表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/88

第80話「Now I Know」

第80話です。


2ndアルバム制作は順調……と言いたいところですが、そう簡単にはいきません。


前作を超えたい。

武道館へ近づきたい。

もっといいものを作りたい。


想いが強くなった分だけ、音作りも少しずつ難しくなっていきます。


そんな中で、一番最初に形になった曲があります。


それは、ふたばの小さな気づきから生まれた曲でした。

年明けから始まった2ndアルバム制作は、思っていたよりずっと難しかった。


 DAYBREAK RECORDSの事務所。


 ホワイトボードには大量の言葉が並んでいる。


『帰り道』


『再出発』


『春』


『会いたい』


『空』


『武道館』


『涙』


『始まり』


 そして、その横。


 大きく書かれた文字。


『2nd Album』


 その下には赤字で。


『進捗 ……微妙』


 誰が書いたかはすぐわかった。


「おーいはじめちゃん」


「なんだよ」


「進捗微妙って何よ」


「事実じゃん」


 はじめが開き直る。


「全然できねぇ」


「難しいんだよ今回は」


 美月がソファで寝転びながら言った。


「1st超えたいとか思い始めると急に出なくなる」


 ふたばも苦笑した。


 確かにそうだった。


 前はただ夢中だった。


 今は違う。


 武道館という目標がある。


 『この瞬間を忘れない』という代表曲もある。


 だからこそ、みんな考えすぎていた。


 れいじも珍しく黙っていた。


 ギターを抱えているのに、全然音を鳴らしていない。


「……」


「……れいじさん?」


「ん?」


「大丈夫ですか?」


「いや」


 少し考えて言った。


「難しいなって」


 一瞬静かになる。


 れいじがそう言うのは珍しかった。


「おお」


 はじめが笑う。


「天才も悩むんだ」


「うるさい」


「なんか安心した」


「殴るぞ」


 そんな時だった。


 事務所の扉が勢いよく開いた。


「お疲れ様です!」


 紬だった。


 しかも珍しくかなり慌てている。


「どうした?」


「電話です!」


「え?」


「AIDAの黒田さんから!」


 全員が顔を見合わせる。


 れいじが電話に出る。


「もしもし」


 数秒後。


「……は?」


 全員が反応する。


 れいじが驚いている。


 かなり珍しい。


「……わかった」


 電話を切る。


「何?」


 ふたばが聞く。


 れいじは少しだけ間を置いた。


「映画」


「……え?」


「主題歌のオファーだって」


 数秒静止。


「はぁぁぁ!?」


 最初に壊れたのは、はじめだった。


「映画!?」


「主題歌!?」


「え、映画!?」


「三回言った」


 美月が冷静に突っ込む。


 ふたばはまだ固まっていた。


「え……映画ってあの映画ですか?」


「他に何がある」


「えぇぇ……」


 紬まで少し興奮していた。


「すごい……」


 れいじは椅子へ座る。


「まだ決定じゃない」


「向こうが脚本送るから、それ読んで作ってほしいらしい」


「脚本?」


 ふたばが聞き返す。


「映像作品に合わせて曲作るってこと?」


「たぶん」


 れいじは少し考える。


「初めてだな」


 静かになる。


 れいじでも初めて。


 少しだけ緊張しているようにも見えた。


 美月が笑う。


「れいじ先生、宿題増えたね」


「うるさい」


「映画主題歌かぁ」


 はじめは天井を見る。


「なんかもうよくわかんなくなってきた」


「確かに」


 ふたばも苦笑する。


 一年前なら想像もしなかった。


 そして数日後。


 都内スタジオ。


 アルバム制作は相変わらず難航していた。


「違う」


「なんか違う」


「サビ弱い」


「いや強すぎる」


「逆に静かな方がいいかも」


「それさっきも言った」


 全員机に突っ伏していた。


 完全に煮詰まっていた。


 でも。


 一曲だけ。


 確実に形になっているものがあった。


 ふたばが作った曲。


 あの冬の帰り道から生まれた曲。


 黒田のキーボードも入り、完全に景色が変わっていた。


 透明感。


 静けさ。


 少しの切なさ。


 そして温かさ。


 全員で聴き終わる。


 静かになる。


「……いいな」


 はじめが言った。


「めっちゃいい」


「悔しいけどいい」


 美月も頷く。


「歌を邪魔してない」


「ちゃんと前出てる」


 れいじは黙っていた。


 そして少し笑った。


「タイトル」


「決めた?」


 ふたばが小さく頷いた。


「……はい」


 少し恥ずかしそうに言う。


「Now I Know」


 一瞬静かになる。


「今ならわかる」


 ふたばは続けた。


「前はわからなかったこととか」


「出会った意味とか」


「歌う意味とか」


「今になって少しわかってきたから」


 数秒沈黙。


「……ずるいな」


 美月が笑う。


「え?」


「タイトルまでいいじゃん」


「私も思った」


 紬も頷く。


 れいじは何も言わなかった。


 でも少しだけ笑っていた。


 その日の夕方。


 黒田と佐伯がスタジオへやってきた。


 完成した音源を聞く。


 曲が終わる。


 黒田がゆっくり頷いた。


「決まりだな」


「え?」


「これ」


「先行配信でいこう」


 ふたばが固まる。


「……え?」


「2ndアルバム最初の一曲」


「Now I Know」


「先に出そう」


 誰も反対しなかった。


 むしろ全員思っていた。


 これだ。


 たぶん。


 最初に届けるなら。


 この曲だ。


 れいじは小さく笑った。


「……スタートだな」


 窓の向こうでは、夕日が少しずつ街を赤く染めていた。


 止まりかけた時間の先で。


 また、新しい音が歩き始めていた。

第80話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は2ndアルバム制作の苦しさと、新しいスタートの回になりました。


1stアルバムの頃は、とにかく夢中で前へ進んでいました。


でも今は違います。


『この瞬間を忘れない』という大きな曲が生まれたこと。

武道館という目標ができたこと。


その分だけ、メンバー全員が自然と自分たちに高いハードルを作っていました。


そして、その空気の中で最初に完成したのが『Now I Know』。


今ならわかる。


その時は気づかなかったこと。

遠回りしたからこそ見えたもの。

出会った意味。


この曲は、今のふたば自身をかなり強く表している曲になった気がします。


そしてまさかの映画主題歌オファー。


れいじにとっても初めての挑戦になります。


FirstDayは少しずつ大きくなっていますが、その分だけ新しい壁も増えていきます。


次回からは、『Now I Know』先行配信編と映画主題歌制作編が動き始めます。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