表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/88

第74話「テレビの中の歌」

第74話です。


今回は、AQUA BEATのCM撮影回になります。


ツアーの合間。

初めての本格的な撮影現場。

大量のスタッフとカメラ。


そして、ふたば人生最大級の緊張。


ライブとはまた違う“プロの世界”に飛び込む回になっています。

ツアーは続いていた。


 名古屋、大阪、福岡。


 移動して、ライブして、また移動する。


 忙しい日々。


 でも、不思議と疲れより充実感の方が強かった。


『この瞬間を忘れない』の反応も少しずつ広がっている。


 ライブで歌ってくれる人も増えている。


 SNSでは動画が回り続けている。


 そして今日は、その流れの中でも特別な日だった。


 AQUA BEATのCM撮影。


 朝。


 都内のスタジオ前。


 ふたばは車を降りた瞬間から顔が真っ青だった。


「……無理です」


「まだ何も始まってないから」


 れいじが呆れながら言う。


「だって人多いですもん!」


 入口の時点でスタッフが何人もいる。


 機材。


 照明。


 カメラ。


 忙しそうに動く人たち。


 完全に別世界だった。


 はじめはキョロキョロしている。


「すげぇなぁ……」


「お前、修学旅行の中学生みたい」


 美月が笑う。


 紬はすでに仕事モードだった。


「今日はかなり押してるみたいなので、進行確認してきます」


「お願いします……」


 ふたばの声に覇気がない。


 スタジオへ入る。


 セットは学校のグラウンドをイメージした空間だった。


 人工芝。


 青空の背景。


 汗を流しながら走る学生役のエキストラたち。


 そこへ『この瞬間を忘れない』が流れる。


 そんなCMになるらしい。


「ふたばさんですよね?」


 女性スタッフが近づいてくる。


「は、はい!」


「こちらメイク入ります」


「……メイク」


 ふたばは完全に固まっていた。


 美月が肩を叩く。


「頑張れ芸能人」


「やめてください……」


 メイクルーム。


 鏡の前。


 ライト。


 大量の化粧道具。


 ふたばは落ち着かなかった。


「緊張します?」


 メイクスタッフが優しく聞く。


「めちゃくちゃします……」


「大丈夫ですよ。みんな最初はそうですから」


 少し笑う。


 でも、手はまだ冷たい。


 そこへ監督が入ってきた。


 三十代後半くらいの穏やかな男性。


「おはようございます」


「お、おはようございます!」


「そんな緊張しなくて大丈夫ですよ」


 監督は柔らかく笑った。


「自然な感じが欲しいので」


「自然……」


「むしろ今の緊張してる感じも、今しか撮れないので」


 その言葉で、少しだけ肩の力が抜けた。


 撮影準備が進む。


 AQUA BEATの関係者も次々スタジオへ来ていた。


 スーツ姿の大人たち。


 ふたばはまた緊張し始める。


 でも。


「本当にいい曲ですよね」


 一人の女性スタッフが言った。


「撮影中ずっと聴いてるんですけど、全然飽きないです」


「……ありがとうございます」


「ふたばさんの声もすごく透明感ありますよね」


 別のスタッフも続く。


「CMに絶対合うと思いました」


 ふたばは少し戸惑う。


 こんな風に、自分の声を褒められることにまだ慣れていない。


 れいじは少し離れた場所で、その様子を静かに見ていた。


「愛されてるな」


 美月が横で言う。


「まぁ、声は強いからな」


 れいじは短く答える。


 撮影開始。


 最初のシーンは、ふたばが校庭を歩く場面だった。


「はい、スタート!」


 カメラが回る。


 ふたば歩く。


 ……ぎこちない。


「カット!」


 監督が笑う。


「大丈夫です! 今の初々しくて良かったです!」


「すみません……!」


 ふたばは完全に小さくなっていた。


 休憩中。


「無理です……」


 ソファへ沈む。


「ライブより人少ないから」


 れいじが言った。


「そういう問題じゃないです!」


「でも、歌ってる時の方が怖いだろ」


「……」


 確かに。


 ライブは失敗できない。


 何百人もの前で歌う。


 そう考えると、少しだけ気持ちが落ち着いた。


「まぁ、いつも通りでいいんじゃない」


 れいじはそれだけ言った。


 その言葉が、妙に安心できた。


 撮影は続く。


 走る。


 笑う。


