第46話「拠点誕生」
第46話です。
イベント本番まで残り一ヶ月。
練習にも熱が入り、さらに新しい動きも生まれてきました。
今回はFirstDayにとって大きな転機となる回です。
新たな“場所”が、これからどんな物語を生んでいくのか。
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
イベントまで、あと一ヶ月を切った。
スタジオには、いつも以上に熱がこもっている。
「もう一回いこう」
れいじの声に、全員がうなずく。音が重なる。前より確実に良くなっている。でも、まだ足りない。
「……詰めたいな」
演奏を止めたあと、れいじがぽつりと言う。
「時間が足りない」
「だね」と美月。
「毎日でもやりたいくらい」
「毎日やるか?」とはじめ。
「現実的に無理だろ」
「だよなぁ」
そんな空気のまま、その日の夜。
1階のコンビニに寄ると、レジに立っていたのは美月だった。
「いらっしゃいませー」
「……なんでお前がいるんだよ」
れいじが呆れた顔で言う。
「バイト決まった」
「は?」
「人足りてないって聞いたし」
奥から登美子が顔を出す。
「助かってるわよ〜」
「マジで?」
「愛想いいしね、この子」
「でしょ?」
美月がドヤ顔をする。
「それでさ」
レジを打ちながら、さらっと言う。
「三階、空き出たんだって?」
れいじの手が止まる。
「……誰から聞いた」
「お母さん」
「母さん……」
「ねぇ、住ませてよ」
「は?」
「格安にしてね」
「いやいや」
「3LDKなんでしょ?」
「そうだけど、お前一人じゃ無理だろ」
「いけるって」
「絶対持て余す」
「……ちぇ」
少し不満そうにする美月。その横で、ふたばが少し迷いながら口を開いた。
「……あの」
「ん?」
「私も……ちょうど引っ越そうか迷ってて」
美月が一瞬でふたばを見る。
「え?」
「もし、二人で住むなら……どうですかね?」
美月の顔がぱっと明るくなる。
「それいいじゃん!」
「おいおい」
れいじがため息をつく。
「……二人か」
少し考えてから言う。
「じゃあ、本当は20万なんだけど10万でいいよ」
「えっ」
「その代わり、リビングはバンドで使うってのどうだ」
「……それって」
「拠点だな」と、はじめが言う。
空気が変わる。
「いいじゃん、それ」と美月。
「めっちゃいい」
「私も……いいと思います」
ふたばも頷く。
「じゃあ決まりだな」
れいじが言う。
「FirstDayの拠点」
その言葉に、胸が少し熱くなる。
「でさ」と、はじめがニヤニヤする。
「一部屋余るよな?」
「余るな」
「しょうがないな 俺が住んでやるよ」
「やめろ」
れいじが即答する。
「なんでだよ!」
「絶対うるせぇからだろ」
「失礼だな!」
笑いが起きる。
「でも遊びには来るだろ?」
「それは確定だな」
数日後、引っ越しの日。
三階の部屋は思っていたより広かった。日当たりも良く、リビングもかなりゆったりしている。
「うわ、広っ」
美月が最初に声を上げる。
「ほんとだ……」
ふたばも靴を脱ぎながら部屋を見渡す。
「荷物、こっちでいいか?」
れいじが段ボールを持って入ってくる。
「はい、ありがとうございます」
ふたばが慌てて答える。
はじめは小さな棚を抱えながら入ってきた。
「いやー、引っ越しって青春だな」
「意味わかんない」と美月。
「でも、なんか楽しいね」
ふたばが笑う。
「お前ら、自分の部屋の荷物は自分でやれよ」
れいじが言う。
「はいはい、オーナーさん」
美月がわざとらしく返す。
「その呼び方やめろ」
「えー、いいじゃん」
引っ越し作業は思った以上に賑やかだった。
ふたばの荷物は比較的まとまっていたが、美月の荷物は妙に多かった。
「お前、服多すぎだろ」
れいじが呆れる。
「必要なものですー」
「どれがだよ」
「全部」
「絶対嘘だろ」
「失礼だな」
はじめが横で笑っている。
「美月の部屋、服で埋まりそうだな」
「はじめは黙って荷物持って」
「はいはい」
昼過ぎには、だいたいの荷物が運び込まれた。
