第47話「前夜」
第47話です。
新しい拠点での生活が始まり、それぞれのリズムの中でバンドとしての形も少しずつ見えてきました。
そして、いよいよイベント前日。
日常と非日常が交差する、そんな一日を描いています。
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
新しい生活が始まって、数日。
三階の部屋はすっかり“拠点”になっていた。
昼前、ふたばはギターを手に取る。コードを押さえる。まだぎこちないが、少しずつ音が安定してきた。
「そこ、もうちょい押さえ方変えてみ」
後ろから美月が覗き込む。
「え、こうですか?」
「違う違う、こっち」
指を軽く直される。距離が近くて少しドキッとする。
「……あ」
「ほら、鳴った」
綺麗にコードが響く。
「すごい……」
「慣れだよ」
美月はベースを持ち、軽く音を鳴らす。
「合わせてみる?」
ふたばも頷く。ぎこちないながらも音が重なっていく。
「いいじゃん」
美月が小さく笑う。
昼はスタジオで練習。夜はそれぞれのバイト。そんな生活が続いていた。
ふたばは夜、ライブハウスで働く。美月はコンビニの夜シフトに入る。はじめは朝から八百屋を手伝い、昼から合流してくる。
「おつかれー」
昼過ぎ、はじめがスタジオに入ってくる。
「今日もトマト売りまくってきた」
「仕事できる男じゃん」と美月。
「だろ?」
れいじは時間に縛られず、すでにスタジオにいることもあれば、後からふらっと来ることもある。
それぞれの生活が違う中でも、自然とこの時間に集まるようになっていた。
音を出すたびに、少しずつバンドになっていく。
ある日の夕方。
ピンポーン。
「はーい」
ふたばがドアを開ける。
「やっほー!」
彩乃が元気よく入ってくる。
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」
「うわ、めっちゃいい部屋じゃん」
「でしょ?」と美月。
しばらくして、もう一度チャイムが鳴る。
「はーい」
今度は紬だった。
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
自然と女四人がリビングに集まる。
「なんか女子会じゃん」
「確かに」と彩乃。
「いいねこういうの」と紬。
そして話題は、自然とそっちに向かう。
「でさ」と美月がニヤッとする。
「れいじとはどうなの?」
「えっ!?」
ふたばが一気に赤くなる。
「なにそれ〜」と彩乃。
「気になる」と紬も頷く。
「いや、あの……別に……」
「絶対なんかあるじゃん」
「ないです!」
「目が泳いでる」
「泳いでないです!」
笑いが起きる。
「美月はどうなの?」と彩乃。
「んー?」と少し考えて、
「まあ、面白いよね」
「それだけ?」
「それだけ」
でも、その言い方はどこか含みがあった。
一方その頃。
れいじは屋上にいた。
夜風が少しだけ冷たい。
「……通過点、か」
小さく呟く。
今回のイベントは大きなチャンス。でも、それがゴールじゃない。
その先。
「……もっと、やれるだろ」
頭の中に音が浮かぶ。まだ形になっていないメロディ。
バンドの音。ふたばの声。
それをもっと多くの人に届けたい。
「……アルバム、作るか」
フルアルバムという形で、このバンドを世に出す。
「やるしかねぇな」
小さく笑う。
夜。
リビングに全員が集まっていた。
「明日だな」とはじめ。
「ついにだね」と美月。
テーブルには軽く食べ物と飲み物。
「決起集会ってやつだな」
「大げさ」
「でもいいじゃん」
ふたばは少しだけ緊張していた。
「……大丈夫か?」
隣かられいじが声をかける。
「え?」
「顔、ちょっと硬い」
「……ちょっとだけ」
「まあな」
れいじは軽く笑う。
「やることはやってきた」
その一言が、すっと胸に入る。
「……はい」
ふたばはしっかり頷いた。
「じゃあ明日は」
はじめがグラスを持ち上げる。
「ぶちかますか」
「言い方」と美月。
「でもいいね、それ」
カチン、と小さな音が鳴る。
それぞれの想いを抱えながら。
――明日。
FirstDayの勝負が始まる。
第47話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は拠点での生活と、イベント前夜の空気感を中心に描きました。
それぞれの生活を送りながらも、自然と集まり、音を重ねていく――その積み重ねがバンドの強さになっていきます。
また、女子会のようなやり取りや、れいじの内面など、キャラクター同士の距離や考え方の違いも少しずつ見えてきた回になっています。
そしていよいよ次回はイベント本番。
ここまで積み上げてきたものが試される、大きなステージになります。
FirstDayがどんな音を鳴らすのか、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。
よろしければ感想や評価もお待ちしております。




