第50話「視線の先」
第50話です。
イベントの裏側で、もう一つの大きな動きがありました。
れいじの父・相田守が見ていた“FirstDayの可能性”。
そして提示される新たな選択肢。
ここから、バンドとしての決断が問われます。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
イベントから数日後。
相葉れいじは、AIDAレコード本社を訪れていた。
見慣れたはずのビル。
だが、今日はどこか違って見える。
「こちらです」
案内された最上階の一室。
ドアを開ける。
そこにいた。
「……久しぶりだな」
相田守。
父であり、日本トップのレコード会社の社長。
「……ああ」
れいじは短く返す。
向かい合って座る。
無駄な言葉はない。
「イベント、見ていた」
守が先に口を開く。
その一言で、空気が少し変わる。
「……そうか」
「悪くなかった」
淡々とした評価。
だが、それは守なりの高評価だった。
「Luminousは、予想通りだった」
「ああ」
「だが」
少しだけ間があく。
「お前たちも、通用していた」
れいじは何も言わない。
「だから決めた」
守は机の上に資料を置く。
「新レーベルを立ち上げる」
視線を落とす。
そこに書かれていた名前。
「DAYBREAK RECORDS」
「お前たち専用だ」
「……早いな」
「他も動いている」
即答だった。
「今回声をかけてきたのは二社だが、あれだけのステージを見せれば増える」
現実的な判断。
「だから先に条件を出した」
「囲い込みか」
「そうだ」
一切隠さない。
「お前の音楽を、他に渡す気はない」
まっすぐな言葉。
親としてではなく、経営者としての意思。
「条件は?」
「すべて任せる」
迷いのない声。
「曲、活動方針、制作。すべてお前たちで決めろ」
「……都合いいな」
「お前だからだ」
守は言い切る。
「お前の音楽には、それだけの価値がある」
れいじは視線を逸らす。
その言葉を、素直に受け取れない。
「……俺は一回、それで辞めてる」
「知っている」
「同じことにならない保証は?」
「ない」
即答だった。
わずかな沈黙。
「だが今回は違う」
「何が違う」
「お前が選ぶ」
短い言葉。
「誰にも強制しない。バンドだろう?」
「……ああ」
「なら、全員で決めろ」
それだけだった。
「やるなら来い」
それ以上は何も言わない。
選択は、れいじたちに委ねられた。
その日の夜。
三階の部屋。
FirstDayの拠点となったリビングに、四人が集まっていた。
まだ生活感の薄い空間。
だが、ここが今の“居場所”だった。
「……親父と会ってきた」
れいじが言う。
テーブルに資料を置く。
「DAYBREAK RECORDS」
「マジか……」とはじめ。
「専用レーベルってやつ?」と美月。
「ああ」
れいじは頷く。
「条件は?」
「全部任せるってよ」
「強すぎだろ」とはじめ。
「普通に考えたら即決だな」と美月。
ふたばは黙って資料を見ている。
書かれていることは理解できる。
でも――現実味がない。
「ただ」
れいじが言う。
「親父の力だ」
空気が少しだけ変わる。
「それ、気にしてんの?」と美月。
「してる」
即答だった。
「一回、それで失敗してるからな」
「でも今回は違うだろ」とはじめ。
「……どう違う?」
「俺たちがいる」
シンプルな言葉。
でも、それで十分だった。
れいじは少しだけ笑う。
「……そうだな」
「私はやる」
美月は即答する。
「条件いいし、音楽できるし」
「だな」とはじめ。
「ここまで来てやらない理由ないだろ」
三人の視線が、ふたばに向く。
「……私は」
言葉が詰まる。
少しだけ時間がかかる。
「……怖いです」
正直だった。
「プロって……そんな簡単になっていいのかなって」
静かな声。
「まだ、始めて……数ヶ月だし」
誰も否定しない。
「実感、ないです」
本音だった。
でも。
「……でも」
顔を上げる。
「みんなとなら、やりたいです」
それが答えだった。
覚悟というより――流れ。
でも、それでもいいと思えた。
れいじは頷く。
「……決まりだな」
誰も反対しなかった。
話し合いが終わり、それぞれの部屋へ戻る。
リビングの灯りが静かに消える。
ふたばは、自分の部屋のドアを閉めた。
ベッドに腰を下ろす。
少しだけ、ぼんやりする。
「……ほんとに?」
小さく呟く。
プロになる。
その言葉が、まだどこか遠い。
嬉しいはずなのに。
どこか現実味がない。
天井を見上げる。
さっきまでみんながいた声が、まだ残っている気がした。
「……私で、大丈夫なのかな」
不安が、少しだけ顔を出す。
でも――
ここにいる。
この場所にいる。
それは、事実だった。
深く息を吐く。
目を閉じる。
流れは、もう止まらない。
FirstDayは、次のステージへ進もうとしている。
まだ誰も、本当の意味ではわかっていない。
ここから何が始まるのかを。
第50話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は契約そのものではなく、“選ぶ前の時間”を丁寧に描きました。
条件は最高、環境も整っている――それでも迷う理由がある。
れいじの過去、そしてバンドとしての責任。
それぞれの想いが交差する回になっています。
特にふたばは、まだ数ヶ月しか経っていない中での急展開に、どこか現実味を持てていません。
その温度差も含めて、これからの成長につながっていきます。
次回はいよいよ契約。
FirstDayが本当に“プロ”になる瞬間です。
引き続き、応援していただけたら嬉しいです。




