第54話「届いた声」
第54話です。
レコーディングでの迷いを越え、
ふたばが“自分の声”を掴む瞬間。
そして、デビュー曲がついに配信されます。
小さくても確かな変化が動き出す回です。
ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
レコーディングスタジオ。
カーテンの中、一人。ふたばは目を閉じていた。
深く息を吸って、ゆっくり吐く。余計なことは考えない。
――周りが変わっただけ。
れいじの言葉が、頭の中に残っている。
もう一度、息を吸う。
「……この瞬間を鳴らせ」
歌い出す。さっきまでとは違う。無理に出そうとしない。合わせようとしない。ただ、自分のまま。声が自然に抜ける。サビで一気に広がる。届く。
歌い終わる。一瞬の静寂。
「……いいですね」と黒田。
「今の感じ、すごくいいです」と佐伯。
「もう一回いきましょう。今の感じで」
ふたばは小さく頷く。さっきまでの迷いが、少し消えていた。――いける。
数テイク後。
「OKです」
その一言で終わった。ブースを出る。
「……どうだった?」とはじめ。
「……なんとか」
ふたばは少しだけ笑う。
「よかったよ」とれいじ。
その一言で、力が抜けた。これが、プロの一歩だった。
数日後。デビュー曲「この瞬間を鳴らせ」が配信された。
「どう?」と美月。
スマホを覗き込む。
「……まあ、すぐバズるとかじゃないよな」とはじめ。
「そりゃそうでしょ」と美月。
それでも再生数は少しずつ伸びていた。コメントも増えていく。「いい曲」「声がいい」「ライブ行きたい」知らない誰かの言葉。ふたばはじっと見つめる。
「……すごい」
小さく呟く。ちゃんと届いている。それが何より嬉しかった。
「……でもさ」と美月。
「これ、伸びるにはまだ弱いね」
空気が少しだけ変わる。
「え?」とふたば。
「曲はいい。でも“見つかってない”。このままだと埋もれちゃうね」
はじめも頷く。
「コメントはいいけど、数はまだだな」
現実だった。少しだけ、胸がざわつく。
そのとき、ピンポーン。
「はーい」
ドアを開ける。
「お邪魔します」
紬だった。
「来てくれたんだ」「はい」
リビングに入る。
「……やっぱりいい部屋ですね」
「でしょ」と美月。
「曲、聴きました」
空気が少し変わる。
「どうだった?」とはじめ。
「……すごくいいと思います」
はっきり言う。
「普通に、もう売れる曲だと思います」
「ほんと?」とふたば。
「はい」
紬は頷く。
「あと、声。やっぱり強いです」
ふたばは少し照れる。
「……ありがとうございます」
「でも」
紬がスマホを取り出す。
「もうちょっと広めた方がいいですね」
「どういうこと?」と美月。
「今のままだと、知ってる人にしか届かないので。こういう投稿とか、この時間帯に出すとか。あと短く切り抜いて動画にするとか」
「……詳しいな」とはじめ。
「いや、見る側なんで。でも、もったいないなって思って」
その一言に、れいじが反応する。
「……なるほどな」
短く呟く。
「やってみるか」
「いいね」と美月。
「じゃあ俺動画撮るわ」とはじめ。
空気が一気に動き出す。
「今、上げてみる?」と紬。
「え?」
「短く切って、その場で投稿してみましょう」
れいじが頷く。
「やるか」
準備が始まる。はじめが動画を撮り、美月が音を確認し、紬が投稿文を考える。
「これでどうですか?」
画面を見せる。
「いいじゃん」と美月。
「上げるぞ」
投稿ボタンを押す。
数秒。数分。
「……あ」と紬。
「もう反応来てます」
「はやっ」とはじめ。
いいねが増え、コメントもつく。「これ、さっきの曲だよね?」「気になる」さっきまでとは違う動き。
「……すご」
ふたばが呟く。広がり方が、変わる。
「やり方一つで変わるんだな」とはじめ。
「だね」と美月。
紬が少しだけ笑う。
「楽しいですね、こういうの」
ふたばも笑う。不安はまだある。でも、確実に前に進んでいる。FirstDayの音は、少しずつ外へ広がり始めていた。
第54話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はふたばの覚醒と、デビュー曲の配信という大きな節目の回になりました。
まだ爆発的な反応ではありませんが、“ちゃんと届いている”という実感が、次への力になります。
そして紬の登場によって、音の広がり方が一気に変わり始めました。
ここからFirstDayは、ただ音楽を作るだけでなく、“どう届けるか”も重要になっていきます。
次回は、その変化がどう影響していくのか。
少しずつ現実が動き出していきます。
引き続き応援していただけたら嬉しいです。




