第7話「揺れる距離」
第7話です。
初ライブを終えた四人の打ち上げ。
少し気が緩んだ時間の中で、それぞれの距離が少しずつ変わっていきます。
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
初ライブの打ち上げは、ライブハウス近くの小さな居酒屋で行われた。
「かんぱーい!」
はじめの声で、グラスがぶつかる。
まだどこか現実感がない。
でも――
確かに、自分たちはライブをやりきった。
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「いやー、よかったよ今日!」
はじめはすでに上機嫌だ。
「ふたば、めっちゃ良かったじゃん!」
「ほ、ほんとですか……?」
「ほんとほんと!」
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「……まあ、悪くなかった」
れいじがぼそっと言う。
「え、それ褒めてます?」
「褒めてる」
短い一言。
それだけで、胸がじんわり熱くなる。
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「ちょっと、なにそれ」
横から声がした。
「もっとちゃんと褒めなよ」
美月だった。
すでに少し顔が赤い。
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「お前、飲みすぎ」
れいじが言う。
「いいじゃん別に」
美月はそう言って、グラスを軽く揺らす。
氷がカランと音を立てた。
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「ねえ、れいじ」
ふいに、距離が近づく。
「……何」
「今日さ、よかったじゃん」
「……そうか」
「そうか、じゃないでしょ」
くすっと笑う。
その笑い方が、いつもと少し違う。
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ふたばは、思わずその様子を見てしまう。
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「ちゃんと褒められるじゃん」
美月は、れいじの肩に軽く手を乗せた。
「……やめろ」
「なに、照れてんの?」
「照れてない」
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やり取りは軽い。
でも――
距離が近い。
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近すぎる。
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ふたばの胸の奥が、少しだけざわつく。
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「ほら、もう一杯いこ」
美月がグラスを差し出す。
「いらない」
「つまんないなー」
そう言いながらも、どこか楽しそうだった。
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れいじも、いつもほど突き放さない。
適当に受け流しながら、会話が続いている。
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(……なんで)
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楽しいはずの打ち上げ。
さっきまで、あんなに嬉しかったのに。
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気づけば、視線がそっちに向いてしまう。
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「ふたば?」
はじめが顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「え、あ……はい」
慌てて笑う。
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「疲れた?」
「ちょっとだけ」
「そりゃそうだよなー」
はじめは気にした様子もなく笑った。
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でも。
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ふたばの中では、何かが引っかかっていた。
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「……ねえ」
美月の声。
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「れいじってさ」
少しだけ、甘くなる声。
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「昔からそんな感じなの?」
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「……何が」
「全部」
くすっと笑う。
「無愛想で、でもちゃんと見てるとことか」
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「……別に」
「ふーん」
美月はじっとれいじを見る。
その視線が、どこか熱を帯びている気がした。
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ふたばは、胸が少し苦しくなる。
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(……なんで)
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言葉にできない。
でも。
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はっきりしていることが一つあった。
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さっきまでの“楽しい”とは違う感情。
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それが、胸の奥に広がっていく。
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「……もう一杯いこ」
美月が笑う。
その笑顔は、いつもより少しだけ無防備だった。
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その隣で、れいじは変わらない顔をしている。
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でも。
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その距離は、確かに近かった。
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ふたばはグラスを持つ手に、少しだけ力を込める。
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楽しいはずの夜。
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でも。
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心のどこかが、ざわついていた。
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それが何なのか。
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まだ、はっきりとはわからない。
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ただ一つ。
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確かに、何かが変わり始めていた。
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音だけじゃない、もう一つの物語が動き出していた。
第7話を読んでいただき、ありがとうございます。
楽しいはずの時間の中で、ふたばの心に小さな変化が生まれました。
音楽だけではない、それぞれの想いが少しずつ動き出していきます。
ここからはバンドとともに、恋愛面でも物語が広がっていきますので、ぜひ引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
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引き続きよろしくお願いします。