 飲み物を飲む。


 学生エキストラたちと自然に会話する。


 少しずつ、ふたばの表情も柔らかくなっていった。


 すると途中で、監督が急に言った。


「あの、もしよかったら」


「はい?」


「バンドメンバーのみなさんも、エキストラで出ません?」


 一瞬、空気が止まる。


「えっ」


「青春感ほしいんですよね」


 監督は楽しそうだった。


「ライブハウス帰りの若者グループみたいな感じで」


 れいじが少し嫌そうな顔をする。


「いや俺は……」


 監督がニコッと笑った。


「ふたばさんには“頑張れ”って言ってましたよね?」


 美月が吹き出した。


「詰んだね」


「断れねぇじゃん」


 はじめはノリノリだった。


「出る出る!」


「お前絶対好きだろこういうの」


「楽しそうじゃん!」


 結局、三人も出演することになった。


 撮影。


 笑いながら歩くシーン。


 ジュースを飲むシーン。


 遠景なので顔はそこまで映らない。


 でも、現場はかなり盛り上がっていた。


「はいオッケー!」


 監督の声。


 拍手が起きる。


 長かった撮影が終わった。


 ふたばはその場に座り込む。


「終わったぁ……」


「お疲れ芸能人」


「やめてください……」


 でも、少しだけ達成感があった。


 その後もツアーは続いた。


 ライブ。


 移動。


 打ち合わせ。


 忙しい毎日。


 でも、その中で少しずつ変化を感じる。


 街で曲が流れている。


 SNSのフォロワーが増える。


 ライブ会場が埋まる速度が早くなる。


 そして。


 ある日の夜。


 遠征先のホテル。


 ライブ終わりで全員かなり疲れていた。


 はじめはベッドへダイブ。


「疲れたぁ……」


 美月はコンビニ袋を机へ置く。


 ふたばは水を飲みながらソファへ座った。


 そこへ、紬がテレビを見ながら言った。


「……あ、今日からCM流れるみたいです」


「えっ?」


 全員テレビを見る。


 ちょうど番組がCMへ切り替わった。


 数秒後。


 青空。


 グラウンド。


 走る学生たち。


 そして。


『この瞬間を忘れない』


 イントロが流れた瞬間。


 全員止まった。


「うわっ!!」


 はじめが叫ぶ。


 ふたばは目を見開いている。


 テレビの中で、自分の声が流れている。


 CMの中で。


 全国へ。


 ふたばが映る。


 笑っている。


 走っている。


 少し照れくさそうに飲み物を飲む。


「ふたばいいじゃん!」


 はじめのテンションが爆上がりしていた。


「めっちゃCMっぽい!」


「つーかCMだから」


 美月が笑う。


「てか私いた?」


「俺もわからんかった」


 三人のエキストラ出演は、一瞬すぎて判別不能だった。


 でも。


 そんなことどうでもよかった。


『この瞬間を忘れない』


 その曲が、テレビから流れている。


 ライブハウスから始まった曲が。


 病室で生まれた曲が。


 今、全国へ流れている。


 CMが終わる。


 部屋が少し静かになる。


 ふたばはまだテレビを見ていた。


「……ほんとに流れた」


 小さく呟く。


 れいじはソファにもたれながら答えた。


「よかったな」


 紬が静かに笑った。


「ここからですね」


 窓の外。


 遠征先の夜景が広がっている。


 FirstDayの音は、もうライブハウスの中だけではなくなった。

第74話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、CM撮影と“テレビから自分たちの曲が流れる瞬間”を描いた回でした。


ふたばにとって、撮影現場は完全に未知の世界でした。


ライブとは違う緊張感。

大量のスタッフ。

カメラと照明。


でも、周囲のスタッフたちが『この瞬間を忘れない』という曲をちゃんと好きでいてくれたことが、少しずつふたばの支えになっていた気がします。


また、れいじの「ライブより人少ない」という言葉も、かなり彼らしい励まし方でした。


そして後半。


テレビから流れる『この瞬間を忘れない』。


病室で生まれた曲が、全国へ流れていく。

それはFirstDayにとって、とても大きな瞬間だったと思います。


三人のエキストラ出演は、ほぼ見切れていましたが、それも彼ららしいかなと。


ここからFirstDayは、さらに少しずつ世界を広げていきます。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