第61話「今のFirstDay」
第61話です。
ついに、神崎翼率いるBLACK NOVAとの対バン当日。
れいじの過去を知る相手であり、今のFirstDayにとっても大きな勝負の舞台です。
ここまで積み重ねてきたものを、どこまで見せられるのか。
“今のFirstDay”をぶつけるライブ回です。
ライブハウスの楽屋には、いつもとは違う緊張感があった。
今日の対バン相手は、神崎翼率いるBLACK NOVA。
かつて、れいじの過去を無遠慮にえぐった男。
そして、AIDAレコードからデビューした実力派バンド。
「……来たな」
はじめがスティックを回しながら言う。
「変に力入れすぎないでよ」と美月。
「わかってるって」
そう言いながらも、はじめの目は少しだけ熱い。
ふたばはマイクを握る手を軽く開いて、もう一度閉じた。
怖さはある。
でも、以前とは違う。
あの頃のFirstDayではない。
アルバムを作った。
デビュー曲も配信された。
何度もライブを重ねてきた。
ちゃんと、前に進んできた。
楽屋のドアが軽く叩かれる。
「久しぶりだな」
神崎翼だった。
黒いジャケットに、余裕のある笑み。
その後ろにはBLACK NOVAのメンバーがいる。
「元気そうじゃん、れいじ」
「そっちもな」
れいじは淡々と返す。
翼はふたばたちを見る。
「FirstDay、最近名前聞くようになったな」
「ありがとよ」とはじめ。
「褒めてるよ」
翼は軽く笑う。
「今日は楽しみにしてる」
「こっちも」
美月がまっすぐ返す。
少しだけ空気が張る。
翼は最後にれいじを見る。
「前とは違うんだろ?」
「ああ」
れいじは短く答えた。
「見ればわかる」
翼は一瞬だけ目を細め、それから笑った。
「いいね」
そう言って去っていく。
楽屋に静けさが戻った。
「……なんか、感じ変わったな」とはじめ。
「嫌な感じだけじゃないね」と美月。
れいじはギターを手に取る。
「俺たちは俺たちの音楽をやるだけだ」
ふたばは小さく頷いた。
その言葉が、今は頼もしい。
開演。
会場はすでに熱を帯びていた。
BLACK NOVA目当ての客も多い。
それでも、前の方にはFirstDayの名前が入ったタオルを持つ客もいた。
紬が袖で小さく親指を立てる。
彩乃も後ろの方で見ている。
奈緒の姿もあった。
ふたばは深く息を吸う。
照明が落ちる。
「FirstDay!」
名前が呼ばれた。
ステージに立つ。
歓声。
前より大きい。
確かに、自分たちを待っている人がいる。
一曲目。
『スタート』
れいじのギターが鋭く鳴る。
はじめのドラムが一気に走り出し、美月のベースが太く支える。
ふたばは迷わず声を出した。
最初から空気を掴みにいく曲。
アルバムの一曲目でもあるこの曲は、今のFirstDayそのものだった。
客席の反応がすぐ返ってくる。
手が上がる。
身体が揺れる。
ふたばはそれを見て、さらに前へ出る。
怖くない。
音が後ろから押してくれる。
二曲目。
『素直な気持ち』
はじめが作った曲に、ふたばが言葉を乗せた一曲。
跳ねるリズム。
少し不器用で、でも真っ直ぐな曲。
はじめのドラムがいつも以上に楽しそうだった。
美月のベースが遊ぶように絡み、れいじのギターが隙間を埋める。
ふたばはリズムに乗った。
以前なら戸惑ったかもしれない。
でも今は違う。
音の中に入っていける。
歌が、体から自然に出る。
「いいぞー!」
客席から声が飛ぶ。
ふたばは笑った。
その笑顔に、会場の空気がさらに明るくなる。
三曲目。
『この瞬間を鳴らせ』
イントロが鳴った瞬間、客席の反応が変わった。
配信で聴いてくれている人がいる。
そうわかる反応だった。
手拍子が起こる。
ふたばは胸が熱くなる。
この曲は、自分たちを外へ押し出した曲だ。
そして今日もまた、ここから広がっていく。
サビで一気に声を伸ばす。
観客の手が上がる。
はじめが後ろで叫ぶ。
美月が笑う。
れいじが隣でギターを鳴らす。
最高だった。
曲が終わると、大きな拍手が起こった。
ふたばは息を整え、マイクを握り直す。
「ありがとうございます。FirstDayです」
自分の声が、会場にまっすぐ響く。
「今日は、今の私たちを全部出しに来ました」
言いながら、ふたばは思う。
本当にそうだ。
過去じゃない。
誰かの評価でもない。
今のFirstDay。
それを見せるために、ここに立っている。
最後の曲。
『今日が吉日』
れいじが静かにギターを鳴らす。
始まりの曲。
ここまで何度も歌ってきた曲。
でも、今日のそれは少し違った。
ふたばの声に、迷いがなかった。
思い立ったその時が、始まり。
今さら遅いなんてない。
この曲の言葉が、自分自身にも返ってくる。
客席が静かに聴いている。
BLACK NOVA目当てだった客も、目を逸らしていない。
届いている。
確かに。
最後のサビ。
はじめのドラムが大きく広がる。
美月のベースが深く支える。
れいじのギターが空へ抜ける。
ふたばは全部を乗せて歌った。
音が止まる。
一瞬の静寂。
そして、拍手。
大きい。
ただの前座ではなかった。
ちゃんと戦った。
ステージを降りると、はじめがすぐに声を上げた。
「今の、よかっただろ!」
「うるさい。でもよかった」と美月。
ふたばは息を切らしながら笑った。
「楽しかった……」
れいじも小さく頷く。
「悪くない」
「それ褒めてるやつ?」とはじめ。
「かなり」
その言葉に、全員が笑った。
袖の向こうで、神崎翼が立っていた。
腕を組み、こちらを見ている。
ふたばは一瞬身構えた。
でも翼は、ただ小さく笑った。
「……ちゃんとバンドになってんじゃん」
その声は、以前のように刺々しくはなかった。
れいじが静かに返す。
「だから言っただろ。見ればわかるって」
翼は笑う。
「わかったよ」
そしてステージへ向かう。
「じゃあ、今度はこっちの番だ」
BLACK NOVAの名前がコールされる。
会場の空気が一気に変わる。
歓声が跳ね上がる。
ふたばは袖からその背中を見た。
今のFirstDayは見せられた。
でも、勝負はまだ終わっていない。
翼たちの音が鳴る。
重く、鋭く、強い音。
会場が一瞬で飲み込まれていく。
ふたばは拳を握った。
すごい。
でも、遠いだけじゃない。
いつか並ぶ。
そう思えた。
FirstDayは、確かに変わっていた。
第61話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はライブ回として、今のFirstDayの成長をしっかり描きたかった回です。
以前の彼らなら飲まれていた空気の中でも、今は自分たちの音で勝負できるようになりました。
アルバム制作や積み重ねてきた日々が、ちゃんと力になっていたのだと思います。
特にふたばは、ただ歌うだけではなく、ステージの中心に立つ存在へと変わってきました。
そして神崎翼も、ただの嫌なライバルではなく、今のFirstDayを認める存在として再登場しました。
とはいえ、BLACK NOVAの壁はまだ高い。
次回、その圧倒的なライブと、対バンの結末へ続いていきます。
引き続き応援していただけたら嬉しいです。




