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第70話「帰る場所」

第70話です。


ついに、FirstDay復帰後初ライブ。


場所は、彼らの始まりの場所でもあるライブハウス『RE:LIGHT』(今まで名前つけてなかったのですがつけました れいじのビルの地下のライブハウス名です。)

事故を乗り越え、再び四人の音が鳴ります。


不安も痛みもまだ残ったまま。

それでもステージに立つ意味を、今のFirstDayは知っています。


今回は、事故編を越えた“再出発”のライブ回です。

ライブハウス『RE:LIGHT』。


 地下へ続く階段の前には、開場前から長い列ができていた。


「……すご」


 ふたばは思わず声を漏らす。


 階段の上まで人が並んでいる。


 事故前より、明らかに人が増えていた。


 アルバムを聴いて来た人。


 SNSを見て来た人。


 ふたばの弾き語りから興味を持った人。


 そして、復帰を待っていた人。


 いろんな想いが、この場所に集まっていた。


 ライブハウスの入口には『SOLD OUT』の文字。


 店長が腕を組みながら笑う。


「満員だな」


「……怖くなってきた」


 ふたばが小さく呟く。


「今さら?」


 美月が笑う。


「でもわかる」


 はじめも深く息を吐いた。


「久しぶりすぎて変な感じだ」


 楽屋の空気には、独特の緊張感があった。


 事故前とは違う。


 単純なライブ前の緊張じゃない。


 本当に戻れるのか。


 また四人で鳴らせるのか。


 全員、その不安を少し抱えていた。


 れいじは椅子に座り、静かに右手を開閉している。


 まだ完全ではない。


 長時間弾くと痺れる。


 細かい動きも以前ほど鋭くない。


 でも、今日は弾く。


 ここから、また始める。


 紬が楽屋に入ってきた。


「そろそろです」


 その声で空気が変わる。


「……行くか」


 れいじが立ち上がった。


 ステージ袖。


 客席の熱気が伝わってくる。


 ざわめき。


 期待。


 待っていた空気。


 ふたばはマイクを握る手に力が入る。


「大丈夫?」


 隣でれいじが聞いた。


「……たぶん」


「俺も」


 二人で少し笑う。


 照明が落ちる。


 歓声が上がる。


 その瞬間、胸の奥が熱くなった。


 戻ってきた。


 ステージに。


 SEが流れる。


 四人がステージへ出ると、客席から大きな拍手が起こった。


 れいじはその景色を見て、一瞬だけ息を止める。


 こんなにも待ってくれていた。


 事故で止まったはずなのに。


 それでも、ここに人がいる。


「FirstDayです」


 れいじが短く言った。


「……ただいま」


 歓声が一気に大きくなる。


 一曲目。


『スタート』


 演奏が始まる。


 最初は硬かった。


 はじめのリズムも少し重い。


 美月も探るように弾いている。


 ふたばの声も少し緊張していた。


 そして、れいじ。


 右手に意識が行く。


 ちゃんと弾けているか。


 ズレてないか。


 痛みは。


 不安が消えない。


 でも、客席はそんなこと関係ないみたいに手を上げていた。


 二曲目。


『はじまりの季節』


 少しずつ空気がほぐれ始める。


 ふたばの声が自然に伸びる。


 美月が横を見ながら笑う。


 はじめも身体全体でリズムを叩き始める。


 れいじはギターを鳴らしながら、少しずつ思い出していた。


 ライブの感覚。


 客の熱。


 四人で音を作る感覚。


 三曲目。


『青春』


 ここで一気に変わった。


 はじめがドラムで強く煽る。


「行くぞー!!」


 客席が跳ねる。


 美月のベースが暴れる。


 れいじがギターで応える。


 ふたばも笑っていた。


 いつの間にか、不安より楽しいが勝っていた。


 グルーブが生まれる。


 四人の音が噛み合い始める。


 その瞬間、全員わかった。


 戻ってきた。


 いや。


 前より強くなっている。


 中盤。


 れいじがマイクを持った。


「……正直、戻れるかわかんなかった」


 客席が静かになる。


「でも、待っててくれてありがと」


 シンプルな言葉だった。


 でも、それだけで十分だった。


 そして。


「次、新曲やります」


 空気が変わる。


『この瞬間を忘れない』


 静かなイントロ。


 客席が息を飲む。


 ふたばが歌い始める。


 止まった夜。


 消えそうだった音。


 それでも残った声。


 歌詞が、今のFirstDayそのものだった。


