第85話「休日のガールズトーク」
第85話です。
今回は少しだけ音楽から離れて、久しぶりの休日回になります。
いつもFirstDayを支えている紬。
表に立つことは少ないけれど、誰よりも近くでメンバーを見守っている存在です。
そんな紬にも、もちろんプライベートがあります。
そして今回は、ふたばとの久しぶりのお出かけ。
女の子同士だからこそ話せること。
仕事では見せない表情。
そんな一日を描いてみました。
2ndアルバム『NOW I KNOW』が完成し、発売準備が進む中。
FirstDayには珍しく、少しだけ落ち着いた時間が流れていた。
もちろん仕事がなくなったわけではない。
取材。
打ち合わせ。
SNS用の撮影。
ライブの準備。
やることは山ほどある。
それでも、久しぶりにぽっかり空いた休日だった。
ふたばは駅前で待ち合わせをしていた。
「お待たせ」
声がして振り向く。
「紬ちゃん!」
紬が手を振っていた。
白いニットにロングスカート。
いつも仕事で見る姿とは少し違う。
大人っぽくて、柔らかい雰囲気だった。
ふたばは思わず見つめてしまう。
「何?」
「いや……」
「紬ちゃん、最近綺麗になったよね」
紬が少し目を丸くした。
「そう?」
「うん」
「髪型変えた?」
「少しだけ」
「やっぱり!」
ふたばが嬉しそうに言う。
紬は少しだけ笑った。
「気付くんだ」
「そりゃ気付くよ」
毎日のように顔を合わせている。
だからこそ、小さな変化もわかる。
「ふたばちゃんも変わったよ」
「え?」
「前より自信ついた」
ふたばは少し驚いた。
「そうかな」
「うん」
紬は頷く。
「最初の頃と全然違う」
そう言われると照れくさい。
ライブもした。
ツアーもした。
テレビにも出た。
CMも経験した。
気付けば遠い場所まで来ていた。
二人は街を歩きながら、駅前のカフェへ向かった。
木の温もりを感じる落ち着いた店内。
窓際の席へ案内される。
ランチプレートとコーヒーを注文した。
「こういうの久しぶりだな」
ふたばが言う。
「最近ずっと忙しかったし」
「確かに」
紬も頷いた。
仕事の話。
テレビの話。
奈緒の話。
美月が酔っぱらった話。
はじめの変な行動の話。
そんな他愛ない話で盛り上がる。
気付けば一時間近く経っていた。
ふたばはふと思い出したように聞いた。
「そういえばさ」
「ん?」
「紬ちゃんって好きな人いないの?」
紬は平然とコーヒーを飲んだ。
「いるよ」
「えっ!?」
ふたばが勢いよく顔を上げる。
「誰!?」
「れいじさん」
時間が止まった。
「……え?」
「……」
「……」
紬が吹き出した。
「ふふっ」
「え?」
「え?」
「その顔見たかった」
「もう!」
ふたばの顔が真っ赤になる。
「びっくりした!」
「ごめんごめん」
全然悪いと思っていない顔だった。
「本当に意地悪」
「ふたばちゃんが面白いから」
「面白くない!」
紬は楽しそうに笑う。
「好きだけどね」
「え?」
「れいじさん」
ふたばが再び固まる。
「人として」
「あぁ……」
「安心した?」
「してない!」
「はいはい」
完全に遊ばれていた。
紬はストローを回しながら言う。
「ふたばちゃん、本当にわかりやすいよね」
「何が!?」
「れいじさんの話になると反応違う」
「違わない!」
「違う」
「違わない!」
「違う」
堂々巡りだった。
「可愛い」
「やめて!」
ふたばは顔を隠した。
紬はしばらく笑っていた。
そして少し落ち着く。
「じゃあ紬ちゃんは?」
「何が?」
「本当に好きな人」
「いない」
「即答」
「今は仕事かな」
紬は窓の外を見る。
「恋愛してる暇ないし」
「……はじめさんとかは?」
ふたばが何気なく聞いた。
「はじめさん?」
「うん」
「仲良いし」
紬は少し考えた。
「嫌いじゃないよ」
「おっ」
ふたばが少し身を乗り出す。
「でも近すぎない?」
「近すぎる?」
「毎日会うし」
「確かに」
「仕事も一緒だし」
「うん」
「もし付き合って別れたら面倒くさそう」
「現実的……」
ふたばが苦笑する。
紬はコーヒーを飲む。
「それにね」
「うん?」
「はじめさんって、みんなのお兄ちゃんみたいな感じゃない」
「あー」
ふたばが頷いた。
「それはわかる」
「頼れるし面白いし」
「優しいし」
「うん」
「でも恋愛とは少し違うかな」
紬らしい答えだった。
「今は恋愛よりFirstDayかな」
「そんなに?」
「FirstDayが面白すぎる」
真顔だった。
ふたばが吹き出す。
「何それ」
「本当だよ」
紬は笑った。
「毎日何か起きるし」
「確かに」
事故もあった。
CMもあった。
映画主題歌も決まった。
アルバムも完成した。
退屈する暇なんてなかった。
「それに」
紬が少しだけ真面目な顔になる。
「みんな頑張ってるから」
「……」
「私も頑張ろうって思う」
その言葉に、ふたばは少し胸が温かくなった。
紬は表には出ない。
でも誰よりも近くでメンバーを見ている。
支えている。
だからこそ、その言葉には重みがあった。
「紬ちゃんってさ」
「ん?」
「本当にFirstDay好きだよね」
「うん」
迷いなく頷く。
「大好き」
即答だった。
ふたばは自然と笑っていた。
カフェを出る。
冬の空気は少し冷たい。
二人は並んで歩く。
ふたばは横顔を見る。
最近綺麗になったと思った。
でもそれは外見だけじゃない。
仕事に向き合う姿勢。
仲間を支える優しさ。
そういうものが人を綺麗にするのかもしれない。
「紬ちゃん」
「ん?」
「紬ちゃんにも恋愛して欲しいな」
紬は即答した。
「余計なお世話」
「即答!?」
「今はいいの」
少しだけ笑う。
「そのうちね」
その言葉を聞いて、ふたばも笑った。
忙しい日々の中の小さな休日。
でも、こういう時間もきっと大切なんだろう。
ふたばはそう思いながら、紬と並んで歩き続けた。
第85話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は紬にスポットを当てた回でした。
これまで紬はマネージャーとしての姿が中心でしたが、今回は少しだけ一人の女の子として描いてみました。
とはいえ、やっぱり紬は紬ですね。
恋愛の話になってもどこか冷静です。
そして、ふたばをからかう時だけ妙に楽しそうでした。
「れいじさん」
発言は完全に確信犯です。
あの時のふたばの反応を見たかっただけだと思います。
でも、それだけ二人の距離が近くなった証拠でもあります。
そして今回改めて感じたのは、紬のFirstDay愛です。
メンバーではない。
ステージにも立たない。
それでも誰よりもこのバンドのことを考えている。
だからこそ、
「FirstDayが面白すぎる」
という言葉には、紬らしさが詰まっていた気がします。
また、ふたばから見ても紬は大切な仲間であり、友達になっています。
忙しい日々の中で、こういう何気ない休日は案外大事なのかもしれません。
次回からは再びアルバム発売へ向けて物語が動いていきます。
引き続き応援していただけたら嬉しいです。




