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第57話「音で遊べ」

第57話です。


今回はアルバム制作が本格的に動き出します。

はじめの自由な発想、美月の感性、れいじのアレンジ力。

そして、その音の中でふたばが新しい感覚を掴んでいきます。


“曲を作る楽しさ”と“バンドで音を鳴らす面白さ”を感じてもらえたら嬉しいです。

午後からみんなで集まる。


 三階のリビングは、いつの間にか制作部屋になっていた。


 壁際にはアンプ。床にはシールド。テーブルにはノートとペットボトル。ソファには誰かの上着が投げられている。


 生活感と音楽が混ざった、今のFirstDayらしい空間だった。


「じゃあ今日は、出てきたネタを片っ端から触るぞ」


 れいじがギターを持ちながら言う。


「ついに来たな」とはじめ。


「お前の曲からな」と美月が笑う。


「え、マジで?」


「マジで」


 はじめは少し照れくさそうに頭をかいた。


「いや、曲って言っても……ドラム叩いてたら思いついたやつだぞ」


「それで十分」とれいじ。


「聴かせてくれ」


 はじめはスティックを持つと、膝を叩きながらリズムを刻み始めた。


 タタン、タタ、タン。


 少し跳ねるような、前に転がっていくようなビート。


 まっすぐではない。


 でも、妙に気持ちいい。


「……お前の曲、面白いな」


 れいじがすぐに反応した。


「型にとらわれてないのがいい」


「え、そうか?」


「普通ならここ揃えるのに、ズラしてる」


「ズラしたっていうか、なんか気持ちよかっただけ」


「お前天才じゃん」と美月。


 そう言いながら、ベースを肩にかける。


「じゃ、私も遊ぶわ」


 低音が入る。


 ドラムの跳ねたリズムに、うねるようなベースラインが重なった。


「うわ、いいね」


 れいじが笑う。


 すぐにギターを鳴らす。


 鋭いカッティング。


 短く切る音。


 空いた隙間に入り込むようなフレーズ。


 はじめがさらに叩く。


 美月が笑いながら応戦する。


 れいじも負けじと音を返す。


 三人とも、楽しそうだった。


「……すご」


 ふたばが思わず呟く。


 何かが決まっているわけじゃない。


 譜面もない。


 でも、会話みたいに音が飛び交っている。


 これが、バンドなんだ。


 そう思った。


「ふたば」


 れいじが演奏しながら言う。


「え?」


「ふたば入って」


「い、今!?」


「今」


「でも、何歌えば……」


「なんでもいい。言葉なくてもいい」


 美月も笑う。


「軽くリズム乗る感じでいけばいいから」


「頭で考えないで」


 はじめがスティックを振る。


「とにかく乗れ!」


 ふたばは慌ててマイクを持つ。


 ドクドクと心臓が鳴る。


 でも――


 リズムを聴く。


 ドラム。


 ベース。


 ギター。


 その波に意識を合わせる。


 足で拍を取る。


 身体が少しずつ揺れる。


「……あ」


 わかった。


 この感じだ。


 ふたばは声を出した。


 歌詞ではない。


 メロディでもない。


 リズムに乗る声。


 短く刻んで、跳ねるように。


 ひとつ乗ると、次も乗れる。


 身体が自然に動く。


「お、いいじゃん!」


 はじめが叫ぶ。


 れいじが笑う。


「その感じ!」


 ふたばは止まらなかった。


 いつの間にかテンションが上がっていた。


 楽しい。


 とにかく気持ちいい。


 音の真ん中に、自分がいる。


 数分後。


 全員で最後の一音を鳴らして止まる。


 部屋に静けさが戻る。


「……やば」


 ふたばが息を切らしながら言う。


「めっちゃ気持ちよかった……」


「だろ?」


 れいじが笑う。


「今までにない感じだな」と美月。


「ライブ映えするぞ、これ」とはじめ。


「これは入れよう」


 れいじが即決する。


 ノートに書く。


 仮タイトル――“ハイテンション・グルーブ”。


「名前ダサくね?」と美月。


「仮だよ」


 笑いが起きた。


 勢いのまま、次へ進む。


「じゃあ次、美月の曲」


「はいはい」


 美月がスマホのメモを開く。


「これ、昨日の夜に作ったやつ」


 ベースでルートを鳴らしながら、歌うようにメロディを口ずさむ。


 少し切なくて、大人っぽい。


 綺麗な曲だった。


 でも。


「……なんか足りないんだよね」


 美月が自分で言う。


「まとまりすぎてる」


「うん」とれいじ。


「綺麗。でもお前らしさがまだ半分」


「半分って何よ」


「遠慮してる」


 美月は少し黙る。


「……どうしたらいい?」


 れいじはギターを持ち直す。


「壊そう」


「は?」


「コード進行、思いっきり変える」


 そう言って、さっきまでの切ない流れを一気に裏切るような明るいコードを鳴らした。


「え、そこでそれ行く?」


「行く」


 さらにリズムも変える。


 四つ打ち気味の前向きなノリ。


 はじめがすぐ乗る。


「おもしれぇ!」


 ドン、タン、ドン、タン。


 ベースもつられて跳ねる。


「ちょっと待って……」


 美月は弾きながら、だんだん笑い始めた。


「……あ、これいいかも」


 さっきまでのクールな曲が、一気に景色を変えていく。


 夜の曲だったものが、朝焼けみたいになる。


「ベースライン思いついた」


 美月の指が走る。


 さっきよりずっと自由だった。


「それだな」


 れいじが頷く。


「こっちのお前の方がいい」


「なんか悔しいけど、楽しいわ」


 ふたばはそのやり取りを見ながら、また驚いていた。


 曲って、完成させるものだと思っていた。


 でもここでは、壊して、変えて、遊んで、良くしていく。


 それが普通みたいだった。


 気づけば夕方になっていた。


 窓の外が少し赤い。


「今日はここまでにするか」


 れいじがギターを置く。


「結局、三曲進んだな」


「仕事したー」とはじめ。


「お前途中でお菓子食ってただろ」と美月。


「糖分は必要です」


 また笑いが起きる。


 ふたばはノートを見つめていた。


 三曲。


 今日だけで、三曲が形になった。


 しかも全部、全然違う色だった。


「……すごい世界だ」


 小さく呟く。


「何か言った?」と美月。


「ううん」


 ふたばは笑った。


 この中に、自分もいる。


 まだうまくできないことも多い。


 でも、少しずつわかってきた。


 一人で作るんじゃない。


 みんなで作るんだ。


 ファーストアルバムは、確かに動き出していた。

第57話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は制作回らしく、それぞれの個性が音に出始めた回になりました。


はじめの型にはまらないリズム、美月の洗練された感性、そこにれいじが手を加えることで、曲が一気に生きていく。

そして、ふたばも“歌うだけではない楽しさ”を少しずつ知っていきます。


バンドの面白さは、一人では思いつかないものが四人集まることで生まれることかもしれません。


アルバム制作はまだ始まったばかり。

次はどんな曲が生まれ、誰の才能が顔を出すのか。


引き続き応援していただけたら嬉しいです。

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