
それを見ているうちに表情が変わっていく。
ふたばはその変化に気付いた。
怖い。
でも。
嬉しい。
そんな顔だった。
「……本当に私でいいの?」
彩乃が聞く。
その声は少しだけ小さかった。
れいじは即答する。
「お前がいい」
部屋が静かになる。
彩乃も少し驚いていた。
兄がこういう言い方をするのは珍しい。
「責任取れるの?」
「取る」
「失敗したら?」
「その時は一緒に怒られる」
「最悪じゃん」
彩乃が笑った。
少しだけ。
本当に少しだけ。
でも嬉しそうに。
「……ちょっと考えてみる」
「やるな」
「まだ決めてない!」
全員が笑う。
その笑い声の中で、ふたばは思った。
バンドだけじゃない。
周りのみんなも少しずつ前へ進んでいる。
紬も。
彩乃も。
自分たちも。
ランキング2位。
全国ツアー。
そして新しい挑戦。
FirstDayはまた一歩、次のステージへ進もうとしていた。
第87話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は『NOW I KNOW』のデイリーランキング発表回でした。
結果は2位。
もちろん物語の中ではありますが、メンバーにとっては大きな出来事だったと思います。
特にふたばは、自分が作詞作曲した『Now I Know』が収録されたアルバムでもあります。
発売イベントで「元気をもらいました」と言われたことも含めて、音楽が誰かに届いていることを実感できた回になりました。
そして相変わらずのはじめ。
ランキング発表前から落ち着かず、発表後は一番騒いでいました。
こういう時に一番感情が顔に出るのは、やっぱりはじめですね。
後半では、全国ツアーへ向けて新しい話も動き始めました。
今回スポットが当たったのは彩乃です。
これまで何度か登場していましたが、本格的に物語へ関わるのは初めてかもしれません。
服飾を学んでいる彩乃にとって、ツアー衣装やグッズ制作は大きな挑戦になります。
もちろん不安もあります。
でも、それ以上にワクワクしている部分もあるはずです。
れいじが言った、
「お前がいい」
という言葉。
兄としては短い一言ですが、彩乃にとってはかなり大きな後押しになったのではないでしょうか。
そしてFirstDayはまた一歩前へ進みました。
次回は全国ツアー準備編。
彩乃の挑戦にも注目していただけたら嬉しいです。




