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第88話「彩乃の挑戦」

第88話です。


今回は少し視点を変えて、彩乃の挑戦を描いてみました。


これまでFirstDayを支える人たちはたくさん登場してきましたが、今回はれいじの妹であり、服飾を学ぶ彩乃が主役です。


全国ツアーへ向けて動き出したFirstDay。


その舞台裏では、衣装やグッズ制作も進んでいます。


好きなことを仕事にする難しさ。


誰かの期待に応えたいという気持ち。


そんな彩乃の奮闘を楽しんでいただけたら嬉しいです。


 全国ツアーの準備は着々と進んでいた。


 チケットは予想以上の勢いで売れている。


 追加公演の話も出始めていた。


 テレビ出演も増えた。


 街中でFirstDayの曲が流れることも珍しくなくなってきた。


 そんな中。


 相葉彩乃は、自分の部屋で頭を抱えていた。


「うーん……」


 机の上には大量のスケッチ。


 紙。


 色見本。


 雑誌。


 パソコン。


 飲みかけのアイスコーヒー。


 そして、ぐしゃぐしゃに丸められた紙の山。


 すでに深夜だった。


 部屋の時計は一時を回っている。


 彩乃は鉛筆を置いた。


「難しい……」


 服飾の勉強はしている。


 デザインを考えることも好きだ。


 でも今回は違った。


 相手が兄だから。


 いや。


 兄だけじゃない。


 FirstDayだから。


 今や多くの人が知るバンド。


 全国ツアー。


 自分が作った衣装を着て、何千人もの前に立つ。


 そう考えるだけで胃が痛くなりそうだった。


「失敗したらどうしよう……」


 呟く。


 すると机の上に置かれた『NOW I KNOW』が目に入った。


 アルバムジャケット。


 白い空。


 遠くへ続く道。


 四人の背中。


 彩乃はそれを見つめる。


「今ならわかる……か」


 ふと考える。


 このアルバムって何だろう。


 迷いながら進んできた道。


 苦しかった時間。


 楽しかった時間。


 光。


 影。


 不安。


 希望。


 全部が入っている。


 その瞬間。


 頭の中で何かが繋がった。


「……これだ」


 彩乃は再びペンを握った。


 1週間後。


 DAYBREAK RECORDSの事務所。


 メンバー全員が集まっていた。


「来た?」


 はじめが聞く。


「来た」


 れいじが答える。


「どんな感じだろうな」


 ふたばも少し楽しみだった。


 その時。


 ドアが開く。


「おはよう」


 彩乃が入ってきた。


 大きなファイルを抱えている。


 少し緊張しているのがわかった。


「できた?」


 美月が聞く。


「とりあえず」


 彩乃が答える。


「見て」


 会議室のモニターにデータを映す。


 次の瞬間。


「おお……」


 全員の声が揃った。


 黒。


 白。


 シンプルなのに格好いい。


 余計な装飾がない。


 大人っぽい。


 洗練されている。


「すごい……」


 ふたばが思わず呟いた。


 彩乃は少し照れながら説明を始める。


「コンセプトは『NOW I KNOW』」


 モニターを指差す。


「白と黒」


「光と影」


「迷いと答え」


「そういうイメージ」


 れいじが黙って聞いている。


「全体は白と黒を基調にしてる」


「でも」


 画面が切り替わる。


「メンバーごとの色を差し色で入れた」


 ふたば用。


 黒と白をベースに、緑のライン。


 美月用。


 紫のアクセント。


 はじめ用。


 青の差し色。


 そして。


 れいじ用。


 赤。


「いいじゃん」


 美月が言う。


「思ったよりちゃんとしてる」


「思ったよりって何」


 彩乃が睨む。


「褒めてる」


「ならいい」


 はじめは自分の衣装を見ていた。


「俺、青なんだ」


「前からそうでしょ」


「そうだけど」


 少し嬉しそうだった。


 ふたばも自分のデザインを見る。


 緑色は目立ちすぎない。


 でもちゃんと存在感がある。


 今まで着たことがないような服だった。


「これ好き」


 素直に言う。


 彩乃の表情が少し緩んだ。


 その様子を見ていたれいじが言う。


「やるな」


 彩乃が固まる。


「……え?」


「いいと思う」


 兄からの評価。


 それだけで少し嬉しかった。


 でも。


 素直には認めない。


「当たり前でしょ」


「誰の妹だと思ってるの」


「調子乗るな」


