第83話「The Words I Couldn’t Say」
第83話です。
映画主題歌制作編、ついに動き出します。
何度も悩み、何度も書き直していたれいじ。
なかなか出口が見えなかった曲作りですが、ようやくひとつの形になりました。
そして今回、その曲を最初に聴くのは……。
音楽の話のはずなのに、少しだけ心臓が忙しい回です。
映画主題歌の制作が動き始めてから数週間。
脚本と向き合い、何度も書いては消してを繰り返していたれいじだったが、ここ数日は妙に静かだった。
静かというより。
何か決まった人の顔だった。
三階のリビング。
ふたばは歌詞ノートを開きながら考え込んでいた。
2ndアルバムの歌詞。
言葉は少しずつ増えている。
でも、最後の一歩が出ない。
「……難しい」
小さく呟いた時だった。
「ふたば」
「ひゃっ!」
突然後ろから声がして、ふたばが飛び上がる。
「な、なんですか!?」
れいじだった。
「何で毎回そんな驚くんだよ」
「い、いえ!」
全然心当たりしかなかった。
最近はもう、心臓が忙しい。
主な原因は目の前にいる人だった。
れいじはギターケースを肩にかけていた。
「ちょっと来て」
「……え?」
「主題歌」
「できた」
時間が止まった。
「え……」
「できた?」
「うん」
「聞くか?」
「……はい!」
数分後。
十階の屋上。
夕方だった。
空はオレンジ色に染まり始めている。
冷たい風が吹いていた。
ふたばは隣に座る。
「な、なんで私なんですか?」
「ん?」
れいじがギターを準備しながら言う。
「歌うのふたばだから」
「先に聞いた方がいいだろ」
「あ……」
そうだった。
そういうことだった。
変なこと考えた自分が恥ずかしくなった。
「じゃあいく」
軽くコードを鳴らす。
そして。
静かに歌い始めた。
優しいメロディだった。
派手じゃない。
でも、不思議なくらい景色が見える。
放課後。
夕焼け。
帰り道。
言いたかった言葉。
言えなかった言葉。
その全部がゆっくり流れてくる。
そしてサビ。
See you tomorrow
Even if tomorrow never comes
ふたばが少し目を見開く。
またね。
あの日、自分が言った言葉。
歌が続く。
れいじの声が風に乗る。
静かなのに。
どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう。
最後のコードが鳴り終わる。
風の音だけが聞こえた。
「……」
「……」
「……ふたば?」
「えっ!?」
慌てて顔を上げる。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
全然大丈夫じゃなかった。
心臓が大変だった。
ふたばは必死に平静を装う。
「……これ」
「私歌えるかな」
「え?」
「なんか……」
少し俯く。
「れいじさんが歌った方がいいかもって思いました」
れいじは少し驚いた顔をした。
「何で」
「だって……」
「すごいから」
「……」
数秒。
れいじは少し笑った。
「バカ」
「え?」
「これふたばの声で考えてる」
ふたばが止まる。
「俺じゃない」
「ふたばが歌う曲」
もう駄目だった。
心の中で叫ぶ。
(惚れてまうやろ……)
(……いや)
(もう好きだった)
数日後。
事務所。
「主題歌完成した」
れいじが言った瞬間。
「おお!!」
はじめが立ち上がった。
「ついに!」
「聞かせろ!」
全員集まる。
れいじがアコギを持つ。
ふたばは隣に座る。
「え?」
「私?」
「サビから入って」
「……はい」
緊張した。
でも歌い始める。
れいじのギター。
ふたばの声。
不思議なくらい合っていた。
歌い終わる。
静かになる。
「……」
「……」
「……」
はじめが最初だった。
「やば」
「鳥肌立った」
「めっちゃいいじゃん」
美月も腕を組んでいた。
「……あれ?」
ニヤニヤし始める。
「何ですか」
「なんか息合ってない?」
「え?」
「二人で秘密練習した?」
「えぇ!?」
ふたばが固まる。
「違います!」
「してないです!」
「したけど?」
れいじが普通に言った。
沈黙。
「……え?」
「歌うタイミング確認した」
さらに沈黙。
ふたばの顔が一気に赤くなる。
「そ、それを先に言ってください!!」
「何で怒るんだよ」
美月は笑いすぎていた。
「ダメだ……面白い」
紬も少し笑っている。
その後、アレンジを加えたデモを映画側へ送った。
数日後。
返事が来る。
『ぜひお願いします』
一発OKだった。
部屋が一気に盛り上がる。
「うおおお!」
「すげぇ!」
「映画だ!」
でも、公開は来年。
リリースもまだ先になる。
だから今は。
2ndアルバム。
「よし」
れいじが立ち上がる。
「戻るか」
そして次の日。
「できた」
「……え?」
「これも」
「あとこれ」
「これもある」
机にノートを置く。
一冊。
二冊。
三冊。
全員が止まった。
「……何これ」
はじめが聞く。
れいじは少しだけ笑った。
「映画の曲作る時」
「何回も作り直した」
「ボツ曲が大量にある」
全員沈黙。
「……え?」
「これ全部?」
「うん」
美月が笑った。
「怖っ」
ふたばも笑うしかなかった。
止まっていた時間が嘘みたいだった。
そして、2ndアルバムは一気に動き始めようとしていた。
第83話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は映画主題歌完成回でした。
タイトルは
『The Words I Couldn’t Say』
言えなかった言葉。
伝えたかった言葉。
映画の内容だけではなく、今までのFirstDayや、れいじ自身、そしてふたばの気持ちも少し重なっている曲になった気がします。
そして今回、一番大変だったのはたぶんふたばです。
二人きり。
夕方の屋上。
弾き語り。
好きな人の歌。
条件が揃いすぎていました。
心の中の、
「惚れてまうやろ」
は完全に本音だったと思います。
ただ、れいじ本人はいつも通りでした。
悪気ゼロ。
天然100%。
でも、
「これ、お前の声で考えてる」
という言葉は、たぶんふたばにとってかなり破壊力があったはずです。
そして後半では、まさかの“れいじボツ曲大量保管事件”も発覚しました。
苦しんでいた時間は無駄ではなく、全部ちゃんと次へ繋がっていたみたいです。
ここから2ndアルバム制作もさらに加速していきます。
引き続き応援していただけたら嬉しいです。




