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第75話「夢を口にする日」

第75話です。


今回は、FirstDay初のテレビ歌番組出演。

そしてツアーファイナルの回になります。


『この瞬間を忘れない』が少しずつ広がり始め、ついにランキングでも結果が出始めたFirstDay。


そんな中で迎える、TOKYO STAGE ONEでのツアーファイナル。


そして今回、彼らは初めて“夢”を言葉にします。

ツアーファイナルまで、あと三日。


 FirstDayは都内のスタジオでリハーサルをしていた。


 今までで一番長いツアー。


 事故による中断もあった。


 それでも、ここまで走り切ろうとしている。


「テレビってなんであんな緊張するんだろうな」


 ドラムスティックを回しながら、はじめが言った。


「ライブより変な汗かいた」


「カメラ多すぎるんだよ」


 美月もベースを抱えたまま笑う。


 数日前。


 FirstDayは深夜音楽番組『MIDNIGHT BEAT』へ出演していた。


 メジャーデビュー後、初の歌番組。


 CMタイアップと『この瞬間を忘れない』のヒットを受けて、“急上昇中のロックバンド”として呼ばれたのだ。


 生放送ではなかった。


 でも、ライブとは全く違う空気だった。


 大量のカメラ。


 照明。


 静まり返るスタジオ。


 観客よりも、“全国へ流れる”という感覚の方が怖かった。


 特にふたばは、本番前に完全に固まっていた。


「無理です……」


「また始まった」


 美月が笑う。


「だってカメラ七台ありましたよ!?」


「数えてたのかよ」


 れいじはギターを調整しながら、小さく笑った。


「でも良かった」


「……え?」


「歌」


 その一言だけで、ふたばの顔が熱くなる。


 放送後。


 SNSの反応は想像以上だった。


『この瞬間を忘れない』は一気に拡散。


 配信ランキングも急上昇。


 そして昨日。


 紬が事務所へ飛び込んできた。


「入りました!!」


「何が?」


「シングルランキング!」


 全員が振り返る。


 紬は息を切らしながらタブレットを掲げた。


「週間ランキング九位です!」


 一瞬、空気が止まる。


「……マジ?」


 美月が立ち上がる。


「マジです!」


 はじめが叫ぶ。


「うおおおお!!」


 ふたばはまだ現実感がなかった。


 ランキング。


 トップ10。


 テレビで見ていた世界。


 そこに、自分たちの曲がある。


 れいじは静かにタブレットを見ていた。


『この瞬間を忘れない』


 病室で生まれた曲。


 あの日、片手で作った曲。


 それが今、こんな場所まで来ている。


「……すげぇな」


 小さく呟く。


 その声は、少しだけ震えていた。


 そして迎えたツアーファイナル当日。


 会場は『TOKYO STAGE ONE』。


 東京でも有名な大型ライブハウス。


 キャパは千人。


 FirstDay史上、最大規模だった。


 開場前。


 入口には長蛇の列。


 グッズ列も伸びている。


 ふたばは楽屋モニターを見ながら息を飲んだ。


「……やばい」


「満員だな」


 れいじも静かに呟く。


 以前の自分たちなら考えられなかった景色。


 でも今、その光景が目の前にある。


 紬が楽屋へ入ってきた。


「ソールドアウトです」


 その一言で、空気が変わる。


 はじめが笑った。


「マジで来たな」


 美月も少しだけ表情が変わる。


「……すご」


 ふたばは胸が熱くなっていた。


 ライブハウスで偶然れいじを見た日。


 あの頃、自分がこんな場所へ立つなんて想像もしていなかった。


「行くぞ」


 れいじが立ち上がる。


 ステージ袖。


 歓声が壁を震わせていた。


 照明が落ちる。


 SE。


 客席が叫ぶ。


 四人がステージへ出た瞬間、空気が爆発した。


「うおおおおお!!」


 千人の熱。


 光。


 歓声。


 ふたばは一瞬、息を止めた。


 広い。


 でも、不思議と怖くなかった。


 一曲目。


『スタート』


 ドラムが鳴る。


 ギターが走る。


 ベースが響く。


 ふたばの声が会場を抜ける。