 部屋に笑いが広がった。


 その後はグッズ会議になった。


「まずタオル」


 彩乃が資料をめくる。


「これは定番」


「欲しい」


 はじめが即答。


「お前は売る側」


「俺も欲しい」


 意味がわからなかった。


 次。


「タンブラー」


「おお」


「普段使いできそう」


 ふたばが言う。


「でしょ?」


 彩乃が頷く。


「あとアクリルスタンド」


 一瞬。


 沈黙。


「アクスタ?」


 はじめが聞く。


「アクスタ」


「俺たち?」


「俺たち」


「売れる?」


 すると紬が即答した。


「売れます」


「即答!?」


「売れます」


 二回言った。


 怖かった。


 美月が笑う。


「じゃあ作ろう」


「本当に売れるのか……」


 はじめはまだ信じていない。


 さらに。


「ラバーバンド」


「キーホルダー」


「ステッカー」


 次々に案が出てくる。


 そして最後。


「ロゴ」


 彩乃が言った。


 画面が切り替わる。


 そこには新しいFirstDayのロゴが映っていた。


 FDをモチーフにしたデザイン。


 朝日をイメージしたライン。


 シンプル。


 でも力強い。


「おお……」


 ふたばが声を漏らす。


「これ好き」


「私も」


 美月も頷く。


 紬も資料を見ながら言う。


「グッズ展開しやすいですね」


 れいじは少し考えたあと。


「これでいこう」


 そう言った。


 彩乃は驚いた。


「もう?」


「いいから」


 れいじは短く答える。


 でも、それは最高の褒め言葉だった。


 午後になると、実際の衣装サンプルも届いた。


 全員で試着する。


 ふたばは鏡の前に立った。


「……すごい」


 自分じゃないみたいだった。


 今までより大人っぽい。


 少しだけプロらしい。


 いや。


 少しじゃない。


 かなり。


「似合う」


 美月が言う。


「ほんと?」


「うん」


 れいじも頷いた。


 ふたばは少し照れた。


 はじめは一人でポーズを取っている。


「どう?」


「うざい」


 美月が即答。


「ひどい」


 そんなやり取りに笑いが起きる。


 気付けば夕方になっていた。


 会議も終わる。


 資料もまとまる。


 グッズも決まった。


 衣装も決まった。


 全国ツアーへ向けた準備が一つ前に進んだ。


 みんなが帰った後。


 彩乃は一人だけ会議室に残っていた。


 机の上には完成したデザイン資料。


 スマホを見る。


 SNSにはFirstDayへの期待の声が並んでいた。


『ツアー楽しみ』


『グッズ早く見たい』


『衣装気になる』


 彩乃は静かに画面を閉じた。


 不安はある。


 怖くないと言えば嘘になる。


 でも。


 少しだけわかった気がした。


 れいじたちが音楽を作る理由。


 みんなで何かを作る楽しさ。


 一人では見えない景色。


「……頑張ろう」


 小さく呟く。


 その声は、少しだけ自信に満ちていた。


 彩乃の挑戦も、まだ始まったばかりだった。

第88話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は彩乃回でした。


これまでは「れいじの妹」という立場での登場が多かった彩乃ですが、今回は一人のクリエイターとして物語に関わることになりました。


服飾を学んでいるとはいえ、全国ツアーの衣装やグッズを任されるのは大きなプレッシャーです。


特に相手が兄のバンドというのは、近いからこその難しさもあると思います。


だからこそ、今回のテーマは「挑戦」でした。


また、衣装デザインにはアルバム『NOW I KNOW』の世界観を反映させています。


白と黒を基調にしたデザイン。


そこにメンバーそれぞれのカラーを差し色として加えることで、統一感と個性を両立させる形にしてみました。


そして何より、彩乃が一人で作るのではなく、みんなで意見を出し合いながら形にしていく楽しさを知ることができたのは大きな収穫だったと思います。


はじめは相変わらずでしたが、アクスタの件では意外と良いリアクションをしてくれました。


きっとツアー会場で誰よりも自分のアクスタを買いたがると思います。


そしてFirstDayは、いよいよ全国ツアーへ向かいます。


音楽だけではなく、多くの人の想いが詰まったツアーになりそうです。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

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