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第67話「終わりが怖い」

第67話です。


今回は、美月の過去に触れる回になります。


普段は強気でロックな彼女ですが、

事故のあと、誰よりも不安定になっていました。


なぜ美月はここまで“終わり”を恐れているのか。

そして、なぜFirstDayという場所を大切に思っているのか。


過去と現在が繋がる回になっています。

夜十一時過ぎ。


 三階のリビングには、缶ビールの空き缶が二本転がっていた。


 テレビはついているが、音は出ていない。


 美月はソファにだらしなく座り、三本目を開けようとしていた。


「また飲んでる」


 後ろから声がした。


「……うわ」


 振り返る。


 彩乃だった。


「なんでいるの」


「お母さんが差し入れ持ってけって」


 コンビニ袋をテーブルに置く。


「あと様子見」


「監視じゃん」


「半分正解」


 彩乃は慣れた様子で隣に座った。


 少し沈黙。


 美月は缶を開ける。


「飲む?」


「未成年です」


「真面目か」


「お兄ちゃんほどじゃない」


 少しだけ笑う。


 でも、空気はすぐ静かになった。


 彩乃は横目で美月を見る。


「……怖いんでしょ?」


 美月の手が止まる。


「何が」


「終わるの」


 その一言で、誤魔化せなくなった。


 美月は缶を見つめたまま、しばらく黙る。


「……別に」


「その顔で?」


「うるさいなぁ」


 美月は小さく息を吐いた。


「昔さ」


 ぽつりと話し始める。


「バンドやってたんだよね」


「え、そうなんだ」


「女四人組」


 彩乃は黙って聞く。


「LUNA DROPって名前」


 その名前を口にした瞬間、昔の空気が蘇った。


 高校卒業後。


 専門学校に通いながら組んだガールズバンド。


 ボーカルの愛菜はうるさいくらい明るくて。


 ドラムの里穂はクールで。


 ギターの沙耶は、静かだけどよく笑う子だった。


 美月は自然と笑っていた。


「めちゃくちゃ楽しかったな」


 小さいライブハウス。


 帰り道のファミレス。


 スタジオ終わりのコンビニ。


 毎日音楽ばっかだった。


「客も増えてきてさ。ちょっとだけ、“これいけるんじゃね?”みたいになってた」


「へぇ」


「若かったからね」


 でも、と美月は続ける。


「終わる時って、一瞬なんだよ」


 彩乃の表情が少し変わる。


「ライブ帰りに、ギターの沙耶が事故って」


 静かな声だった。


「右手、やっちゃった」


 彩乃は何も言わない。


「命は助かった。でもギターは無理かもしれないって」


 美月は缶を軽く握る。


「最初さ、“待とう”って言ってたんだよ」


 でも現実はそんな綺麗じゃなかった。


 練習は減る。


 連絡も減る。


 熱量が少しずつ落ちていく。


 誰かが悪いわけじゃない。


 でも、戻れなくなる。


「最後、自然消滅みたいに終わった」


 その時のスタジオの空気を、美月はまだ覚えている。


 誰も目を合わせない。


 無理に笑う。


 もう続かないって、みんなわかってた。


「沙耶がさ」


 美月は少し俯いた。


『ごめんね』


 病室でそう言った。


『みんな、これからだったのに』


 泣かなかった。


 だから余計につらかった。


「……それから、音楽やめた」


 彩乃は静かに聞いている。


「ベースも触んなくなって。ライブハウスも行かなくなって」


「でも戻ったんでしょ?」


「……れいじのせい」


 少しだけ笑う。


 たまたま入ったライブハウス。


 そこでれいじがギターを弾いていた。


 別に派手じゃない。


 客もそこまで多くない。


 でも。


「めちゃくちゃ楽しそうだった」


 音楽を。


 心から。


「それ見て、ムカついたんだよね」


「なんで?」


「私は終わったと思ってたのに、こいつ全然終わってねぇじゃんって」


 彩乃が少し笑う。


「お兄ちゃんっぽい」


「でしょ?」


 ライブ後。


『ベース弾ける?』


 突然そう聞かれた。


『弾けるなら弾け』


 本当に軽かった。


 過去も事情も聞かない。


 でも、それが救いだった。


「また音楽やってみようかなって思った」


 美月は天井を見る。


「だから怖いんだと思う」


 声が少し小さくなる。


「また同じになる気がして」


 事故。


 ギター。


 止まったバンド。


 嫌でも重なる。


「お兄ちゃんは沙耶さんじゃないよ」


 彩乃が言った。


「わかってる」


「FirstDayもLUNA DROPじゃない」


「……」


「まだ終わってないじゃん」


 その言葉に、美月は少し黙る。


 確かに違う。


 ふたばは歌った。


 はじめも止まっていない。


 紬も必死に動いている。


 自然消滅しようとしていたあの頃とは、まだ違う。


「……ふたばのライブ、見た?」


「動画だけ」


「下手だった」


「知ってる」


 二人で少し笑う。


「でも、よかった」


 彩乃は頷く。


「お兄ちゃん、あれ聞いたら絶対嬉しいと思う」


 美月は缶を置いた。


「……ちょっと病院行ってくる」


「お、珍しい」


「うるさいなぁ」


 夜の病院は静かだった。


 ノックをして入る。


 れいじは窓の外を見ていた。


「……美月か」


「悪い?」


「別に」


 美月は椅子に座る。


 しばらく沈黙。


「ふたば、ライブやったって」


「らしいな」


「下手だった」


「だろうな」


 少し笑う。


 でも、そのあとまた静かになる。


 美月は右腕を見る。


 包帯。


 固定具。


 どうしても沙耶を思い出す。


「……ねぇ」


「ん?」


「戻るよね」


 その言葉は、れいじに向けたものでもあり、自分への確認でもあった。


 れいじは少し黙ったあと、静かに言った。


「戻したい」


 その一言に、美月は少しだけ安心する。


 まだ諦めてない。


 終わってない。


「今回さ」


 美月は小さく笑った。


「勝手に終わらせないから」


 れいじが少しだけ目を細める。


「……お前、酔ってる?」


「ちょっとだけ」


「酒くせぇ」


「うるさい」


 でも、その空気は少しだけ前を向いていた。


 病院を出たあと、美月は夜空を見上げる。


 終わりが怖い。


 それは今も変わらない。


 でも。


 今回はまだ、音が残っている気がした。

第67話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は美月の過去編でした。


LUNA DROPというバンド。

仲間との時間。

未来を信じていた日々。


そして、事故によって突然止まってしまった音楽。


今のれいじの状況が、美月にとってどれほど過去を思い出させるものだったのかを描きました。


また、今回は彩乃との会話を通して、美月が少しずつ“今”を見るようになっています。


前回と違うこと。

まだ誰も諦めていないこと。

音がまだ消えていないこと。


それに気づき始めたことが、今回一番大きな変化だったのかもしれません。


そして最後の「勝手に終わらせないから」という言葉。

それは、れいじに向けた言葉であり、美月自身への言葉でもあります。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

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