 れいじはギターを弾きながら、ふたばの声を聴く。


 病室で生まれた曲。


 絶望の中で作った曲。


 それが今、目の前で鳴っている。


 右手はまだ完璧じゃない。


 でも、そんなことどうでもよくなるくらい、今が愛しかった。


 曲が終わる。


 一瞬静まり返って、それから大きな拍手が広がった。


 中には泣いている客もいた。


 紬はPA横で目を押さえている。


「やば……」


 高木が小さく呟く。


「これ、絶対来ますよ」


 森も静かに頷いていた。


 ラスト。


『今日が吉日』


 イントロだけで歓声が上がる。


 客席が歌う。


 手が揺れる。


 RE:LIGHT全体が一つになっていた。


 ふたばは歌いながら思う。


 怖かった。


 終わると思った。


 でも。


 まだ続いている。


 ちゃんと、ここにいる。


 最後の音が鳴り終わる。


 歓声が止まらない。


 れいじは息を切らしながら笑った。


「……やべぇ」


 美月も笑う。


「過去一じゃん」


「だな」


 はじめはドラム席で両手を上げていた。


 ふたばは胸がいっぱいで、何も言えなかった。


 ライブ後。


 打ち上げはRE:LIGHTの近くの居酒屋で行われた。


 店長、紬、森、高木、彩乃、奈緒。


 関わった全員が集まっている。


 酒も入って、空気はかなり明るかった。


「いやー、生き返ったわ!」


 はじめが笑う。


「うるさい」


「今日ぐらいいいだろ!」


 美月はすでに酔っていた。


「れいじー!」


 肩を組む。


「お前ほんと心配かけすぎなんだよ!」


「近い近い」


「バカ!」


 れいじは苦笑していた。


 でも、嫌そうではなかった。


 彩乃は少し泣いている。


「ほんとによかったぁ……」


「彩乃ちゃん泣きすぎ」


 奈緒も目元を押さえていた。


 紬は静かにグラスを持ちながら笑っている。


 その空気を見回して、れいじは少し黙った。


「……みんな」


 珍しく、自分から声を上げる。


 自然と静かになった。


「事故ってからさ」


 れいじは少し笑う。


「正直、一回終わったと思った」


 誰も言葉を挟まない。


「でも、今日ここまで戻れたの、俺一人じゃ無理だった」


 紬が少し俯く。


 美月も静かになる。


「メンバーも、スタッフも、待っててくれたお客さんも」


 れいじはゆっくり言った。


「……ありがとな」


 その一言で、空気が少し揺れた。


 彩乃がまた泣く。


「お兄ちゃんがちゃんと喋ってる……」


「そこ?」


 笑いが起きる。


 でも、みんな少し目が赤かった。


 ふたばは、その光景を静かに見ていた。


 れいじが笑っている。


 みんなが笑っている。


 それが嬉しかった。


 でも同時に、気づいてしまう。


 自分はやっぱり、この人を目で追ってしまう。


 ライブ中も。


 今も。


 自然と見てしまう。


 れいじがふとこちらを見る。


 目が合う。


 一瞬だけ。


 ふたばの心臓が跳ねた。


「……どうした?」


「い、いや」


 慌てて目を逸らす。


 美月がその様子を見て、ニヤッと笑った。


「へぇー」


「な、なに」


「別にー?」


 絶対わかってる顔だった。


 ふたばは顔が熱くなる。


 でも、不思議と嫌じゃなかった。


 RE:LIGHTの夜は更けていく。


 止まりかけた音は、もう前を向いていた。

第70話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、FirstDay復帰ライブの回でした。


事故前のように完璧ではありません。

れいじの右手もまだ完全ではなく、最初は全員どこか硬さがありました。


でも、演奏していく中で少しずつ戻ってくる感覚。

四人の音が重なっていく瞬間。

そして客席との一体感。


事故を経験したからこそ、以前より強くなれた部分もあったのかもしれません。


また、『この瞬間を忘れない』は、今のFirstDayそのものを表す曲になりました。


そして後半の打ち上げ。

感謝を言葉にしたれいじ。

それを支えてきたメンバーとスタッフ。


事故編を通して、FirstDayは“バンド”から“チーム”へ変わっていった気がします。


そして最後、ふたばの視線。

止まっていた恋愛の感情も、少しずつまた動き始めています。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

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