「じゃあ次、買い出し行くか」
美月が言う。
「リビング何もないし」
「確かに」
ふたばも頷く。
近くの家具屋とホームセンターを何軒か回ることになった。
ソファ、ローテーブル、ラグ、簡単な棚、クッション。二人であれこれ見ながら、ああでもないこうでもないと話す。
「これかわいくない?」
ふたばがクッションを持つ。
「かわいいけど、たぶんはじめが秒で汚す」
「あー……ありそう」
二人で笑う。
「じゃあこっち?」
「無難すぎるかな」
「でも使いやすそう」
そんなやり取りをしていると、後ろかられいじの声がした。
「決まったか?」
「まだ」
美月が振り返る。
「優柔不断なんだよ、この子」
「え、私だけ!?」
「半分はそう」
「ひどい」
れいじは店内を見渡して言う。
「リビングのものは買ってやる」
「え?」
ふたばが目を丸くする。
「引っ越し祝い」
「まじで?」
美月が一気に食いつく。
「ただし、リビングだけな」
「太っ腹〜」
「お前らの部屋の分までは出さない」
「ちぇー」
ふたばが少し笑って言う。
「引っ越し祝い、ありがとうございます」
「ありがとう、オーナーさん」
美月が冗談っぽく頭を下げる。
「だからそれやめろ」
「似合ってるけど」
「似合わねぇよ」
最終的に、リビングには大きめのソファとローテーブル、ラグと棚が入ることになった。
部屋に戻ってそれを配置すると、一気に“住む場所”から“集まる場所”に変わった気がした。
「……いいじゃん」
はじめがソファに座りながら言う。
「普通にテンション上がる」
「でしょ?」
美月が満足そうに腕を組む。
ふたばは部屋の真ん中に立って、ぐるっと見渡した。
広いリビング。置かれた機材。買ったばかりの家具。窓から入る夕方の光。
「ほんとに拠点になったね」
小さく呟く。
「ここで曲作って、ここで練習して、ここからライブ行く」
れいじが言う。
「悪くないだろ」
「うん」
ふたばはしっかり頷いた。
「一部屋余ってるの、やっぱ俺住めるんじゃね?」
はじめがまた言う。
「無理」
「即答!?」
また笑いが起きる。
「でもまあ、入り浸るのは確定だな」
美月が言う。
「それはもう諦めてる」と、れいじ。
「よかったな、はじめ」
「何が」
「半分住人」
「いや正式に住ませろよ」
「絶対嫌だ」
ふたばはそのやり取りを見ながら、自然と笑っていた。
ここが、これからの自分たちの場所になる。
ライブハウスでも、スタジオでもない。
でもそのどちらにも繋がる場所。
日常と音楽が混ざり合う、FirstDayの拠点。
イベントまで、あと一ヶ月。
やることは山ほどある。
でも、不思議と不安より楽しさの方が大きかった。
「さて」
れいじがリビングを見渡す。
「ここから、どんなバンドになるかだな」
その言葉に、全員が少しだけ静かになった。
でもすぐに、はじめが笑う。
「そりゃ決まってるだろ」
「ん?」
「めちゃくちゃいいバンドになる」
「雑だな」
「でも間違ってない」
美月も笑う。ふたばも、頷いた。
この場所から、また始まる。
そう思えた。
FirstDayは、新しい一歩を踏み出した。
第46話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はFirstDayの拠点が誕生する回でした。
ただの住まいではなく、「集まる場所」「音を作る場所」としての意味を持つ大切な空間です。
美月とふたばの距離も一気に縮まり、バンドとしての一体感もより強くなってきました。
こうした日常の積み重ねが、そのまま音楽に繋がっていく――そんな流れを意識して描いています。
そして、イベントまで残り一ヶ月。
ここから物語はさらに熱を帯びていきます。
この場所からFirstDayがどこまで成長していくのか、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
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