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第82話「なんか最近変」

第82話です。


今回は少しだけ音楽から離れて、恋愛寄りのお話になります。


……とは言っても、FirstDayなので結局音楽は出てきます。


映画主題歌の打ち合わせが続く中、新しく関わる人も増えてきました。


最初は何も思っていなかったはずなのに。


何気ない会話。

何気ない距離感。

何気ない笑顔。


そういうものって、意外と後からじわじわ効いてきたりします。


今回は、ふたばが少しだけ忙しくなります。


心が。

映画主題歌の制作が始まってから、一週間ほど経っていた。


 DAYBREAK RECORDSの事務所には、以前より人が出入りすることが増えていた。


 映画制作チームとの打ち合わせ。


 2ndアルバム制作。


 ライブの予定。


 気づけば、事務所のホワイトボードは予定で埋まり始めていた。


 その中でも最近、よく見る顔があった。


 朝比奈結衣。


 映画チームのアシスタント兼脚本補助。


 一度きりかと思っていたが、思った以上に来る頻度が高かった。


 最初の日。


 ふたばは特に何も思わなかった。


「失礼します」


 結衣が資料を抱えて入ってくる。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です!」


 柔らかい人だな。


 真面目そうだな。


 そのくらいだった。


 打ち合わせが始まる。


 映画の話。


 主人公の気持ち。


 脚本の修正点。


 そして、れいじが珍しく真剣に聞いている。


「主人公って、最後まで強い人じゃないと思うんです」


 結衣が言う。


「言えなかったことが残ってる感じで」


 れいじが少し止まる。


「……それだ」


 ノートを開く。


 ペンが走る。


「なるほど」


 ふたばは思った。


 音楽詳しい人なんだな。


 本当に、そのくらいだった。


 三日後。


 また結衣が来た。


「差し入れです」


 袋を置く。


「近くに美味しいドーナツ屋あったので」


「うお!」


 はじめが飛びつく。


「神!!」


「早い」


 美月が笑う。


 れいじも一つ取る。


「サンキュ」


「いえ」


 普通。


 本当に普通。


 でも。


「……」


 ふたばは何となく見ていた。


 何となく。


 ただそれだけ。


 五日後。


 また打ち合わせ。


 事務所の空気にも少し慣れてきたのか、結衣も自然に話すようになっていた。


「このシーン、主人公が笑ってるんですけど」


「本当は笑えてないと思うんです」


「……うん」


「だから曲も明るいだけじゃなくて」


「少し残る感じ」


「……わかる」


 れいじが頷く。


「それわかる」


 ふたばは少しだけ驚いた。


 れいじが結構喋っている。


 しかも珍しく笑っていた。


「……へぇ」


 小さく呟く。


 その時。


 横に美月がいた。


「最近あの二人多くない?」


「え?」


「れいじと結衣さん」


 一瞬。


 ふたばが止まる。


「え!?」


「声デカ」


「い、いや別に!」


「普通じゃないですか!」


「ふーん」


 美月がニヤニヤしている。


「何ですかその顔!」


「別に」


「絶対何か思ってる!」


 その日はそれで終わった。


 でも。


 その言葉が妙に頭に残った。


 数日後。


 打ち合わせが終わった後だった。


「飲み物買ってきます」


 ふたばが立ち上がる。


「あ、私も行く」


 はじめが言う。


「俺も」


「行きすぎ」


 結局、れいじと結衣だけが部屋に残った。


 数分後。


 ふたばは財布を忘れたことに気づく。


「あっ」


 慌てて戻る。


 廊下を歩く。


 すると。


 会議室のドアが少しだけ開いていた。


「……?」


 何となく視線が入る。


 中。


 れいじと結衣が並んで座っていた。


 二人とも脚本を見ている。


「ここです」


 結衣が指を差す。


 れいじが少し近づく。


「……ああ」


「なるほど」


 距離が近い。


 かなり近い。


「……え」


 ふたばが止まる。


 別に何もしていない。


 普通に仕事。


 わかってる。


 でも。


「……え?」


 何故か胸がざわっとした。


 そのまま静かに戻る。


 数分後。


「ただいまです」


「おかえり」


 普通。


 れいじも普通。


 何も変わらない。


 なのに。


 ふたばだけ、何かがおかしかった。


 その夜。


 三階のリビング。


 美月がジュースを飲みながら言った。


「見ちゃった?」


「ぶっ!」


 ふたばが吹きそうになる。


「な、何をですか!」


「会議室」


「……」


「顔に出てる」


「出てません!」


「出てる」


「出てません!」


 美月が笑う。


「面白くなってきた」


「だから違いますって!」


 数日後。


 また打ち合わせ。


 終わったあと。


 れいじと結衣が何か話していた。


 笑っている。


 自然だった。


 何も変じゃない。


 でも。


「……」


 ふたばは止まる。


 なんか最近楽しそう。


 その瞬間。


「……え」


 自分で固まった。


 何考えてるんだろう。


 別に仕事なのに。


 別に普通なのに。


 その時だった。


「ふたば」


「ひゃっ!?」


 後ろから急に声がして飛び上がる。


 れいじだった。


「……何その反応」


「い、いえ!」


「最近なんか変じゃね?」


 ふたばの心臓が止まりそうになる。


「え!?」


「何がですか!?」


「なんか落ち着きない」


「……」


 数秒。


 れいじは少し考えて言った。


「熱ある?」


 沈黙。


 ふたばは真っ赤になった。


「……知りません!!」


「何で怒るんだよ」


 れいじは本気でわかっていなかった。


 窓の外では、冬の夜景が静かに光っていた。


 そしてふたばは、まだ気づいていなかった。


 いや。


 本当はもう、少しだけ気づいていた。


 自分が思っていたより、ずっと――。

第82話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は久しぶりに恋愛寄りの回でした。


今までのふたばは、れいじへの気持ちを少しずつ自覚しながらも、音楽やバンド活動の中で前へ進んでいました。


でも今回初めて、


「何か気になる」


「なんか落ち着かない」


そんな感情が出てきた回だったと思います。


しかもややこしいことに、れいじと結衣は別に何もしていません。


本当に仕事をしているだけです。


だからこそ余計に気になる。


そして美月。


こういう空気を察知する能力は異常に高いですね。


完全に楽しんでいます。


一方れいじは最後まで通常運転でした。


ふたばがドキドキしている横で、


「熱ある?」


はさすがに鈍感すぎます。


でも、その鈍感さがれいじらしいのかもしれません。


そして今回から少しずつ、音楽だけじゃない距離感にも変化が出てきそうです。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

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