第58話「十二の答え」
第58話です。
アルバム制作が始まって一ヶ月。
ついに28曲の候補が出揃い、FirstDay初のフルアルバム、その収録曲を決める時がやってきました。
選ぶということは、残すことでもあり、外すことでもある。
それぞれの想いが詰まった曲たちの中から、どんな12曲が選ばれるのか。
そして、決まった瞬間から本当の勝負が始まります。
アルバム制作に入って、一ヶ月が過ぎていた。
三階の部屋、スタジオ、ライブハウス。その三つを行き来する日々。
昼は音を出し、夜はノートを開き、思いつけば録音し、納得いかなければ最初からやり直す。
そんな毎日を積み重ねた結果――。
「……揃ったな」
れいじが机の上のノートを閉じた。
全員分のアイデア、未完成のデモ、鼻歌から生まれたメロディ。
ミニアルバムの既存曲8曲に、新たに出てきた20曲。
合計28曲。
ついに材料が出揃った。
「いやぁ、長かったなぁ」
はじめがソファに倒れ込む。
「お前、途中で寝てただろ」と美月。
「寝ながら考えてた」
「便利な頭だね」
笑いが起きる。
だが、ここからが本番だった。
アルバムに入れられるのは12曲。
選ばれなかった曲は、いったん外れる。
つまり、今日は未来を決める日だった。
翌日。
ライブハウス地下のスタジオに、いつもより人数が多かった。
メンバー四人に加え、紬。
さらにディレクターの黒田、エンジニアの佐伯も来ている。
「今日は選曲会議です」
黒田が資料を机に置く。
「感覚でも理論でもいい。とにかく、この一枚に必要な曲を選びましょう」
全員の表情が少し引き締まった。
まず確認されたのは、アルバムの軸だった。
「四人の色が見える作品にしたい」
れいじが言う。
「だから、全員の曲を最低一曲は入れる」
「それは賛成」と美月。
「じゃないとFirstDayじゃないし」とはじめ。
ふたばも頷いた。
そこからデモが流されていく。
はじめの曲は勢いがあった。
粗い。でも真っ直ぐで、ライブで化けそうな力がある。
美月の曲は洗練されていた。
空気感があり、夜に似合う。
れいじの曲は完成度が高い。
最初から景色が見えるようだった。
ふたばの曲はまだ不器用だった。
でも、言葉と温度があった。
「これ、捨てがたいな」
「でも似た系統が被る」
「こっちはライブで強い」
「これはいい曲だけど今回じゃないかも」
意見が飛び交う。
紬も最初は遠慮していたが、途中から口を開くようになった。
「この曲、朝に聴きたくなりますね」
「この曲は最初より後半にあった方が印象残ると思います」
「それ、いい視点ですね」と黒田が頷く。
佐伯も静かにメモを取っていた。
時間はどんどん過ぎていく。
決まりそうで、決まらない。
「……よし」
れいじが言った。
「まずこの二曲は確定でいいだろ」
誰も反対しなかった。
『今日が吉日』
『この瞬間を鳴らせ』
FirstDayがここまで来るきっかけになった二曲だった。
そこから残り十曲。
新曲だけで固めることになった。
何度も並べ替え、流れを見て、また崩して。
ようやく、十二曲が決まった。
一曲目『スタート』 作詞作曲 れいじ
二曲目『今日が吉日』 作詞作曲れいじ
三曲目『はじまりの季節』 作詞 ふたば 作曲 れいじ
四曲目『素直な気持ち』 作詞 ふたば 作曲 はじめ
五曲目『青春』 作詞作曲 はじめ
六曲目『予感』 作詞作曲 美月
七曲目『散歩道』 作詞作曲 美月
八曲目『この瞬間を鳴らせ』 作詞ふたば作曲れいじ
九曲目『たられば』 作詞作曲 れいじ
十曲目『ハローバイバイ』 作詞作曲 美月
十一曲目『暖かな日差しの中で』 作詞作曲 ふたば
十二曲目『君となら』 作詞 ふたば 作曲 れいじ
読み上げられるたび、空気が少しずつ熱を帯びていく。
「……すげぇ」
はじめが呟く。
「アルバムっぽい」
「ぽいじゃなくて、アルバムなんだよ」と美月。
ふたばは紙を見つめていた。
自分の名前がある。
作詞、作曲。
まだ信じられなかった。
「お前の曲、ちゃんと入ってるな」
れいじが言う。
「……うん」
それしか言えなかった。
紬はその一覧を見ながら、胸が熱くなっていた。
最初はただのリスナーだった。
でも今は、この一枚が生まれる場所にいる。
それが少し誇らしかった。
「じゃあ、明日から録ります」
黒田が言う。
「ここからは戦いです」
翌日。
スタジオに機材が並び、レコーディングが始まった。
一曲録って終わりではない。
十二曲。
ドラム、ベース、ギター、歌、コーラス、修正、再録。
気の遠くなる作業だった。
「もう三日目?」
「まだ三日目だよ」
はじめが床に寝転ぶ。
「腰が終わった……」
「お前まだドラム二曲残ってるよ」と美月。
「うそだろ……」
ふたばもソファに沈んでいた。
歌うたびに課題が見える。
昨日できたと思ったことが、今日はできない。
でも、その分少しずつ良くなっていくのもわかった。
「今のテイク、いいです」
佐伯の声。
「でも、もう一回いきましょう」
「はい……」
ぐったりしながら立ち上がる。
「プロって大変なんだね……」
「今さら?」と美月。
「今さら……」
笑いが起きる。
れいじはギターを持ったまま、静かに曲を聴き返していた。
疲れているはずなのに、目だけは鋭い。
「ここ、もう少し削る」
「ここは逆に足す」
「歌、次もっと自由でいい」
妥協がなかった。
だから全員もついていく。
疲れている。
しんどい。
でも、不思議とモチベーションは落ちなかった。
自分たちのアルバムが、少しずつ形になっていく。
その実感があったからだ。
深夜。
最後の確認を終え、スタジオを出る。
外の空気が冷たい。
「腹減った……」
「私も」
「コンビニ寄る?」
「お前ん家の一階な」
また笑いが起きる。
ふたばは空を見上げた。
忙しい。
大変。
でも、楽しい。
夢みたいな毎日だった。
十二の曲。
十二の想い。
そのすべてを、一枚にするための時間が始まっていた。
第58話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はアルバムの核となる“選曲”の回でした。
ただ良い曲を集めるだけではなく、流れや色、四人らしさまで含めて一枚を作っていく――そんな難しさを描いてみました。
そして選ばれた12曲。
それぞれの個性が入りながらも、ちゃんとFirstDayの作品になっているはずです。
後半では、いよいよ本格的なレコーディングもスタートしました。
憧れていた世界のはずなのに、現実は地味で、体力も気力も削られる。
それでも前に進めるのは、自分たちの音を信じているからだと思います。
ここからアルバムはさらに形になっていきます。
完成まで、ぜひ一緒に見届けていただけたら嬉しいです。