 最初から熱量が違った。


 客席が歌う。


 飛ぶ。


 拳を上げる。


 TOKYO STAGE ONE全体が揺れている。


 はじめは完全にテンションが振り切れていた。


「東京ー!! 行けるかぁぁ!!」


 歓声。


 美月も笑いながらベースを弾く。


 れいじはギターを鳴らしながら、客席を見ていた。


 事故のあと。


 本当に終わると思った。


 でも今、ここにいる。


 二曲目。


『青春』


 三曲目。


『予感』


 ライブは最初から全開だった。


 中盤。


『この瞬間を忘れない』


 イントロが流れた瞬間、歓声が上がる。


 そして。


 客席が歌う。


 千人の声。


 れいじは思わず笑ってしまった。


「……すげぇな」


 ふたばも歌いながら胸が熱くなる。


 この曲は、自分たちを救った曲だった。


 それが今、誰かの歌になっている。


 曲が終わる。


 大きな拍手。


 歓声。


 照明の中、れいじは静かに前へ出た。


「……正直」


 会場が静かになる。


「ここまで来れると思ってなかった」


 誰も喋らない。


「事故もあったし、止まりそうになったこともあった」


 ふたばは後ろかられいじを見る。


 いつもより少しだけ、真っ直ぐ前を見ていた。


「でも」


 れいじは客席を見渡す。


「今日、この景色見て思った」


 少し間。


「俺たちは、もっと上を目指す」


 歓声。


「もっとデカい場所で、もっとたくさんの人に音届けたい」


 空気が熱を帯びる。


 れいじは静かに言った。


「武道館に立ちたいです」


 一瞬。


 それから会場が揺れるほどの歓声が起こった。


 誰も笑わない。


 無理だとも言わない。


 今のFirstDayなら。


 そんな空気が、確かにそこにあった。


 ふたばは胸が熱くなっていた。


 夢を口にした。


 初めて、本気で。


 ライブ終盤。


『今日が吉日』


 客席が大合唱する。


 光が揺れる。


 千人の声。


 汗。


 熱。


 全部が混ざり合っていた。


 最後の音が鳴り終わる。


 拍手が止まらない。


 四人は息を切らしながら顔を見合わせた。


 はじめが笑う。


「やっば」


「過去一だね」


 美月も笑う。


 ふたばは涙を堪えていた。


 れいじは静かに客席を見ている。


 その目は、もう次を見ていた。


 深夜。


 DAYBREAK RECORDS。


 ライブ後なのに、全員まだ興奮が抜けていなかった。


 机の上には飲みかけの缶。


 ホワイトボードにはツアースケジュール。


 その横。


 新しい文字が書かれる。


『2nd Album』


 れいじはペンを置いた。


「……次、超えるぞ」


 誰も否定しなかった。


 TOKYO STAGE ONEの熱は、まだ身体の中に残っている。


 そしてその先には、もっと大きな景色が見え始めていた。

第75話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、FirstDayが“次のステージ”へ進んだ回でした。


テレビ出演。

ランキングTOP10入り。

そして1000人キャパのツアーファイナル。


少し前までライブハウスで必死に音を鳴らしていた彼らが、ここまで来たことを改めて感じる回だったと思います。


また、『この瞬間を忘れない』という曲も、完全にFirstDayの代表曲になり始めています。


病室で生まれた曲が、客席の大合唱になる。

これはれいじにとっても、かなり特別な瞬間だったはずです。


そして今回一番大きかったのは、武道館という言葉を初めて本気で口にしたこと。


今までは漠然とした夢だったものが、“目標”へ変わりました。


もちろん、まだ簡単に届く場所ではありません。

でも、今のFirstDayなら、もしかしたら。


そんな空気が少しずつ生まれ始めています。


そしてラスト。

次なる挑戦は2nd Album。


FirstDayは、まだまだ止まりません。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

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